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「私に任せなさいな」
扇子をパチンと良い音で鳴らし、閉じてからニヤリと悪い顔をして笑う母。
あー、これは父が生贄にされるかもな・・・。
ごめん、父上。めっちゃ忙しくなるぞ。
「フェリシアに話していいかな?」
婚約者を思うオリヴァー。
「この国で私に盾突く奴はおらん」
女傑と言われる祖母のドヤ顔は、今回は頼もしいと思えた。
ミュゼリアがすやすやと夢の中にいる頃、俺は皆に今日の事を話した。
ミュゼリアは、今も全く興味を示さない、血の繋がった身内と区切りを付けたいと言った。
もうあの人達からの愛が欲しいという気持ちは、完全に消え去ったと言った。
今の幸せを大切にしたいと言った。
**** 母 side ****
イチャイチャしてるだけのバカップルだと思っていたし、それでもかまわないと本音では思っていたの。それなのに意外にも二人でちゃんと考えて、二人で話し合いをして、二人が手を取り合っている事実に、内心とても安堵したし、歓喜した。
ギフトの影響で、一人息子の右目の色が赤く変化しても、それがたまにピカっても、愛する旦那様レオナードとの間に授かった子供だもの、もちろんロイエルを愛している。レオナードも私も自ら進んで自白ギフトの検証の為に、何度も実験台になったわ。親ですもの、当然の事よ。
それでもこの子の将来は、正直に言って不安だった。
私達夫婦のいいとこ取りをしたロイエルは容姿が良い。ラルクロッドの王弟レオナードと、グレイウッドにある公爵家の当主で大賢者と有名な母の娘だった私達の間に生まれたのだから、当然身分も高い。受け継がれた魔力量も皆が羨むほどに多いし、扱える属性も豊富。もうこれ以上は何も望んではいなかったのに、更にギフトまで授かった。
全てが揃っていても、ロイエルは人に絶望してしていた。
私達ですら、神を恨みたくなった。
目を赤くする必要があった?
ましてやピカらせる必要があった?
どうして自白なんて面倒なギフトを息子に授けたの?
信じても裏切られ、それでも乗り越えて立ち上がったのに、また人を信じてみても結局は自白が目的で、自白させられた人には理不尽に恨まれてきたロイエルは、見ていられないほど憔悴して塞ぎ込んだ時期もあった。それでもあと一度だけと、折り合いをつけ、外の世界へ踏み出してくれた。
励ますこちら側も非常に辛く、何度も涙を流した。閉鎖的な環境で、親子三人で平和に暮らしたいと何度も思った。ロイエルが人に利用されることなく、穏やかな気持ちで過ごしてほしいと何度も思った。
しかし、周囲が、ロイエルが持つ能力が、次期公爵家当主になるロイエルの身分が、それを許してくれなかった。
そんなロイエルとミュゼリアが出会った。
ロイエルが、この世界や人を悪くないと思う事ができたのなら、少しくらい変態でも、ちょっと執着が強めでも、つっこみはいれるけど、止めはしない。
周囲に親バカだと言われようが気にしない。
人の心も体温もあたたかいと感じてくれた事が嬉しいし、それを絶対に忘れてほしくない。
もとからどんな身分でも、どんな容姿でもロイエルが興味を持つ人が現れたなら、こちらは全力で受け入れるつもりでいた。
でもそんな日が訪れる可能性は低いと、諦めてもいたから驚いた。
ロイエルの魔力量はとても多く、あの子の気持ち一つで世界を滅ぼそうと思えば、滅ぼせる力を実際に持っている。ロイエルの妻になりたいと思ってくれる人が現れても、妻になる人にもある程度の魔力がなければ、ロイエルの魔力を受け止められないし、子供も望めない。
気持ちの有無だけで解決できれば簡単だが、人より多くの力を持っている者はそうもいかない。
ところが、それら全てを解決できるミュゼリアが、ロイエルを心から愛してくれている。
しかも本当に素直で可愛いのだ。
先ほどロイエルから聞いた、五歳児の女の子が成功させた単独行動には驚かされた。
ロイエルには、心配して手を差し伸べる私達がいた。
でもミュゼリアは孤独だった。
必死に考えて行動して、今も秘密を抱えながら生きている。
目覚めたミュゼリアに会ったら、やめろと言われるまでぎゅうぎゅうに抱きしめるつもりだ。
