責任逃れの為の賢い方法
本日二話目の更新です。
順番飛ばしにご注意ください。
どぉん、どぉん。
空気を震わせる音に合わせて夜空がパッと明るくなります。
まあ、頭のおかしい連中がド突き合いをしているだけなのですが。
考えようによっては打ち上げ花火のような風情がギリギリ感じられなくもないと一瞬迷った末に、やっぱり冷静になってアウト判定を出しそうな光景です。
本来なら攻撃の余波だけでこの惑星が消し飛びかねない点を鑑みるに、これでも各自の能力を上手いこと使って影響を最低限にまで抑えているからこそ、花火と同程度の音と閃光だけで済んでいるのでしょう。
『善戦。健闘。今のところは互角かやや押してるくらいかな? ウルお姉ちゃんがだいぶ頑張ってるっぽいよ』
「ヨミ君、解説ありがとう。なにしろ光速だの何だので戦われると、こっちには何も分からないからね」
『安価。御用。なに、お安い御用だよ。それよりも不思議なんだけど、お姉ちゃんの動きのキレがさっきまでよりずっと上がってるようなんだよね。ていうか、不思議と我や他の皆も身体の調子が良いような?』
「……さあ、私には戦いのことはよく分からないからね」
ヨミ曰く、この戦いでは敵味方合わせた中でもウルの活躍ぶりが頭ひとつ抜けている様子。その原因は恐らく、さっき混沌迷宮と化した状態で強大な神力を持つラメンティアの肉体を少なからず捕食・吸収したせいでしょう。
その記憶のないヨミは自分や他の姉妹の不自然な好調ぶりに疑問を抱いている様子ですが、下手に藪を突いて蛇を出すことになってはいけません。
下手に味を思い出したら、ここから更に迷宮達の裏ボス化ルートすらあり得ます。レンリは賢明にも推測を口に出すことなく、適当にはぐらかすことにしていました。
「それよりも、そろそろ本格的に後始末のほうを考えないといけないんじゃない? ほら、神様もこっち来て。いつまでも不毛な落ち込み方をしていないで、建設的な話の一つでもしようじゃないか」
『あ、はい……でも、後始末に建設的も何もなくないです? ただひたすら面倒くさいだけで。延々見ないフリをしていたら、そのうち他の誰かが代わりにやってくれないかなぁ~、っていうのが正直なところですけど』
「それは、まあ、そうなんだけどさ」
この数時間で世界中にどれだけの被害が出たものか。
怪我人を治療しようにも、満足な設備や医療器具がどれだけ残っていることか。住む家を失った人間だけでも、どんなに少なくとも全世界トータルで何十万という数になるでしょう。
世界中が復興するまでに必要な食料、物資、人的資源はどれほどか。人間だけに任せていたら、それこそ何十年がかりの大事業になるか分かったものではありません。
「まったく、ラメンティア君も大変なことを仕出かしてくれたものだよ。妙にフランクで話しやすいせいか、途中から半分友達みたいになってたけど」
『元を辿ればわたくしがストレスを溜め過ぎたのが悪いというか……あれ、そもそもラメンティアさんを生み出すアイデアはレンリさんの発案じゃなかったです? そのあたりの責任については如何お考えで?』
「ふふふ……どうしよう? まあ、神様の罪を大っぴらに追求してくる人なんていないと思うし? それとセットで私に関するアレコレも有耶無耶にする方向でどうか一つ。詳しい事情を知ってる式典の参加者さえ口封じ……じゃなかった、口止めしておけば大丈夫なんじゃないかなって」
『口封じと口止めをナチュラルに言い間違えるのは怖いから勘弁してください。まあ、わたくしも積極的に責任を負いたいわけではないですし。レンリさんとは一蓮托生の共犯関係ということで……』
今も元気に殴り合っているアホ共は、そこはかとなく爽やかな雰囲気でどっちが勝っても恨みっこなしみたいに言っていますが、その論理が通用するのは同類の変態くらいでしょう。
女神もレンリも今日ここまでの過程を詳しく思い出すにつれ、自分達の責任の重さに今更ながらに思い当たったようです。元々は死に逃げをキメるはずだった女神も、今となっては知らぬ存ぜぬを決め込むわけにはいきません。
上手いこと世界の人々を丸め込んで直接的なペナルティが自分達の身に降りかかるのは回避しつつ、なおかつ同時に数多の損害を回復させるとなると選べる手段は相当に限られてくるでしょう。
「やっぱり、ここはネム君に頼るのが確実かな? とはいえ、流石のネム君でも世界中の街や村や人里離れた自然環境まで全部元通りにして回るとなると簡単じゃあないだろうね」
『なにせ、海底やら地面の下まで残らずカバーしないとですからねぇ』
普通なら世界各地に足を運ぶだけでも一苦労。
人里離れた山野など、被害の程度を確認するだけでも大変な土地もあるでしょう。
ネムの『復元』は大穴の開いた月すら元通りにできる破格の能力ではありますが、パッと見で被害の程度も修復箇所も判別できる衛星よりも、あるいは苦労するかもしれません。今のままなら。
『あ!』
「おや、神様。今のそれはどういう『あ』だい? ここに来てまた新たな厄ネタを思い出したとかの『あ』なら、謹んで聞かなかったフリをさせてもらうけど」
『いえいえ、これはむしろ良い意味合いの「あ」ですね。わたくしも忘れていましたけど、上手くいけば諸々の後始末をいっぺんに片付けられるかもしれません』
「へえ、そんな都合の良い方法が? 神様のことだから、同時に私達の責任を有耶無耶にもできるアイデアなんだろうね?」
『ええ、もちろんですとも。ネムに頼るという基本方針はさっきと同じなんですが……ほら、見てください』
女神は、ラメンティア達が戦っているのとは逆方向。界港跡から見て北の方角を指差しました。その先には学都のシンボルたる聖杖『アカデミア』が今もなお聳え立っています。
そこまで直接的なヒントを出されたら答えは簡単。
「……聖杖? ああ、なるほどね」
『さっきまでの試す云々のパートでやろうとしたら、ラメンティアさんに思いっきり邪魔されたでしょうけど、今はもう止める理由もないはずですし。ここはネム達に世界と合一した真の神になってもらう方向でどうでしょう』
元々、今日は最初からそうするつもりだったのです。
各種被害の回復と責任の回避という余計な目的が伴うことにはなりましたが、どうせ遠からず同じように迷宮達を真の神様にする必要はあるわけで。まだケンカは続いていますが、それを邪魔しないよう先に作業を進めておく分にはラメンティア達も特に文句はないでしょう。
そんなこんなでレンリと女神は自分達の責任を有耶無耶にしつつ幼い神々に後始末を押し付けるべく、世界との合一化に必要な準備を始めることとなりました。




