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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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会心の一撃

本日二話目の更新です。

順番飛ばしにご注意ください。


 ばき、べき、ばきり。

 結果はレンリが見込んだ通り。


 ルカ大先生の圧倒的なパワーにかかれば、未知の謎物質もなんのその。

 彼女の『星を掴む』力であれば、距離もサイズも無視して数キロ先の杖を動かすのも簡単です。表面に纏わりついた赤い塊をばきばきと砕きながら、聖杖はゆっくりと地面から引き抜かれていきました。



「こちら、レンリ。ヨミ君聞こえるかい?」


『感度。良好。うん、聞こえているよ。聖杖の足下付近にいた人達には、安全のために離れてもらっているから安心して』



 予期せぬ事故を防止するために、ヨミとアイには例の超感覚で逐一連絡を取りながら杖周辺の広場で待機してもらっています。なにしろ、モノは地上二千メートルにもなる巨大すぎる杖。引き抜いた後には大きな穴が残るでしょうから、不用意に近付いた人々の落下事故に注意すべきなのは言うまでもありません。引き抜く過程で砕けた赤いガラス質の塊が頭上から落ちてくる可能性だってあります。



「おっと、表面のヒビが一気に広がったような……ルカ君、もうちょっと握りを緩めてくれるかい? 引き抜くスピードも、もうちょいゆっくり目で」


「う、うん……これで、どうかな?」



 ただ単に謎物質で封印された杖を引き抜くだけなら簡単です。

 しかし、何も考えずに一息に抜こうとしたら、今度はうっかり力を入れ過ぎてせっかくの貴重な神器そのものを握り潰してしまいかねません。



「おっ、そろそろ全部抜けたみたいだね。地面に刺さってた部分を合わせると、ええと元々見えてた地上部と比較して……ざっくり五千メートルくらいかな? あの杖、あんなに長かったんだ」


「ふぅ……それで、その……ここからは?」


「ああ、いつまでも街の上空に浮かべておくわけにもいかないか。ていうか、神様。地下に埋まってた部分についてはあの赤いのがへばり付いてないっぽいけど、まだ神器の操作はできない感じ?」


『うーん、神力を飛ばして試してみたけどできないみたいですね。最悪、あの表面の赤いのを地道に全部剥がしてからじゃないと無理かもです』


「うっわ、面倒くさい!? 時間がかかりそうならいつまでもルカ君の手を塞いだままにしておくわけにもいかないし、一旦どこかに転がしておく? 一応、普通の武器とか魔法で効果あるかの検証もしておかないとだし」



 どうにか引き抜くことには成功しましたが、これで即解決とはいかないようです。

 赤い謎物質の性質を更に調査し、聖杖の機能に悪影響が出ていないか調べる必要もあるでしょう。迷宮達を進化ならぬ真化させることさえできれば、あとは簡単に全部の問題が片付くと思っていたのに、なかなか上手い話というのはないものです。



「じゃ、ルカ君。悪いんだけど、あの杖をこの辺まで引き寄せてくれるかい?」


「うん……よいしょ、っと」


「近くで観察すれば何か分かるかもしれない、し……ハックショイ! っと、失敬。いくら春とはいえ、この時間は流石に冷えるね」



 ところで話は変わりますが、現在の季節は春。

 昼間はポカポカ暖かくなってきましたが、深夜ともなればまだまだ肌寒い頃合いです。途中で何度か休憩を挟んだとはいえ今日は皆ほとんど屋外にいましたし、身体が冷えてクシャミの一つや二つ出るのも無理のないことでしょう。



「これが終わったら、ぐっすり寝る前にまずお風呂入りたいよね。ほら、戦ってる皆が遠慮なく土埃だの何だの撒き散らすものだから、すっかり体中埃まみれになっちゃったよ」


「ふふ……お風呂、いいね……あ」



 寒さによる身体の冷えに加えて、戦闘の影響により撒き散らされる土煙に砂埃。

 風向きによっては、それらのせいで鼻がムズ痒くなることもあるでしょう。

 ますますクシャミの一つも誘われそうな状況です。



「は……はっ……」



 ルカも、なるべく我慢しようとは思ったのです。

 重い物を運んでいる最中にうっかりクシャミなんてしようものなら、どんな事故が起きるか分かりません。とはいえ、意志力の強さだけで100%クシャミをせずに済むのなら、耳鼻科医の仕事はずいぶん楽になるでしょう。端的に言えば我慢するのは無理でした。



