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世界で最も恐れられる男は、ただの会社員だった  作者: パルパル


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第16話 名前を知る男

男が訪問してから、二日が経った。


悠真は資料室で、企業の関係先を整理していた。


依頼人の会社。


不自然な送金先。


そして、行方がわからなくなった元社員。


それぞれの情報を並べると、いくつかの企業名が重なっていた。


「黒瀬さん」


水原が声をかける。


「はい」


「この資料を、久世さんに渡してもらえますか?」


「わかりました」


悠真はファイルを受け取り、廊下へ出た。


その途中、会議室の前で見覚えのない男とすれ違った。


先日訪問した企業役員とは違う。


年齢は四十代くらい。


濃い色のスーツを着て、無表情で歩いていた。


男は悠真の前で、ふと足を止めた。


「君が黒瀬悠真か」


「え?」


悠真は驚いた。


「どうして僕の名前を?」


男は答えず、悠真の顔をじっと見た。


「そうか。君が……」


その言葉の続きを聞く前に、会議室から久世が出てきた。


「何をしている?」


久世の声が少し低くなる。


男は久世へ視線を移した。


「少し話をしただけだ」


「用件があるなら、私を通してもらおう」


「わかっている」


男はそれ以上何も言わず、廊下を歩いていった。


悠真は久世に尋ねた。


「あの人は誰なんですか?」


「今回の件に関係する人物だ。気にしなくていい」


「でも、僕の名前を知っていました」


久世は少し考えた。


「君の報告書を見たのかもしれない。組織の中で情報が共有されることはある」


「そうですか……」


久世は悠真の手元のファイルを受け取った。


「それより、資料をありがとう。作業に戻ってくれ」


「はい」


悠真は資料室へ戻った。


⸻


その夜。


男はビルを出ると、携帯電話を取り出した。


「確認した」


電話の向こうから声がする。


『例の新人か?』


「ああ。黒瀬悠真という男だ」


『何者なんだ?』


男は少し黙った。


「まだわからない。ただ、あの報告書には妙な点がある」


『妙な点?』


「誰も気づかなかった資金の流れを、入ったばかりの新人が見つけている」


電話の向こうが静かになった。


「偶然かもしれない。だが、念のため名前を覚えておけ」


通話が切れる。


男は夜の街を見つめた。


この時点では、彼もまだ知らなかった。


黒瀬悠真が、どれほど厄介な存在になっていくのかを。

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