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ミュゼリアはもう戻れない  作者: ぱんどーる


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4

「ミュゼリアよ、いい加減もう休め」

「ふぅ。・・・そうしようかな」


儂が語気を強めると、手を止め、大の字になって寝転んだ。


「まったく・・・」

「はは。ごめん。止めてくれてありがとう、ノア」


魔力が溜まり、放出しないと体調が悪くなる。でも魔力測定でちょろまかしたから、魔法局に問い合わせる事はできない。

魔法局に在籍はしているが、私の事は黙っていてくれているロイエルに相談したら、魔法石が採れる鉱山があると教えてもらい、隣国グレイウッドで採掘をしに行った。


初回はロイエルとオリヴァー兄様も一緒に行った。二人は石を買えば解決できる問題だと言っていたが、私が自由にできるお金はないし、安い石でも私の魔力を考えると大量になってしまうから、それなりのお金が必要になる。迷惑をかけるのはイヤだと、二人をどうにか説得する事ができた。

自分が使えるお金が欲しい。お世話になりっぱなしのロイエルとオリヴァー兄様に、プレゼントを渡したいという気持ちもあった。

それに屋敷と商会と丘しか知らない私は、もっと外の世界を知りたかった。実際にあちこち観光もできて、美味しい食事もたくさんいただいて、とても楽しい時間を過ごした。


採掘した次の日のオリヴァー兄様が、筋肉痛で痛みに顔を歪めながら、なんてことないように振る舞うのが面白かった。兄様も勉強ばかりじゃダメだと痛感したらしい。ロイエルは、何をするにもまず俺がと率先して行動し、私が危険な目にあわぬように動いてくれていた。

ふふ、過保護な婚約者だ。


次回からは、二人は学園生活が始まっているから私が一人で採掘をする。荷物持ちもいないし、私に大変な思いをさせたくないと、ロイエルから亜空間と繋がっているバッグをもらった。とっても便利で重宝している。



「俺はもうミュゼリアを手放すつもりはないんだから、手っ取り早い魔力溜まりの解決法、互いの体を繋げちまうのが・・・わっ、痛っ」


思わずロイエルの頭をぺしっと叩いてしまったオリヴァーは、大げさに頭を抱えるロイエルに、


「あ、ごめん。思わず手が出てしまった。うちの可愛い妹をやらしい目で見たり、妹で変な妄想はしないでくれる?」


「婚約者なんだから普通だろ? ミュゼリアが外に出る事を心配するより、俺に抱かれる方が気持ちいいし、幸せで良いことだらけだろ? 痛ってぇ・・・」


まったく・・・。

私がしっかりとミュゼリアを守らなければ、すぐロイエルに襲われてしまうと心配するオリヴァー。


二人が言い争いをしていても何も気にせず、初めての隣国に目を輝かせ、楽しそうにキョロキョロとしているミュゼリア。


「お前だってフェリシアと良い感じだろ? お前は良くて俺は我慢なんて不公平だろ? それにお前は自分が学園を卒業したらすぐ伯爵家を出て、一緒に住むなんて羨ましすぎる。俺はミュゼリアの入学まで待って、更に卒業まで待ってからだぞ? 長すぎるっつーの」


「私達は健全なお付き合いだよ。フェリシアが学園にいる間に、公爵家に婿入りする身の私は覚える事がたくさんあるんだよ?」


「はっ、お前もミュゼリアも物覚えがいいんだから、たいした苦労じゃないだろうが。あー、羨ましすぎる」


王家から、両親の間に新たに生まれた弟のメレンにフェリシア王女との婚約を打診された時は驚いた。メレンより、私やロイエルと年の近い王女も困惑したらしい。結婚してから堕落したままの両親もさすがにそれはとお断りの手紙を書いたのでホッとした。それでも諦めきれずにいた陛下に、フェリシア王女は私との婚約を提案した。


フェリシア王女に王宮に呼ばれ、質問攻めにあったが、家の事情を正直に話した。


「ますますムリよ。貴方の弟が成人した頃、私が子を産める状態なのかしら? 一度でも産んでいたら高齢出産でも大丈夫だと聞いた事はあるけど、初産となると不安だし怖いわ。私だって長生きしたいもの。

