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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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うんとこしょ、どっこいしょ。それでも杖は抜けません


 世界との合一化によって真なる神へ。


 それ自体は今日の早い段階で開示済みの情報です。

 聖杖『アカデミア』に秘められた機能についても同様に。

 そのせいでラメンティアが途中から異常にパワーアップしてしまい、一時は全滅寸前の大ピンチにまで陥ったわけですが……まあ、そのあたりを掘り返す意味はないでしょう。



「要は、あの杖を使えばネム君達を一気にパワーアップさせることができる。それで私達の責任を有耶無耶にして誤魔化しつつ、世界中の被害をなんかこう良い感じに回復させようというわけだね。というわけで、善は急げだ。神様、一丁パパっとお願いするよ!」


『ええ、お任せ下さい……無理でした!』



 今件に関して多大なる責任があるレンリと女神は、さっさと後始末を済ませたかったのですけれど、残念ながらそう簡単にはいきません。


 本日の前半。

 運命剣プレゼンツのドキュメンタリー映像で予習した時には、女神役の女優が手をかざしただけで巨大な聖杖が見るみるうちに細く小さくなって手の中に飛び込んできたはずなのですが、残念ながら本物の女神がいくら半泣きで両手をバタバタ振り回しても杖はピクリとも動きません。



「剣の私が上映した映像の脚色度合いがオーバーすぎた……ってワケじゃあないんだろうね。本来であれば、あの上映会で観たみたいに聖杖がお手頃なサイズに縮んでビューンと飛んでくるはずだった、でいいかい?」


『そのはずなんですけど……もう一度気合を入れて、ぐぬぬっ』



 うんとこしょ、どっこいしょ。

 それでも杖は抜けません。


 とはいえ、これに関しては女神が何か失敗したわけではありません。元々は想定通りに縮んだり飛んできたりする聖杖側に、想定外のトラブルが発生しているのが原因でしょう。



「まあ、トラブルも何も見ての通りなんだけど。あの表面の赤いのって、たしかラメンティア君が降らせてた魔物になる雨が固まったやつだったよね?」


『ええ、そうだったかと。聖杖の全面をガッチリ固めちゃってて、ピクリとも動きそうにないですねぇ』



 先程、ラメンティアが世界中に降らせていた赤い雨。

 その大半は雨粒が集まって魔物に変化していましたが、聖杖の付近に降ったモノだけは他と異なる変化を見せていました。大量の赤い水が巨大な塔の如き杖の表面を隙間なく覆った上で硬化。まるで赤いガラスか氷のような状態へと変化して、聖杖の使用を封じられてしまったのです。



「神様の操作を受け付けないってことは、あれ自体に神力を遮断するような効果でもあるのかな?」


『さあ、どうでしょう? でも、元々ラメンティアさんがああやって杖を封じたのは、わたくしが迷宮の皆を強くして再逆転されないようにとの戦略上の理由でしょうし、今なら普通にお願いするだけで解除してもらえるのでは?』


「そうかもしれないけどさ、でも、あの調子だと下手したらまだ何時間とかかかりそうだよ? 途中でケンカの邪魔したら、彼女の性格上ヘソを曲げて協力どころか邪魔してきかねないし。私達の責任を誤魔化すのには……じゃなくて、被害にあった世界中の人達を助けるなら一秒でも早く対処すべきなんじゃあないかい?」



 元々の下手人であるラメンティアなら赤ガラスっぽい謎物質を綺麗さっぱり消し去れるのかもしれませんが、ケンカが終わるのを悠長に待っていたら何時間かかるか分かりません。

 かといってケンカの途中で水を差したら、機嫌を損ねたラメンティアは意地でも能力を解除してくれなくなる恐れもあります。


 今回未曾有の被害に遭った善良なる一般市民の皆様の心情を鑑みるなら、一刻も早い対処が必須である。レンリのそういった意見には女神も大筋で賛成。ラメンティアに頼らず、杖の封印をどうにかする方法を考えるのが現状できるベターではあるでしょうか。