レオナードにも事情を話し、かなりムリをして調べてもらった結果、ミュゼリアの予想通り、ギフトは遮断と記憶の二つ持ちだった。
次に、母にちゃんとしたミュゼリアの魔力量を調べてもらった。母を100とするなら、ミュゼリアは75。ロイエルは150。私は90となる。本当は、闇属性に100が最高値とするなら2の適性はあったが、これは使えないと言っていい数値だった。
きっと母も、たった2の数値で、全属性が使える二人目の大賢者が誕生したなんて言われたくなかったのかもしれない、ふふ。
これからは愛しい旦那様レオナードに、更に働いてもらわなければならない。
陛下との仲は良好な実弟だし、私からのお願いだし、己の可愛い息子の嫁になるミュゼリアのためだもの、ある程度のむちゃはしてくれるはず。
全てが片付いたら、私がうんと甘やかしてあげるから頑張ってね、レオナード。
実際、
レオナードは馬車馬のごとく働かされる。スレスレの隠蔽に、ギリギリのごまかし、根回しなど、それはもう多岐にわたった。
それでも愛する妻のお願いに弱い夫は、将来の息子の嫁に回復魔法をかけてもらい、何度でも復活した。
**** 母 side end ****
「よし、オリヴァーとミュゼリアは私の養子にしよう」
祖母はテキパキと指示をして書類を用意させる。
「ミュゼリアは問題ないが、オリヴァーの方はどうだ? ユニオン商会との縁が切れると婚約の継続は難しいか?」
「どうでしょう。私としては商会と大賢者様、どちらがより箔がつくかは考えるまでもないですが、お相手が王家なので私の判断で決めることはできません」
「クク、賢い男は好きだよ。孫よりよっぽど貴族らしいね。話が拗れそうなら私がラルクロッドに出向いて話をしよう。婚約がダメになったら私が引退した後、この家を継げばいいさ。強制はしない。自分の考えを優先させな。ただ、オリヴァーとミュゼリアを見てると、このまま兄妹でいさせてやりたいと思えてな。私はお前達が血が繋がっていない兄妹と聞いてびっくりしたからな」
確かにオリヴァーとミュゼリアは書類上だけでも、そのまま兄妹でいさせてやりたいな。
「ユニオン商会を潰そうなんて大それた考えはないよ。ただちょっと後悔すればいいくらいの気持ちだ。ミュゼリアに初めてできた友達のエスティアの能力を見誤った事も少しは後悔してもらいたいね。あの娘の能力も素晴らしいからな。なんで手放す判断をしたのか不思議だ。書類が受理されたら、娘にドレスを買う名目で商会に来てもらおうかね」
はは。そりゃ面白そうだ。
「それでミュゼリアにはスッキリしてもらって、気持ち良く孫に嫁いでもらいたいね。ロイエル、本音を言えば私はミュゼリアの秘密はそのまま秘密にしていた方が良いと思ってる。あの子の価値が爆上がりするからね。危険が増すぞ?」
「・・・別に全てをさらけ出す必要はないと思う」
相手を後悔させるには、少しはこちらの情報を出す必要がある。ミュゼリアも同意した。
魔力とギフトに関して報告する義務を放棄していた事を、うまくごまかしたかった。悔しいが、俺だけでは力が足りない。
「そりゃそうだな、クハハっ」
う・・・。
何もかも見透かした目で見ないでくれ、婆様。
商会を呼んだ。
指名をしたわけではないが、こちらの予想通りミュゼリアの祖母と現会頭が緊張した面持ちでやって来た。
「本日は我が商会をご指名頂きありがとうございます」
笑顔で挨拶をする二人。
「こちらこそ前会頭夫人と会頭が自ら足を運んでもらえるなんて思っていなかったから嬉しいよ。今日は私の娘になったこの子にドレスをお願いしたい」
ミュゼリアの背中に手を置き、紹介する祖母。
「アルモンド公爵家のミュゼリアです。本日はよろしくお願いします」
綺麗なカーテシーをしたミュゼリア。
「まあ、ご丁寧にありがとうございます。とても美しいお嬢様でございますね。大賢者様からお呼びがあれば、どこへでも飛んでいきますわ。年は取りましたが、まだまだ気力は衰えておりませんもの」
顔を上げたミュゼリアを見ても全く気付いていなそうな二人に、ミュゼリアも苦笑いだ。
そんなに元気なら、なぜ孫に会いに行かなかった?