ねぇ、オリヴァー。私と婚約しない? ロイエル兄様とお茶をすると貴方の名前がよく出てきてたから、初対面の感じがしないの。それに王家とユニオン商会の縁はできるし、貴方が不安定な立場なら、足場を固めるためにも良いでしょ? あ、もう一人の弟にしろなんて無粋な事は言わないでちょうだい? 私は年上の男性の方が好みだし、貴方のお顔もとっても好みよ。どうかしら? 」


押せ押せグイグイのフェリシア王女と、聞き上手のオリヴァーは話をしているうちに意気投合し、本当に婚約が成立した。

オリヴァーの助言で、条件を細々と追加して提示した婚約証だったにもかかわらず、またもやすぐサインをして送り返してきた伯爵家にフェリシア王女は呆れた。

伯爵家は、自分達の可愛い可愛い息子メレンが年増王女の餌食にならずにすんだことに手を取り合って喜び、その上、伯爵家の後継者から外した事により、扱いに困っていた長男の方が王女に婿入りすることになって、全ての問題が解決したと更に大喜びだった。


オリヴァーはここで完全に両親に見切りをつけた。




話は戻って、ノアは聖獣だ。

人型にもなれるが、基本はモフモフの狼。


一人で採掘することにも慣れた頃、ロイエルに会えない寂しさで感情のコントロールが不安定になっていた。


そこに現れたのがノア。


最初はオリヴァー兄様かと思った。兄様は犬になることができる。

「兄様?」

「違う」

「兄様に似てる。うっ、兄様に会いたい・・・。ロイエルに会いたい・・・。 うぐっ」

「おい、落ち着け。暴走するぞ」

「えぐっ・・・。 ロイエルしか私を止められない」

「儂は聖獣で名はノア。お主、儂と契約しろ。そうすれば儂がお主の魔力をもらう」


苦しそうにしながらも、怪しげな目で儂を見る小娘だったが暴走寸前で契約を交わした。


その後、落ち着いたミュゼリアと互いの話をして理解を深めた。



「早くノアと、犬になった兄様を会わせたいな」

「儂は狼じゃ」

「ふふ」


ノアと契約してからは、暴走しそうになることは全くなくなった。ノアは三百年以上も住処にしているだけあってグレイウッド国に詳しかった。

採掘許可されていた鉱山から魔法石が採れなくなった。数ヶ月後にまた自然と魔法石は復活するらしいが、待っているだけでは時間がもったいないので、冒険者登録をした。魔物からも魔石がとれる。


「山の石だけでなく、魔物も殲滅しそうだな」


順調にランクが上がっていった。


「ストレス発散になるし、試したいことがたくさんあるんだもん。欲しい物もあるしね」


ラルクロッドよりも魔法を使える人がたくさんいるこの国では本も魔道具もたくさんあった。討伐で得た収入で魔法書を買って、ロイエルからは教わっていなかった生活魔法を覚え、初めて入った魔道具屋ではドキドキワクワクが止まらず、テンションが上がりっぱなしだった。戦闘で役立つ魔道具よりも、生活を便利にしてくれそうな魔道具に目を惹かれた。離れた相手と話す事ができる通信機能があるピアス。寒い時には暖かくなり、暑い時には冷える機能がある空調機。目に入った魔道具全てに興味を惹かれ、あれもこれも欲しいと思ったが、値段が高かったので諦めた。


「もっと稼いでから買おう」

「・・・ほどほどにな」





*****



「なあ、オリヴァー」


頬杖をついて、もう片方の手で読み終えたばかりの手紙をヒラヒラとさせながら不満そうなロイエル。


「ノアって浮気相手だよな?」

「・・・聖獣でしょ」


ロイエルは聖獣でも男はダメだと文句を言っている。

それよりも聖獣は物語の世界の中での話だと思っていたが、実在していることに驚きだし、しかも契約までしたなんてミュゼリアの秘密がまた増えてしまった。

頭が痛い。


「しかもエスって何者? 連れて帰るって何? ミュゼリアはもう俺のことはいらないの? 卒業まであとちょっとなのに、届いた手紙はたったの二通。しかもこの手紙に書かれた日付けはだいぶ前なのに、届いたのは今日。書くことないの? 手紙って届くのにこんなに時間のかかるものだったか? あ、もしかして俺、捨てられるの? っていうかすでに捨てられてるの?」


