いよいよ最後の後始末
『……くくっ、見事だルカよ。悪の、負けだ』
どうにか潰れた頭部の回復はできたものの、不死身に関してはこれで打ち止め。
またも地味な嫌がらせに励んで女神を不安がらせればお手軽に元通りになるにせよ、少なくとも今回のケンカについてはこれで決着でしょう。
殺意も悪意もない意識外からの不意打ち。偶然にせよ武術の奥義めいたルカの一撃により、しつこいラメンティアもとうとう負けを認めるつもりになったようです。
「やったー、私達の勝ちだ!」
『こらこら、レンリ。結局全然戦っとらん奴が、急にしゃしゃり出てきて代表者ヅラで勝ち誇るでない』
「ふっ、見たかいラメンティア君。大切なものを守るためなら、具体的には自分達の快適な生活と心身の安全のためなら、私達はいくらでもセコくなれる! 普通なら恥ずかしくてできないような卑怯な真似だって躊躇いなくできる。一人を多勢でボコボコにしても、絆の力と言い張ってなんだか良いことしてる風な空気に浸ることができる! これが人間の、いや神々の……いいや、この世界の力だ!」
『心当たりが結構あるせいか、どれもこれも否定しづらいな……というか、そなたらはこの世界の強みがそれで本当にいいのか?』
ちなみに現在のラメンティアは巨大化していない通常サイズ。
同じく鈍器として使用された聖杖も、ラメンティアが能力を解除したら表面の赤いガラス状の謎物質が消えて女神が操作できるようになりました。こちらも現在は一般的な杖サイズです。
『ま、今回は悪も学ばせてもらった。まさか普段は如何にも無害そうに大人しくしておいて、ここぞという場面で急に凶悪な本性を明かすとは。ルカがそんな狡猾さを秘めていたとは夢にも思わなんだ』
「ち、ちが……そんな、狡猾とか……ないです」
『くかかっ、そう謙遜するでない。これでも褒めておるつもりなのだ』
「だ、だから……そうじゃなくてっ」
後頭部を鈍器でグチャっとやるのは一般的な常識だと凶悪犯罪ではありますが、今回については本当に純然たる偶然の事故。故意ではなく過失なのでギリセーフです。狡猾さ云々は、ラメンティアも分かった上でルカをからかっているだけでしょう。
純粋な強さ比べに関しては、またも消化不良感が残る結末になってしまいましたが、これでも一応決着は決着。勝利そのものというよりもレンリやラメンティアのおふざけを見てではありますが、他の皆も朗らかに笑っています。最後に笑って気分よく終えるという目的だけは、どうにか達成できたのではないでしょうか。
『くく、素直に負けを認めるというのも案外……まあ、実は今のは三本勝負の一本目だったわけだが』
「こらこら、急に聞き覚えのないルールを追加して粘るんじゃあないよ」
『そうそう実は昨日徹夜しててな、寝不足じゃなければ楽勝だったのだがなぁ。考えてみたら、ちょっと風邪気味だった気もするし。さっきのはナシにして、ここは日を改めてやり直すべきではないか?』
「こらこら、だからゴネ得を狙わないでってば。生後一日未満が徹夜も何もないだろうに。あとキミに感染するような風邪菌は、私にとっては明らかにオーバーキルだから実在しないことを願うばかりさ。というか、今更ながらに負けた悔しさの実感が湧いてきた感じ?」
『うむ、実に、まったく面白くない。潔さなどクソ喰らえだ! 悔しい、悔しい! 次があったら今度こそケチョンケチョンに叩きのめしてやるから見ているがよい!』
「そうかい、そうかい。ま、精々頑張りたまえ。それにしても……ははは、勝者の高みから敗者が悔しがる様を眺めるというのは気分が良いね!」
『だから、レンリは全然戦っとらんだろうが!』
まだ戦い足りなさそうな面子はいるものの、流石にここからの再延長戦はありません。ラメンティアが今回の屈辱を晴らすには、リベンジに相応しい機会を待つ必要があるでしょう。それが明日か百年後かは分かりませんが。
「さて、それじゃあ今度こそ本当にお開きかな? 壊れた建物や怪我人については、これから神様がネム君を真化させれば何とかなるとして。あとは簡単でもいいから何か飲み食いして、それからお風呂に入って、そのままベッドにダイブといきたいところだね。全部が終わる頃には、もう明け方かな?」
関係者の誰もがうんざりするほど長かった一日も、今度こそ本当に終わり。
残っているのは、せいぜい軽めの打ち上げと後始末くらいのものでしょう。
『愉快ではないが敗者の義務だ。悪も片付けを手伝ってやるから平身低頭して感謝せよ……あ、忘れておった』
妙なところで律儀な義理堅さを発揮するラメンティアにも、諸々の後始末を手伝うつもりはあるようです。それは、例えば……。
『おい、もう動いてよいぞ』
「……あれ、もういいの?」
そこらの地面に転がっていた魔王が、最初から何事もなかったかのようにムクリと起き上がりました。