「は……くちゅんっ」




 ◆◆◆




 その少し前。

 ラメンティア達のケンカは白熱の一途を辿っていました。



『くかかっ、そう何度も技を見せたのは失敗だったな!』



 始まった直後はウル達がやや押していたのですが、現在はラメンティア優勢。

 混沌迷宮に喰われたことで神力をごっそり奪われ、なおかつ女神の心が晴れたせいで死にかけた直後ではありますが、それであっさり押し負けることなく更なる粘りを見せていました。



『なるほど、人間の技というのも案外面白いではないか』



 実のところ、ラメンティアに先程ほどの不死性はありません。

 ネガティブワードを吹き込まれたり今回の事件の責任追及を恐れた女神が、半ば勝手に不安を覚えたおかげで一度消滅しかけた時に比べたら持ち直していますが、その程度のストレス量では得られる不死身度合いも高が知れています。


 恐らく、首を落とされるような大ダメージから回復できるのはあと一度か二度程度。並の神経をしていれば死の恐怖から逃げ回るばかりになってもおかしくありませんが、それで怖気づくような存在ならば、そもそもこんな延長戦を提案などはしないでしょう。


 とはいえ、さっきまでのような不死身頼りの雑な戦い方をしていたら、あっという間に敗北必至。そこでラメンティアが着目したのが、シモンとライムが使う人間の武術の技でした。


 自らの『学習能力』を『強化』しながら彼らの動きを観察し、すぐさま模倣。

 もちろん全てを一発でマスターすることなどできませんが、相手の動きを予測する先読みや受けた攻撃の威力を流す防御法など、この短時間で覚えたとは思えないほどの上達ぶりを見せていました。


 山のような巨体でありながらも、風のような身軽さによる縦横無尽の立ち回り。

 無尽蔵にすら思えた不死身っぷりを失っても、そもそも致命傷を受けないような戦い方を覚えれば問題なし。なんなら、さっきまでより更に強くなってすらいるかもしれません。



『くくっ、まったく自分の才能が怖いほどだ』



 こうした大口も自信過剰とは言えないでしょう。

 むしろ、事実を正確に言い表しておりました。

 迷宮達から受け継いだ各種能力や優れた肉体性能を抜きにしても、その戦闘センスに疑いの余地は皆無。異世界の数多の神々基準で考えても、これほどの戦闘の天才は滅多に見当たらないはずです。


 些細な目線の動きや重心の変化から相手の動く先を読む。

 あるかないかの殺気を元に、相手が次に何をするかを予想する。

 

 瞬きの回数や無意識に表れる筋肉の緊張。

 各関節の曲げ方や息をするタイミング。

 参考となる情報は、毎秒無数に表れては消えていきます。その中には、あえて誤った予測へと誘導するため意図的に紛れ込ませた誤情報もあるでしょう。


 そうして騙されるのも今は貴重な経験です。

 読みの精度は刻一刻と向上し、なおも驚異的な速度で上昇するばかり。



『いいぞ、もっと引き出しを見せてみろ!』



 シモン、ライム、ウル。

 三人の一挙手一投足を見逃すまいと全神経を集中して……そして、そのせいで意識外から迫る危機への反応が遅れてしまったのでしょう。戦闘の過程で何度も立ち位置を入れ替えるうちに、界港方面に背を向ける格好になっていたのも不運でした。



「は……くちゅんっ」



 可愛らしいクシャミが聞こえた次の瞬間。



『さあ、どこからでもか、かっ……!?』



 クシャミをした弾みで振り下ろされた聖杖が、ラメンティアの無防備な後頭部に会心の一撃(クリティカルヒット)。先程ほどの不死力がない状態で、首から上が一気にグチャっといきました。



「え、わたし……? ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ……だ、だだ、大丈夫!?」



 遅まきながら自分のやらかしに気付いたルカは、顔を青くしながら何度も頭を下げていましたが、そもそも不意討ちや飛び入り歓迎と大口を叩いていたのは他ならぬラメンティア本人。あと一回くらいはギリギリ肉体の再生もできるでしょうが、ケンカについてはこれで勝負アリといったところでしょうか。


 というわけで、最後のケンカはこれにて決着。

 勝負に参加したつもりすらなかったルカが、この戦いの勝者となってしまいましたとさ。



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