腹立つ婆さんだな。
「早速ですが、採寸させてもらっても?」
「ああ、そうだな。エスティア、案内を頼むよ」
「はい、ご案内いたします」
エスティアの事も気づかない。
エスティアは本人の希望で魔道具師兼、ミュゼリアの専属侍女になった。
待っている間、会頭と祖母がドレスのデザインについて夢中になって話をしている。
ん? もしかして、婆様は本気でドレスを選んでる?
おいおい、目的は忘れないでくれよ?
採寸を終えたらしく、こちらに戻ってきたミュゼリアの祖母は、
「さすが公爵家で働かれてるだけあって、皆様、素晴らしい動きで、もう終えてしまいましたわ」
ミュゼリアの祖母に褒められても、何の感情も出さず、澄まし顔のエスティアに笑いそうになる。
「あー。そういえば、その侍女は少し前までユニオン商会の本店にいたと言っていたが、覚えていないかい?」
二人の視線がエスティアに移る。
しばらくして、会頭の表情が変わった。
「・・・こちらで世話になっていたのか。探したんだぞ」
「クビになりましたので」
「お前がいなくなって、売り上げが三割落ちた。戻ってこい」
「クビになりましたので」
同じ言葉を冷めた目で繰り返すエスティア。
「お前の話が真実だったと証明されている。戻ってこい」
「父の件もありますので、もう戻りたくありません」
「・・・っ。」
「今はこちらのお嬢様の元で魔道具を作っております。魔道具に関心があるお嬢様はとても協力的に動いてくださいます。魔法はどの属性も使え、魔法石も簡単に用意してくださいますし、ランクAの冒険者資格を所持されてるので素材もすぐに揃います。お嬢様一人いれば、よい魔道具をスムーズ作れる素晴らしい環境なので、戻りたくありません」
何も知らないのか、ただオロオロしているだけのミュゼリアの祖母。
睨み合う会頭とエスティア。
「別室を用意するかい? うちの孫が自白のギフトを持っているから、色々とはっきりさせるかい?」
やっと出番か。
「ラルクロッドから参りました、ロイエル・ウルスローです」
「・・・ウ、ウルスローは、王弟殿下の・・・」
「父をご存じでしたか」
「・・・ええ。 娘がメルティアン伯爵家に嫁いでおりますので」
狼狽えながら答えるミュゼリアの祖母。
「元お孫さんと婚約しております」
「え?」
「・・・は?」
油の切れた機械のように、ギギギと音でも鳴りそうな感じで首を動かして、今度はミュゼリアを凝視する二人。
「曾祖父のお葬式以来でしょうか。お手紙をお二人へ出しましたが、伯父様からは一度も返事はありません。お祖母様から一度だけ、高齢だから会えないとお返事がありました。心配しておりましたが、先ほどどこへでも飛んでいけるくらい元気だと聞いて、安心いたしました」
ニコリと微笑んだミュゼリア。
「あっ」
「っ」
気まずいのか今度は視線を床に落とし、固まってしまった二人。
「どうしたんだい? 二人からしたら孫と姪だろ? 」
「・・・あ、あの大賢者様。 今日はこの辺でお暇させて
もらってもよろしいでしょうか?」
「は? 前会頭夫人も元気だと言ってたし、ドレスのことであんなに熱弁してたのに、中途半端に放り出して帰るのかい? それはあまりに無礼ではないか? なあ、会頭よ」
「「っ」」
また俯く二人。
「お義母様、私はお義母様の選んでくださるドレスならどれも嬉しいので、ここはお義母様にお任せしてもよろしいですか? お腹を空かせたノアが出てきてしまっておりますので」
ミュゼリアの足元に現れ、ピタリとくっついた聖獣ノアは、「腹減った」と棒読みで言った後、唸り、商会の二人をじろりと睨んだ。お前らのせいで空腹だとでも言うように。
今回、ノアはしぶしぶやらされているのだが、それでも棒読み過ぎる。笑わせないでくれ。
「ひっ」
「っ!」
「ああ、大丈夫だ。 私がちゃんと選んでおくよ」
「では失礼いたします。ノア、行きましょう?」
ミュゼリアとノアが部屋からいなくなった途端、祖母は威圧を放ち、俺は殺気を押さえることをやめた。部屋中に漂う、重苦しい空気に商会の二人はブルブルと震えた。
「よっこらせっと」
俺は二人の前に椅子を置いて座り、聞いてみたかった事を聞く事にした。
魔力量の平均は20としています。




