第11話 消えた関係者
久世が古い調査記録を調べ始めてから、一日が経った。
悠真はいつもどおり、資料室で取引記録の整理をしていた。
「黒瀬さん、少しいいですか?」
水原に呼ばれ、悠真は手を止めた。
「はい」
「先日見つけてもらった会社について、追加で調べてほしいことがあります」
水原が画面を見せる。
そこには、問題の会社と過去に取引していた企業の一覧が表示されていた。
「この会社の元役員について、現在の所在を確認してもらえますか?」
「元役員ですか?」
「はい。名前は三人。退職後の勤務先や住所など、公開情報の範囲で構いません」
悠真は頷き、調査を始めた。
最初の二人は、すぐに情報が見つかった。
一人は地方の企業に再就職し、もう一人は海外に移住している。
しかし、最後の一人だけは違った。
退職した記録はある。
住んでいた住所も確認できる。
だが、その後の情報がまったく出てこない。
「……この人だけ、何もありません」
悠真が報告すると、水原は画面を覗き込んだ。
「名前は?」
「三浦健一さんです」
水原の手が止まった。
「三浦……」
「ご存じなんですか?」
「以前、久世さんが調べていた案件に関係していた人物です」
水原はすぐに久世へ連絡を入れた。
しばらくして、久世が資料室にやって来た。
「三浦の情報が見つかったのか?」
「いえ。逆です。退職後の記録が途切れています」
悠真が説明すると、久世は画面を確認した。
「やはり、そうか」
「何かあったんですか?」
久世は少し考えてから答えた。
「三浦は、数年前にある企業の不正を告発しようとしていた。その直後、会社を辞めた」
「それで行方がわからなくなったんですか?」
「正式な失踪届は出ていない。周囲には、自分の意思で姿を消したと説明されていた」
悠真は言葉を失った。
「でも、家族もいるんですよね?」
「いる。だが、家族も現在の居場所を知らない」
久世は画面を閉じた。
「黒瀬。今回の件は、単なる資料整理では終わらないかもしれない」
悠真は小さく頷いた。
自分が見つけた数字の違和感。
その先に、一人の人間の行方が隠れていた。
そして、その人物を探している人間が、ほかにもいるのかもしれなかった。