「・・・。」


はー、面倒くさっ。

フェリシア、君の従兄弟は恋愛になると非常に面倒な男になるね。

そんな私の気持ちなど関係ないロイエルは、また不満を口にする。


「ずいぶんとグレイウッドで楽しんでるようだが、帰って来るつもりはあるのかねぇ、ミュゼリアさんはよ・・・。 冒険者生活が楽しい? すでにEランクからAランクに上がった? お師匠様ができた? 剣も少し扱えるようになった? おいおいミュゼリアさんよ、 お前の師匠は俺だろ? まさか師匠は男か? 俺のいない所で危ないことはするなよ・・・。 剣なんて物騒な物を持つなよ・・・」



私の手紙には、ロイエルが浮気していないか?だの、ロイエルはボッチで悲しんでいないか?だの、ロイエルを心配する言葉ばかりが書かれていたが、本人宛には書かなかったのかい? 君は、ロイエルが自分への執着がヤバい奴ってちゃんと理解しているのかな?


今のロイエルは、ミュゼリアに会ったらすぐに手を出しそうだし、監禁しそうな勢いだよ?

お兄ちゃんはミュゼリアが心配だよ・・・。


「はぁ・・・ロイエル。 私宛の手紙を読んでいいよ」


仕方なくロイエルに手紙を渡す。

ミュゼリアには申し訳ないけど、ロイエルを落ち着かせる為だからね?


さっきまでウジウジしていたのに、読み終えたロイエルは顔を上げると、


「・・・義兄上、ありがとう。 俺、忘れられていなかったな。すごく心配されていたな。 ミュゼリアに愛されていたな。 あー、幸せ」


「・・・。」


切り替え早っ! 義兄と呼ぶなっ! うっとりとした顔で私宛の手紙を胸に抱えるな! キモっ!

読み返しては、そうかそうかと嬉しそうにニヤけているロイエル。

だがまあ、満足したなら良かった。



「とりあえず、卒業式が終わったらすぐミュゼリアを迎えに行く」

「私も行くからね?」

「・・・転移で行ってすぐ帰ってくるよ」


いや、ダメだ。こいつは絶対に手を出す。自分の気が済んでからじゃないと帰って来ないだろう。

ミュゼリアの顔を見たら今まで我慢していた分、反動が抑えられなくなるだろう。これまでの想像豊かな妄想を現実にするために己を制御せずに、本能のまま動くだろう。

その未来一択しか見えないのがヤバすぎる。まだ二人きりの時なら良いが(いや、良くないのだが)、人前ですら恥じらわない勢いだ。 聖獣ノア、師匠、エス。手紙で名前が出た者達の前では、これでもかと見せつけそうで危険だ。


犬のギフト持ちの私が、ロイエルの首に首輪をつけ、手綱をしっかりと握らなければならない。知っている者が見れば大爆笑される光景だ。だが、私がやるしかない。


私の心配、恐れ、不安、様々な感情がごちゃ混ぜになった睨みが効いたのか、


「ちっ・・・わかったよ」


しぶしぶ承諾したロイエルだった。





卒業式が終わった直後、

余韻にも浸ることも許されず、すぐにミュゼリアの元へ転移した。

わかったことは、師匠はなんとロイエルの母方の祖母だった。エスはエスティアという名の女性だった。魔道具師としてユニオン商会で働いていたがクビになってしまったらしい。ノアは、ロイエルがミュゼリアに向ける異常な執着心に、終始呆れた顔をしていた。


あー、コホン。

その呆れるお気持ち、とても良くわかります。話がわかる人ができたのはすごく嬉しく思います。


そして何よりも驚かされたのは、二年ぶりに会ったミュゼリアが、本当に冒険者生活を満喫していたのか? と疑うほどに儚さが増し、少女から女性へと、とても美しく成長していたことだ。


はぁー。

お兄ちゃんは、ミュゼリアのことがますます心配だよ・・・。


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