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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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ケンカ大好き!

『いざ、楽しもうぞ!』


 最大最後の大ゲンカ。

 その開始を宣言すると同時、ラメンティアは自らの肉体を一息に巨大化させました。親切にもそこから大股で二十歩ばかり動き、界港跡にいる皆に自身の全貌が見えるようにする細やかな気遣いが感じられます。

 その全長は推定二千メートルほど。まるで巨大な山脈の如き威容です。どういう仕組みかは不明ですが、未だ胸に刺さったままの運命剣まで一緒に大きくなっておりました。



『ま、神力の総量が増えるわけではないので強さはさっきまでと大差ないが、悪の勇姿を世界に見せつけるには都合がよいのでな……おっと、逃げ遅れた一般人(パンピー)をうっかり踏まぬよう注意せねば』



 ただ冷徹に勝利のみを目的とするならば、これまでとのサイズ差にさしたる意味はありません。質量やリーチの増大はプラス材料ですが、自らの巨体そのものが死角を生み出すことにもなり、メリットとデメリットの収支はトントン程度。魔力や神力を多少なりとも消耗している点を考慮すれば、ややマイナスで落ち着くでしょうか。


 ただし、ただ単に目立って注目を集めるというだけなら最高です。

 殺しはナシと自分で宣言したのもあって、移動の際に民間人を間違えて踏み潰さないよう気を配る必要はありますが、いざとなれば巨体を維持したまま空を飛ぶなり空中に足場を形成するなりもやってできないことはないでしょう。



『うむ、高みから有象無象を見下ろすというのは気分がよい!』



 馬鹿と煙は高い所が好きなどとも言いますが、この酔狂ぶりはまさにその馬鹿そのもの。そもそも最後に気分よく終えたいがために必要もない戦いを持ち掛けてくる存在です。それについては今更言うまでもないでしょう。


 しかし、相手をする面々だって馬鹿さ加減なら負けてはいません。



『うおぉぉっ、目立ち具合で我が負けるわけにはいかないの! それっ、我もホタルイカみたいな発光器官をお肌に生成してっと……ほら、なんだか光のオーラを纏ってるぽくて強そうでしょ? ただ光ってるだけだから実際に強くなってるわけじゃないけど』



 まず目立ちたがり屋のウルが、特に戦力アップに寄与しない方法で全身を激しく光らせ巨大化の注目度に対抗しています。まだまだ夜明けには遠い時間ですし、どうせなら夜闇に紛れて戦ったほうが戦略上有効なのかもしれませんが、彼女にとってはそんな些細なポイントよりも、相手より少しでも目立つことが重要なのでしょう。



「ははは、これは斬り甲斐がありそうだな」


「うん。わくわく」



 シモンとライムも、彼女達ばかりに見せ場を譲る気はこれっぽっちもありません。

 普段は素手で戦うライムも、今回は最初から流星剣(ステラ)の一部が変形したメリケンサックを装着し、戦域全体に舞い散った金属粒子を修復の基点とする移動術が使える状態になっています。



「ふむ、あれだけ大きければラメンティアの肉体を足場として走るのも有効か? 腕の上を走るなり足を駆け上るなり、ああ胸の上も走れそうだな……これこれ、ライム。痛いからメリケンサックが嵌まってるほうの手で殴るでない」


「むぅ。胸は駄目。あと下からスカート覗くのも禁止」


「分かった分かった。じゃあ、そのへんは見ないで済むよう縛るとするか」



 いくら大怪獣の如き相手とはいえ、デリカシーへの配慮は肝要です。

 ラメンティア自身は全然気にしそうにありませんが、恋人がまるでトランポリンか何かのように巨大なバストの上を跳ね回るというのはライムの精神衛生上よろしくありません。シモンも今更ながらにそうした心情に思い当たったようで、自主的な戦法の縛りを受け入れることにしたようです。


 

 なんにせよ、これから戦う準備は各々完了。

 あとは思い切りぶつかり合うのみです。



『くくっ、ここに来て出し惜しむ無粋はしてくれるなよ?』



 もう、この先を考える必要はありません。

 気力も体力も魔力も神力も発想力もそれ以外の何もかも、ここで全部残らず出し切る。

 後から「あれをすれば勝てた」とか「これを試しておくべきだった」なんて、そんなタラレバを思い浮かべる余地などない完全燃焼。そうして自分の全部を燃やし尽くすのが、戦う相手に向ける最大の礼儀であり敬意。これでこそ楽しいケンカというものです。


 もはや世界の運命も人々の生き死にも関係ない。

 余計な意味も意義もない純粋極まる殴り合い。


 直後、誰からともなく動き出し、巨大な打撃音が世界を激しく震わせました。



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