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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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ちょっとだけ先の未来⑥


 案ずるより産むが易しと言うべきか。

 あの式典の日より前には、異世界との接続や新しい神々の存在が世間に受け入れられるのか、あれやこれやと想定される反応とその対策を考えたりもしたものですが、いざXデーを越えてみれば全くの杞憂でした。


 別に数々の備えが無意味だったわけではありません。

 事前に一般の人々の心理的抵抗を弱めるために展開していたプロパガンダ作戦の成果であるとか、あるいは例の夢オチによって全人類が僅かなりともネタバレを喰らっていたおかげもあるのでしょう。


 地球との交流にせよ、新しい神々や勇者にせよ、もちろん驚かなかったわけではないにしても、驚天動地とまではいかない。どちらかというと、あのヘンテコな夢の中で覚えた数々の疑問点に対して「なるほど、アレはそういうことだったのか」と腑に落ちる気持ちが主だったのではないでしょうか。



 まあ、過程はどうあれ世界を揺るがす大ニュースは諸手を挙げて歓迎されたわけです。

 十数年前に魔界と繋がって以降の経験も、そうした反応を後押ししていました。

 別の世界と繋がってから面白いモノがどんどん入ってくるし、景気が見る見るうちに良くなって皆のお財布もどんどん肥え太る。そんな一生に一度あるかないかの大ボーナスに、まさかの二度目(おかわり)があるとは嬉しい誤算。


 商売や人の行き来が本格化するのはまだこれからですが、なに、焦ることはありません。魔界の時の経験から計算すれば、数か月から遅くとも一年以内には本格的にヒトやモノの流れが動き出すだろうと、商人達も抜け目なく計算しています。大商会の会長がもっともらしい根拠を添えてそうした予測を語る記事が載った新聞は、飛ぶように売れたものです。


 各国の大きな街では目立つ場所に電気式の大型モニターが設置されて、地球の文物を紹介する動画であるとか、その国の王様と地球のお偉いさんが友好的に話す様子が生放送で映し出されたりなど、幅広い角度から地球への興味を引きたてるプロパガンダ作戦は未だ継続中。


 かつて昭和の時代の日本で、当時はまだ数が少なかったテレビを観るため電気屋の軒先に大勢の人々が集まったような光景が、この時期あちこちの街で見られました。


 一回だけ、ほんの短い時間ではありましたが、日本のお偉いさんに頭を下げて頼まれたリサとユーシャの新旧勇者コンビがモニター越しに世界の人々に挨拶をした時などは、世界中の人々が狂喜乱舞したものです。当のリサは人々の熱狂ぶりに恐れをなして、結局生出演はこの一回きりとなったのですが。



 と、このように。

 一部行き過ぎた部分があるにせよ、新時代の推移は非常に順調。

 世界中のほとんど誰もが約束された幸福を今から楽しみに待っていました。



「ああ、もうっ! だから、私は優しくなんてないんだってば!」



 未だ『慈愛の呪い』との付き合い方に苦心するレンリを除いてではありますが。




 ◆◆◆





 式典から五か月ほどが経った頃。

 レンリは故郷にいた頃からの友人であるアンナリーゼ達と共に、学都某所の工事現場にやって来ていました。昨今の学都では国内外の商会が異世界貿易のための拠点を確保すべしと不動産価格が急上昇しつつあるのですが、そうした値上がりを見越していたレンリは事前に土地を確保済み。


 もっとも土地があっても建築業者の人手が足りず、着工までにそこそこかかってしまったのですが、こうして最近ようやく工事が始まった。本日はその進捗確認というわけです。



「あれもこれもと欲張ったからね。思ったより時間もお金もかかりそうだけど、せっかくの秘密基地なんだから夢とロマンをありったけ詰め込むのが正道というものさ」


「ええ、まさしく。今から完成が待ち遠しいですわ」



 現在の学都の不動産事情を考えたら贅沢極まりませんが、レンリやアンナリーゼ達が共同出資して作っているのは仲の良い友人達が自由に出入りして遊ぶための秘密基地。秘密基地というのは子供が拾ってきた木の枝や板やロープやらを材料に手作りするのが一般的なのでしょうが、そこは金銭感覚が常人離れしているお嬢様軍団(レンリ含む)。


