第19話 依頼人の正体
記録の改ざんが確認されてから、三日が経った。
《ヴェイル》では、依頼を正式に受けるかどうかの判断が続いていた。
依頼人は、行方不明になった元社員の捜索と、持ち出された資料の回収を求めている。
しかし、調査を進めるほど、依頼人の説明には不自然な点が見つかった。
「依頼人が提出した資料と、実際の取引記録が一致しません」
水原が会議室で報告する。
「意図的に隠している可能性は?」
榊が尋ねた。
「あります。特に、三浦という元役員の退職時期について、説明が食い違っています」
久世が資料を開いた。
「三浦は会社の不正を告発しようとしていた。その直後に姿を消した。今回の依頼人は、その事実を知っていた可能性があります」
真壁が腕を組む。
「つまり、自分たちが関わった問題を、こちらに隠して依頼してきたわけか」
「まだ断定はできない」
榊は落ち着いた声で言った。
「依頼人の説明だけで判断するな。事実を確認しよう」
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その頃、悠真は資料室で別の記録を整理していた。
依頼人の企業について調べていると、過去に経営陣が交代した時期が目に留まった。
役員の退任が短期間に集中している。
その中には、三浦の名前もあった。
さらに調べると、退任した役員のうち二人が、別々の企業へ移っていた。
その企業も、今回の不自然な送金先に含まれている。
悠真は水原に報告した。
「これも関係があるかもしれません」
水原は資料を確認し、すぐに久世へ共有した。
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夜。
久世は依頼人と再び面会していた。
「三浦健一さんの退職について、もう一度説明してください」
依頼人の男は表情を変えた。
「先ほども申し上げたとおり、本人の希望です」
「では、退職後に連絡が取れなくなった理由は?」
「知りません」
「ご家族にも居場所を伝えていないそうですが」
男は黙り込んだ。
久世は資料を机に置いた。
「あなた方の会社と、複数の企業の間に不自然な資金の流れがあります。三浦さんは、それを告発しようとしていたのではありませんか?」
男の顔から余裕が消えた。
「……あなた方は、どこまで調べたんですか」
「事実を確認しているだけです」
長い沈黙の後、男は小さく息を吐いた。
「依頼内容を変更させてください」
「どういう意味ですか?」
「三浦を探してほしい。彼が持ち出した資料も、できれば回収してほしい」
久世は男を見つめた。
「彼を守るためですか。それとも、口を封じるためですか?」
男は答えなかった。
その沈黙が、何よりも雄弁だった。
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翌日。
榊は正式に依頼を保留する判断を下した。
「依頼人の目的が明確になるまで、受ける必要はない」
久世は頷いた。
今回の案件は、単なる企業間の不正ではない。
その背後には、複数の組織が関わっている可能性があった。




