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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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もうちょっとだけ先の未来①


 五年後。

 東京都内の某国立大学にて。



「……というわけで、これがゴーレム制御の基本となる魔術式だね。オーソドックスなのだと泥や岩、変わったところだと綿の詰まったヌイグルミなんかも同じやり方で動かせるよ」



 数年前から同学の特別講師として教鞭を執っているレンリは、本日もいつものように割り当てられた大教室で魔法についての講義を行っていました。


 現在レンリの年齢は二十二歳。

 この大学に勤め始めた当時は学生達より年下の高校生くらいの年齢でしたし、日本政府の肝入りで招聘された異世界人学者とあって、色々な意味で多大な注目を集めていたものです。本人は持ち前のツラの皮の分厚さで、周りの視線などまるで気にしていませんでしたが。


 それに五年も経てば流石に周囲も慣れてきます。

 学生達に関しては進級や卒業による入れ替わりもありますが、年齢が近い分だけ中高年の教授陣より親しみ易いという見方もあるのでしょう。学食や周辺の飲食店でしばしば見かける大食いなどの奇行も、基本的には好意的に捉えられているようです。



「このゴーレムの仕組みを応用して電気制御式のロボットなんかに組み込んだりするのは、最近こっちでもよく見るようになってきた技術だね。まだ試行錯誤中みたいだけど、物理的なボディの存在しないネットワーク上の人工知能を同じようにゴーレム化できないかとかも。そのうちクラシックなSF映画みたいに機械の反乱とか起こりそうでワクワクするよね」



 レンリがいつも使っている大教室は三百人も収容可能な広さがあるのですが、幸いなことに満員御礼が常。もちろん同学に通う学生が主ですが、時間の空いた他学部や他校の教授、聴講の許可を取った工業系メーカーの技術者、時に自衛官や警察官らしき人々まで授業を聞きに来ています。


 極めて特例的ではありますが、魔法関係の技術を少しでも早くモノにすべく、日本国の方針としてこういった態勢を推進しているのでしょう。まあ教える側のレンリにとっては、相手がどこの誰だろうがやることに違いはないのですけれど。



「そうそう、これは必要な魔力が多すぎて私も作るのは無理なんだけど、ゴーレム技術を応用すればスポンジ生地と生クリームで出来たロールケーキなんかも歩き出したりするんだよね。いや、ギャグじゃなくて。マジで、マジで。ウケてるとこに水を差すようだけど、何故かサムライみたいなゴザル口調で喋るのが本当にいるんだって」



 まあ魔法という技術の注目度を抜きにしても、レンリの講義はかなりの人気ぶり。今もそうであるように笑いを取って教室(フロア)をドッカンドッカン沸かせるのもしょっちゅうです。海外ブランドのスーツで上下ビシっとキメた姿もなかなか様になっていました。


 ちょっと話題の脱線が多かったり冗談なのか本気なのか分からない発言も多々ありますが、魔法初心者の日本人の理解度に合わせて分かりやすく教えてくれますし、授業時間外でも食べ物を貢げば学食や図書館の一角などで学生相手に臨時の個人授業などもしてくれます。

 近頃ではレンリを効率的に餌付けすべく、真面目で熱心な学生ほど大量のお菓子をカバンに常備するようにもなってきました。



「おっと、そろそろ締めの時間か。それじゃあ、次回からは実際キミらにゴーレム魔法の実践をしてもらうから。なに、別に失敗したから即落単なんて無慈悲な真似はしないから気楽に来てくれたまえ」



 本日の講義も予定通りに終わったようです。

 レンリが教えるのはゴーレム関係ばかりでなく、呪文を唱えて様々な現象を起こすオーソドックスな詠唱魔法であるとか、何らかの物品に特定の印を刻む刻印魔法、形のない概念操る概念魔法、等々。

 人間の運動能力を何倍にも強める身体強化魔法の講義の時などに、現役のプロスポーツ選手や体育大学の学生が押しかけてくるのも、すっかり日常の光景になってきました。


 治安維持上の観点から、殺傷能力の高い魔法や他者の精神を操作するタイプの魔法は教えないよう日本政府や大学からも念を押されていますが、まあ大体それ以外でレンリが知っている全部が担当範囲ということになるでしょうか。


 教わるほうも大変ですが、それでも真面目に講義を聞いていれば大抵の学生は一年かそこらで初歩的な術の三つ四つくらいは使えるようになるものです。


 ほとんどは手品に毛が生えたくらいの魔法ですし、それが即座に国力の向上に繋がるかというと怪しいにせよ、魔法に限らずどんな分野も基礎を疎かにしてはその先の進歩はあり得ません。

 今はまだまだ国全体で基礎固めを徹底すべき時期なのでしょう。いずれは彼ら彼女らの中から、師たるレンリを上回るような大魔法使いが出てくることもあるかもしれません。




 ◆◆◆




「先生、ちょっとお話いいですか?」


 講義を終えて大教室を出たレンリは、顔見知りの女子グループに呼び止められました。

 学生の中には大勢いる中で積極的に発言や質問をするのが苦手な者もおりますし、そうした生徒が授業後に声をかけてくることも珍しくはありません。

 幸い、レンリの今日のスケジュールは今の講義で終わり。彼女達が望むなら、これから適当なカフェにでも移って話をしても良かったのですが、



「あ、いえいえ。そういうんじゃなくてですね」


「ほら、明日から連休じゃないですか?」


「それで有名パティシエ監修のスイーツビュッフェに皆で行こうと思ってるんですけど、レンリ先生も一緒にどうかなって」


「へえ、それは光栄なお誘いだね」



 どうやら用事は授業内容とは無関係のものだったようです。

 年齢が近いおかげもあってか、レンリがこうした誘いを受けるのは普段からよくあること。もちろん仲が良いからといって成績評価に手心を加えたりはしませんが、そんな下心などまるでなく仲良くしたいと思っている学生は少なくない様子。レンリ個人としても、そうした異世界の友人達のことは好ましく思っておりました。



「ふふふ、甘い物をエサに先生を誘き出して……」


「わざと遅くまで連れ回して……」


「一緒にお泊り……お風呂……裸の付き合い……」



 まあ、成績とは別方面の下心はあるかもしれませんが。

 年下の同性に無自覚に懐かれるのは日本においても変わらぬようです。

 世の女子校には毎年二月にバレンタインのチョコを山ほどもらうタイプの女子がおりますが、それと同じようなものでしょうか。レンリ本人はそうした好意の種類違いには一切気付かず、講師と学生の垣根を越えた友情を呑気に喜んでいるのですけれど。



「あ、でも残念。実は明日から大事な用事があってね」


「そ、そうですか……」


「ち、ちなみにどんな用事か聞いてもいいです?」



 それに普段なら甘い物で難なく釣られてくれるレンリも、今回はどうしても外せない用事がありました。他の用件ならいざ知らず、こればかりはすっぽかすわけにはいきません。



「うん、学都(あっち)で大事な友達の結婚式があるんだよ」



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