第15話 予定外の訪問者
その日の夕方。
《ヴェイル》の受付に、予定にない来客が現れた。
黒いスーツを着た男だった。
年齢は五十代ほど。
身なりは整っているが、表情には余裕がない。
「榊代表に会いたい」
受付の女性が確認する。
「ご予約はございますか?」
「ない。だが、急ぎの話だ」
男は名刺を差し出した。
そこには、海外にも事業を持つ企業の役員という肩書きが記されていた。
受付から連絡を受けた榊は、短く答えた。
「通してくれ」
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その頃、悠真は資料室で作業をしていた。
廊下を歩いていた水原が、少し急いだ様子で通り過ぎる。
「何かあったんですか?」
悠真が尋ねると、水原は足を止めた。
「依頼人が突然来られたんです。少し珍しいことですね」
「依頼人が直接?」
「通常は担当者を通しますから」
水原はそう言って、会議室の方へ向かった。
しばらくすると、廊下の向こうから男の声が聞こえた。
「私は、あなた方に依頼したいことがある」
続いて榊の落ち着いた声。
「話を聞きましょう」
悠真には内容までは聞き取れなかった。
ただ、会議室の扉が開いたとき、男の顔が一瞬だけ見えた。
ひどく疲れているようだった。
⸻
一時間後。
久世が資料室にやって来た。
「黒瀬、今少しいいか」
「はい」
「さっき来ていた男のことだが、少し調べてほしい」
「どんな情報ですか?」
「会社の公開情報と、過去に報道された事業上の問題だ。個人的な情報を無理に探す必要はない」
悠真は頷いた。
「わかりました」
「ただし、まだ正式な依頼になるかは決まっていない。調べた内容は外に出さないように」
悠真は作業を始めた。
男が役員を務める企業には、海外の複数の事業拠点があった。
一見、問題のない企業に見える。
だが、過去数年間にいくつかの事業が突然終了していた。
しかも、その時期は、悠真が調べていた不自然な送金が止まった時期と重なっている。
「……また同じ時期だ」
悠真は記録を残した。
その報告を見た久世は、すぐに榊へ連絡した。
⸻
夜。
榊は男が帰った後、久世と二人で話していた。
「依頼内容は?」
「行方不明になった元社員の捜索です。持ち出された資料の返還も求めています」
「三浦の件と関係があるかもしれないな」
「はい。本人は関係を否定していますが、話に不自然な点があります」
榊は窓の外を見た。
「依頼を受けるかどうかは、まだ決めるな。相手が何を隠しているのか確認してからだ」
久世は頷いた。
その企業の名前は、すでに《ヴェイル》が追っている複数の案件に現れていた。
そして、その中心には、まだ正体のわからない何者かがいた。




