表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第弐章
48/66

ユビキリ ノ肆拾伍


その日、小屋で一晩を明かした。

露草の悪口や思い出話で盛り上がり、旅の道中の話を語り、藩内での苦労を愚痴る。

眠気は襲ってこなかった。この一夜だけと決めていた。もう一晩過ごせば、栄雅として立場が悪くなるからとはただ単に後付の理由であって、本当はもう一晩明かすと、きっと離れがたくなってしまうから。


だから素っ気無い味の水を飲んで、いつの間にか小屋の外に置かれていた握り飯を早々に口に放り込んで、また語った。

そしてまだまだ語り足りなかったけれど、名残を惜しむように立ち上がった露草は、すでに高く上った陽を恨めしく睨みつけるようにしながら切り出した。



 「出て行くときは明良、お前から行け。時間を空けて別々に出て行ったほうがいい」

 「さよならする時も、もっと何か言い方あるじゃろうに。ほんに口下手やね」

 「お前はいちいち五月蝿い」


再度交わされる軽口も、何度目か分からなくなっていた。そのせいか、白梅と露草がどれだけ親しく会話や視線を交わそうと、微笑ましく感じてくるのだから不思議だ。


幼い頃の父親が、露草に対して取っていた態度の意味も今なら分かる。そのために画策してあの事故がおきたのか、事故が利用されたのかは不明だが、兼良が何らかの形で関わっているのは明白だ。けれど、そのために弁解するのも謝罪するのもどこかちぐはぐで、何より謝ろうとする素振りを感じるのか、露草は全て会話の主導権を握っていた。


 「それでは・・・・・・」

 「ああ――元気で」


視線を交わす、その瞬間が腕を引き止める動作にも思えて足取りが鈍る。


 「兄上は苦労性のようです。白梅殿を見習って、大雑把に生きてください」

 「「なんだ(じゃ)それは」」


気分がいいとはとてもいえない顔で、二人は顔を見合わせた。一人は悪巧みでも潜めていそうな瞳をして、一人はとてつもなく不味いものでも飲み込んでしまったような表情だった。

二人の見事な斉唱に呆れながらも嬉しそうな笑声を漏らし、明良は栄雅として外に通ずる引き戸を引こうとした。

向けた背に一言だけ投げかけられる。


 「幸せに、なれ」


不器用な一言は、やはり嫁入り前の娘か妹に贈られるようなもので。その言葉は夜っぴて語り明かした名残なのだろうけれど、赤面する事はなかった。同じようにぼやけた思考の中で慈愛を感じ、明良は今度こそ粗末な小屋を後にした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