第二部:大坂冬の陣・真田丸の死闘
黄金の墓標たる大坂城に入城した「僕」(大助)を待っていたのは、死の匂いを豪奢な金箔で塗り固めた退廃的な異界だった。淀君は薬物中毒のまま過去の栄華という幻影に縋り、豊臣秀頼は純粋培養された無菌の君主として微笑む。彼らの狂気に満ちた「空っぽ」な世界を前に、僕は豊臣の命運がとうに尽きていることを悟る。
一方、父・真田幸村は大坂城の南・玉造口に最強の出城「真田丸」を築く。それは城の地勢を逆手に取り、徳川の大軍を誘い込んで挽肉にするための、泥と血に塗れた巨大な「死のすり鉢」だった。冬の陣が開戦すると、前田軍や井伊軍の怒涛の突撃が真田丸へ押し寄せる。飛び交う鉛玉、吹き飛ぶ四肢、泥に沈む朱塗りの甲冑。極端な陰影とスローモーションが交錯するような残酷な塹壕戦の最前線で、僕は人間の命が有機物のゴミとして消費されていく戦国の真実を網膜に焼き付けていく。
その極限の死地において、才蔵は僕の「絶対の盾」として狂気的な働きを見せる。夜の帳が下りれば純白の狐面を被り、猿飛佐助らと共に敵陣へ潜入して音もなく首を刈り取る冷酷な死神。しかし、血と硝煙の匂いを纏って薄暗い陣屋へ帰還すれば、彼女は僕のためだけにその「白磁の肉体」を晒し、むせ返るような母性とエロスで僕の恐怖を飲み込んでいく。カルバリン砲の砲弾が飛び交う中、僕を庇った彼女の白い肌に新たな傷が刻まれるたび、僕たちの間に横たわる主従の鎖は、死の瀬戸際だからこそ激しく燃え上がる暴力的な愛執へと完全に変質していく。
戦局は真田丸の圧倒的な防衛力によって豊臣方の優勢に進むかに見えたが、徳川家康の放った大筒が天守閣を直撃した瞬間、淀君ら豊臣首脳陣の心は無惨に折れ砕ける。成立した屈辱的な和睦。無力感に苛まれる幸村や狂人たる十勇士たちを他所に、真田丸は取り壊され、大坂城の堀は次々と土で埋め立てられていく。
雪が舞い散る束の間の静寂。丸裸にされた大坂城の庭で、僕と才蔵は「戦が終わったら、どこへ行く?」という、決して叶うことのない隠遁の夢を静かに語り合う。しかし、足元にはすでに裏切りと再戦の火種が燻っていた。堀を失い、死を待つだけの裸の城で、僕たちは迫り来る本当の終焉「大坂夏の陣」の足音を、互いの体温を痛いほどに抱きしめながら、静かな絶望と共に聞き届けるのである。