「ねえねえ、ヨミ君にアイ君。そんなワケだから、試しにアレを殴って壊せないか調べてきてくれないかい? ここからだと何キロもあるし、私達の足で歩いて行くのは時間がかかって面倒だしさ」


『実験。了承。うん、我は別に構わないよ』


『ふ、フレーフレーお姉ちゃん……えっ、あ、我? な、何です?』



 マイペースにケンカの実況解説を続けていたヨミは了承。

 その隣でウル達への声援を送っていたアイは、話をちゃんと聞いていなかったのか急に名前を呼ばれて戸惑っていましたが、詳しい事情を聞いたら彼女も請け負ってくれました。


 まず最初の実験は単純な衝撃を与えて破壊可能かの調査です。

 姉妹の中でも固有能力や性格が戦闘に向いているか否か、あるいは戦闘経験やそういった方面のセンスの有無などといった違いゆえ戦闘能力に差はありますが、それでも単純な身体能力だけなら末妹のアイも戦闘大好きな上の姉達と同じくらいあるはずなのです。


 特に戦闘経験が少ないアイなどは戦って敵を倒せと言われたら困ってしまいそうですが、物言わぬ謎物質を殴るだけなら抵抗感も少なくて済むでしょう。


 界港跡から学都中央の聖杖までは、直線距離で三キロくらいでしょうか。

 まだ生き残っている魔物であったり壊れた建物が道を塞いでいたり、常人の足でそこまで行くのは大変ですが、ヨミ達ならば往復で何秒もかかりません。



「ああ、そうそう。首尾よく割れたら、破片のサンプルをいくらか確保しておいてもらえるかい? よくよく考えたら、あの赤いのってこれまでこの世に存在しなかった新物質なわけだし。さっき言ったような神力を遮断するような効果が本当にあるかは分からないけど、後で落ち着いたら加工して剣にできないか試してみようかな」


『回収。了解。まったく抜け目のないことだね。それじゃあ、アイ。ちょっと物言わぬ謎物質を一発シバきに行ってこようか』


『う、うん、それじゃあ』



 アイとヨミは、うっかり聖杖を飛び越さぬようよう加減して跳躍。

 直後、街のほうから『ガンッ』や『ゴッ』といった打撃音が聞こえてきました。



『帰還。報告。何アレ、()った!? 思いっきり叩いてもビクともしないんだけど!』


『我も全然無理。あと、近くで見たら杖の表面だけじゃなくて、辺りの広場の地面一帯が同じのでガチガチに固まってるみたい』



 まあ、残念ながら成果は芳しくなかったようですが。

 行って、殴って、戻ってくるまで計十秒くらいだったでしょうか。

 ヨミとアイが全力で殴ってもビクともしないとなると、既知のあらゆる物質を凌駕するほどの強度があるか、あるいはレンリが推測したように神の力を著しく弱めるような性質があるのか。

 後者だとしたら、後でウルやヒナに頼んでも無理かもしれません。下手をすれば、仕掛け人であるラメンティア自身ですら解除できない可能性すらあります。


 しかし、ここまではレンリも事前に想定済み。

 打撃による衝撃ではなく高熱や酸で破壊できないか試してみる、あるいは神の力云々が関係ないシモンやライムに頼む手もありますが、ここはもっと頼りになる人物にご登場願うべきでしょう。



「というわけで、出番だよルカ君!」


「う、うん……あれ? なんだか、さっきも……同じようなこと、あったような?」


「ははは、それはきっと気のせいさ! さあ、遠慮なくやってやりたまえ」



 というわけで、混沌迷宮の一件に続いてまたもやルカの登板です。

 パワーに関しては仲間内でも比類なき、なおかつ神の力と関係のない彼女なら、きっと頑固な汚れがこびりついた聖杖も見事に引っこ抜いてくれるだろう、と。


 レンリのそういった見立ては決して間違ってはいませんでした。

 それが予想外の結果を招くことまでは想像もしていませんでしたが。



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