第12話 新人の調査報告
翌日。
悠真は榊の執務室に呼ばれた。
「失礼します」
「座ってくれ」
榊は机の上に一枚の報告書を置いた。
「今回の調査について、君の考えを聞きたい」
「僕の考えですか?」
「そうだ。水原から報告は受けている。君が最初に気づいた点について、直接説明してほしい」
悠真は緊張しながら椅子に座った。
「僕は、取引記録を確認しただけです。複数の会社から同じ会社へ送金されていて、金額や時期にも似た傾向がありました」
「それ以外には?」
「送金元の会社に共通点がないことです。業種も規模も違います。ただ、送金先の会社だけは何度も出てきます」
榊は黙って聞いていた。
「それで、会社の登記情報を調べたら、所在地が何度も変わっていました。以前の住所を使っていた別会社も見つかりました」
「君は、それをどう考える?」
悠真は少し迷った。
専門家ではない自分が、意見を言っていいのだろうか。
それでも、見たことをそのまま伝えることにした。
「正直、理由まではわかりません。ただ、普通の取引なら、ここまで同じ特徴が重なるのは不自然だと思います」
榊は小さく頷いた。
「十分だ」
「え?」
「わからないことを、わからないと言える。それは大切なことだ」
榊は報告書を閉じた。
「君の役割は、今のところ情報整理と調査補助だ。無理に答えを出そうとしなくていい。確認できた事実を正確に伝えてくれ」
「はい」
「ただし、一つ覚えておいてほしい。情報を扱う仕事では、小さな見落としが大きな問題につながることがある」
悠真は背筋を伸ばした。
「気をつけます」
執務室を出ると、廊下で久世が待っていた。
「榊さんとの話は終わったか?」
「はい。少し緊張しました」
「最初はそんなものだ」
久世は笑った。
「君の報告は、きちんと役に立っている。焦らず続ければいい」
「ありがとうございます」
悠真は頭を下げた。
その日の午後、悠真には新しい資料が渡された。
今度は、過去に行われた複数の取引の一覧だった。
一つずつ確認していく。
派手な仕事ではない。
それでも、目の前の仕事を丁寧に進める。
今の自分にできることは、それしかなかった。




