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ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第参章
62/66

ユビキリ ノ伍拾玖


露草たちは白梅の下宿先にいた。

少し埃っぽいが、無造作に紙袋からパンを掴みだし、めいめい好き勝手に食べている様子を見て、同行していた青年がようやく声を出す。


 「……知り合いなんだね?」

 「そうじゃ。ああ、日本語が出てしもうた」

白梅は照れくさそうに頭をかき、露草を紹介する。

 「何回か話したでしょう。ずっと日本から旅を共にしてきた者で、露草です」


不安げに縮こまっていた初対面とは一転、こちらをまじまじと見つめてくる青年に居心地が悪くなり、露草は椅子の上で位置をずらす。

その気持ちが分かっているように、白梅は至極落ち着いた様子で語りかけてきた。


 「露草、この人はイリア・ブラウン。この街の知り合い繋がりで親しくなったん」


――彼は、頑張ってる人でなあ。この若さで医療の研究の最前線に携わっとるんよ。


白梅がうんうんと頷きながら、ぽんぽんと頭を撫でるも、イリアは嫌がる素振りも見せない。

気恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに目を細めていた。


 「白梅、ちょっといいか」


急に立ち上がった露草を予想していたようで、白梅は何も言わずについてくる。

やがて二人の背後で、入室した時は全く違う、重々しい動作で扉が閉まった。


 「俺は科学者という人種だけは関わるな、と言わなかったか? お前の審美眼を否定したいわけじゃないが、どんな実験に付き合わされるか分かったもんじゃない」

 「言うとった。でも目的がはっきししとるぶん、扱いやすくもあると思うん。ぎぶあんどていくってやつじゃんねえ」

 「体を切り刻まれるのが好みか?」


打てば響くように返答が返ってくるこの空間が、ひどく懐かしい。

白梅は怒られているはずだが、どうにも楽しかった。

露草が自分を見て、無意識のうちに溜めていたものが霧散したような、晴れ晴れとした気持ちを味わっていたなどと、知る由もないのだが、それは白梅も同じだったのだ。


 「イリアはおとなしい子で、人見知りでなあ。でも興味の対象を見つけたら、とことん食らいつくその違いが面白いんじゃ」

 「だから、それが危ないと」


これまで、どこからか繋がってしまった縁の先には、危険な人物もたくさんいた。

道中には盗賊も、通り魔だっていた。横柄な役人や、貴族、時には王族とも関わらざるを得なかったこともある。

何とかやり過ごしてきた中で、一番厄介なのが金でも情でも動かないような種類だ。独特な正義感からの執着、好奇心故の付きまといなど。

科学者は最もたるもので、自分の中の疑問が解決するまで、手離すのを良しとせず、理解を超えると排除しようと動く者まで出てくる。本当に厄介だった。


 「私も白梅様には賛同いたしかねます」


突然廊下に響いた、淡々とした男声。

名指しされた白梅は目を見開き、薄緑の瞳が一層鮮やかに変わった。



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