 広大な土地に立派な豪邸を建てて、それを自分達の秘密基地とするつもりなのです。

 ここにいる面々以外だけでなく、ルグやルカ、シモンやライム、迷宮達といった親しい全員分の私室はまだ序の口。マールス邸には置き切れなくなったレンリの資料を入れる書庫や、集めた刀剣を納めるコレクションルーム。レンリの食欲にも対応可能な食糧倉庫に大きな厨房。ワインセラーや大浴場。ビリヤードやダーツ、カードゲームにボードゲーム、日本製の電子ゲーム等々が遊べるプレイルーム。大規模なパーティーにも対応可能なダンスホールも備えています。


 まあ、秘密基地に関しては何も問題ありません。

 完成したら四六時中ウル達が入り浸るに決まっていますし、レンリを慕うアンナリーゼ達が密かに狙っているような展開には恐らくならないでしょうが、それも本人達以外にとっては特に問題ありません。


 それ以外の問題を挙げるとするならば。



「ふふふ、世間の皆様にもようやく人を見る目が備わってきたようですわね」


「こらこら、アン。人がこうして困ってるのに無責任なことを言うんじゃあないよ」



 こうして工事現場の前にいる今も、周囲の職人や通行人がレンリに向けてくる生暖かい視線こそが大問題。恐るべき『慈愛の呪い』の効力は時間が経っても衰えることなく、レンリの優しさを余すところなく世間の皆様へとお伝えしていました。変化がないのは元からレンリの人となりをよく知っていた友人くらいです。


 なんだか、すごく優しそうな子だなぁ。

 そうか、あの顔は夢の中で神様を助けた少女だったっけ。


 なにしろレンリの顔は、今やその功績とセットで世界中の人々に知られてしまっているのです。自分達が今もこうして幸せに暮らせているのは彼女のおかげ。あんな風に心優しい人になりたいものだ、等々。流石に直接声をかけてくる人はそう多くはないものの、その内心は手に取るように分かってしまいます。


 外出するたびにジロジロ見られてはとても平静ではいられません。今もアンナリーゼ達に愚痴を零しながら、恥ずかしさで顔が真っ赤になりそうなのを必死に堪えておりました。


 

「うぅ、ラメンティア君め。呪いをかけた張本人に解かせるにしても、今頃どこにいるかも分かんないし。まったく、ガラにもなく大人しくしてるんじゃあないよ」



 もしラメンティアがどこかで悪さをしてくれれば、平和の為という名目で戦いの機会に飢えた連中をまとめて送り込んで拘束。無理矢理にでも呪いを解かせるつもりだったのですが、レンリにとってだけは不幸なことに、彼女が関わったらしき事件の噂などはまるで聞こえてきません。

 人知れず野垂れ死んだということはまずあり得ませんが、そのお行儀の良さがなんとも不気味。なんにせよ、今すぐ呪いをどうにかする方法はなさそうです。

 


「ほら、坊や。あのお姉さんみたいに優しい子になるんだよ」


「うん、ぼく、あのお姉ちゃんみたいになるー」


「ぐわぁぁぁっ……!?」



 工事現場からの帰り道、見知らぬ親子連れに死角からの奇襲アンブッシュ褒めを喰らったことに精神を擦り減らして足取りを怪しくしながらも、どうにかこうにかマールス邸まで帰還。

 以前ならまだこれから飲食店を何十軒とハシゴしていたような早い時間ですが、最近はどこにいても注目されすぎて居心地悪く、無目的にフラフラ歩き回ることも少なくなってきました。


 秘密基地が完成したら、雑事は友人達に丸投げして本格的に引きこもり生活を始めるべきか。半ば本気でそんな風に考えるほど悩んでいたのですけれど……。



『あ、おかえりなの。お姉さんにお手紙が来てるのよ?』


「ああ、ウル君ありがと。封筒の感じからすると日本の誰かかな。どれどれ…………勧誘? あっちの大学で教鞭を?」



 呪いが効果を発揮するのは、この世界のみ。

 思わぬところから、解決策がやってきました。



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