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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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最後のラストバトル・ザ・ファイナル


 ぴし。ぴし。ぱきり。

 まるで古びた陶器が砕けるように、ラメンティアの肉体が割れていきました。


 これが意味するところは明白です。

 未来への希望を強く意識したことで、百万年に渡って積もり積もった闇がとうとう晴れた。最初から女神の心と紐づけられて生まれてきた存在が、その役目を終えようとしているのでしょう。



『ラメンティアさん、その、なんと申し上げたものでしょうか……』



 世界中に大変な被害をもたらした迷惑極まりない相手ではありますが、心というものはそう簡単に割り切れません。いざこうなってみると、ついつい寂しさや哀れみを覚えてしまう……と、そんな風に油断したのが運の尽き。



『ふむ……なあ、女神よ。ちょっとこっち来い。そうだ、悪の手をよく見ろ』


『は、はい? こうですか?』


『うむ。それでだな……』



 パァン、と。

 ラメンティアは女神のすぐ眼前で両手のひらを打ち合わせ、大きな音を響かせました。その衝撃で両手の肘から先が砕けて落ちました……が、しかし。



『きゃぁっ!? な、なな、何を……?』


『おっ、止まった。ワンチャンいけるか駄目元で試してみたが……くかかっ、思った通り女神めを驚愕(ビビ)らせれば追加ストレスのおかわりで悪の体力ゲージも回復するというわけだ』



 なんという生き汚さ。まさかの猫騙しで女神の心を乱し、それによって自身の崩壊を強引に止めてしまいました。



『だが、この程度のストレスでは大して長くは持つまい。そうだな、女神よ。ちょっと耳を貸せ』


『は、はあ、今度はなんでしょう……』


『まあまあ、聞くがよい……怪我、事故、急な病気。諸々に伴う出費。医療事故。高齢化社会。受験戦争。荒れる若者。就職難。ブラック労働。残業の常態化。安い給料。高い税金。保険料。汚職。嫌味な上司。クレーマー対応。手抜き工事。老老介護。嫁姑問題。貧困層の増加……おっ、砕けた手が生えてきたな。よしよし、この調子でもうちょいネガティブワードを吹き込んでおくか』


『そこまで適当な生態(システム)なんですか貴女!?』



 根が後ろ向きすぎる女神にネガティブワードを吹き込めば、あとは頭の中で悪い想像をして半自動的にストレスを溜めてくれる。ましてや人間の暮らしをしてみたいと言った直後です。


 もしや自分の身にもそうした問題が降りかかるのではと、まだ具体的な行動は何ひとつ起こしていないというのに、勝手に悪い方向に想像して落ち込むだろう。そうすれば、そのストレスと連動しているラメンティアはさっきまでの不死身を取り戻して元気ハツラツ。一時は砕けた身体もすっかり元通りです。



『くっくっく、復活したぞ。「色々困った奴だったけど、いざ消えるとなるとちょっと可哀想だナ」……なんて、ちょっぴりおセンチな気分になった貴様らの期待にお応えしてな! あれくらいで悪が死ぬかバーカバーカ!』



 なんとデタラメな生命体でしょう。

 さっき砕けかけた時に一発殴ってトドメを刺しておくべきだったかと思うも時すでに遅し。今や、さっき戦闘を繰り返していた時と同じ状態にまで復調しています。女神がまた前向きな方向で感傷的(エモ)い気分に浸ればすぐ死にかけるのでしょうが、



『そ、そうですよね。正体を隠して普通の人間に紛れて過ごすなら納税とかしないと……うっかり支払いを忘れて脱税扱い、逮捕、馘首(クビ)、ご近所の目……うぅぅ』



 女神のネガティブさをナメてはいけません。

 吹き込まれた言葉の数々が脳裏をよぎり、当分は使い物にならなさそうです。



『くくっ、悪も死の淵から蘇ってパワーアップしたところで……はて、いったい何をしたものか? ああ、女神よ。お前は合格でよいぞ。はい、お疲れ。そのまま邪魔にならんよう隅っこで落ち込んでおれ』



 人間も勇者も、新しい神々も、古い神も、その全てがめでたく合格点を取ったわけですが、この先についてはラメンティアも完全にノープランだったようです(ちなみに、ラメンティアに死の淵から蘇るたびに大きくパワーアップするような体質はありません。本人が勝手にデタラメを言っているだけなので、戦闘力はさっきまでと同じ据え置きです)。


 さて、これからどうしよう?

 しばし思案し、そしてすぐに答えが出ました。



『よし、戦うか! だが、今度は誰かを試すというわけではないぞ。ほれ、さっきまでのは勝ちも負けも曖昧というか、途中で有耶無耶になった感が強かっただろう? このまま解散では消化不良の感があるし、どうせなら最後は勝って気分よく終わりたい。どうだ?』



 これは誰かを試すための戦いではない。



『ああ、別にそなたらが乗ってこずとも世界を滅ぼしたりはしないから安心せよ。殺しもナシだ。まあ、せいぜい不戦敗を選んだ負け犬の腰抜け共を思いっきり笑い者にしてやる程度だとも』



 これは生き残るための戦いですらない。



『さあ、どうする?』



 これは、ただ最後に勝って気分よく笑うためだけの戦い。

 そんな勝負を持ち掛けられた面々がどう答えたか、あえて記すまでもないでしょう。



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