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ミュゼリアはもう戻れない  作者: ぱんどーる


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あれから随分と月日は経ったのに、母は相変わらず父と仲睦まじく過ごしている。お互いしか見えていないのは、変わらない。


そんな二人の会話がたまたま聞こえてしまった。


『前の夫との間にできた子供達を愛しているか分からないの。貴方との間にできた子供なら気持ちは変わるのかしら・・・』

『・・・気持ちはわかるよ。辛い思いをしてきたんだ。今は私の愛に溺れてくれればいい』

『まあ、貴方ったら。ふふっ、ありがとう。ぁん、んぁ』


この後二人から変な声が聞こえてきたので、何かあったのかと心配になってドアを開けようとしたところで、背後から新しく兄になったオリヴァー兄様が、右手で私の口を塞ぎながら、左手はドアを開けようとした手を掴んだ。


「驚かせてごめんね。ミュゼリアには見せられない事が始まりそうだったから」


「??」

何を始めようとしてたんだろう・・・?


「はは。まだ分からなくて大丈夫。さっき聞いてしまったことは忘れた方がいい。私の母もミュゼリアの父だった人と似たような人だった。父も母も・・・・・新婚だから仕方ない」


「・・・」


まだ新婚?

新婚ってどのくらいの期間?いくら何でも長すぎない?

それにねぇ、兄様。

忘れられないんですよ・・・私。


「今日は時間があるんだ。よし、兄と妹で交流を深めよう。何かやりたいことはある? 庭でお茶でも飲むかい?」


私はお茶をするのではなく、ユニオン商会に行って便箋と筆記用具が欲しいと言うと、快く承諾してくれた。兄は馬車を使おうとしたが、歩いて行けそうな場所にあるなら歩いて行きたいと望んだ。だって私が馬車を使う事は許されないと思うから。次回から一人でも行けるように道もしっかりと頭に入れておきたいし。


徒歩で商会に向かいながら、兄は私の現状を察したらしく、質問攻めにされたので隠さずに話をした。聞き終えた兄が頭を下げて謝るから、兄も大変そうだと言うと苦笑していた。


「母の愛情に憧れがあったけど、あの感じじゃ期待しない方がいいね。二人の間に男児ができたら、後継者も交代になるかもしれないな・・・」


「・・・そしたら兄様はどうなるの?」


「うーん、どうだろうね。甘やかされて出来が悪く育てられたなら私が補佐にまわされるだろうし、能力があったなら私は婿に出されるか、就職先を探すのかもね。 あー、きっと魔力持ちで生まれてくるだろうから・・・どっちにしろ後継者ではなくなる? あの調子じゃ、遅かれ早かれ子は授かるだろうし・・・。うむ、これは私も真剣に今後を考えないといけないな・・・」


歩きながら両腕を組んで、考え込んでしまった兄。兄は毎日長時間勉強している。それがムダになっちゃうの? 必要なくなったなら三日はベッドで休ませてあげたいと思うほど、ずっと机に向かってるのに?


「・・・兄様は継ぎたいの?」

「そう言われると・・・。はは、どうなんだろね。」

「兄様はもっと休んだ方がいい。勉強しすぎだと思う」

「心配してくれてありがとう。優しいね。ミュゼリアも私にちゃんと言ってね。今の両親はアテにならないからさ」

「はい。 ・・・ありがとう、兄様」

「ん」


身内の中でも、血の繋がりがない長兄が一番私を心配してくれた。


ちなみにオリヴァー兄様は『犬』のギフト持ちだった。


ちょっと笑ってしまった。

兄様も色々と試してみたけど使い道がないと判断して、自分の中でギフトは授からなかったことにしているらしい。

それを聞いて、更に声を出して笑ってしまった。


その日は無事に徒歩でユニオン商会に着いて、商会で働いている人達に挨拶をする事もでき、便箋と筆記用具も購入できたので、早速祖母と伯父に手紙を書いて送ったが、返事が来たのは祖母だけだった。


伯父も私を放置する人間か、それともたいした面識もないから相手にしたくないのか、はたまた単に仕事が忙しいのか・・・。


祖母からの手紙には、自分はもう高齢だからラルクロッドに行くことは難しいとだけ書かれた手紙が送られてきた。





はぁ・・・・・寂しいな。




気分転換の為、屋敷と商会の中間くらいにある高い丘の上に転移した。ここなら誰も来ない。

今日は天気も良いので遠くまで街並みが見渡せる。後ろを向いて反対側を見れば、景色はがらりと変わって広い森がある。そろそろ森の中を探検するのもいいかもしれない。


転移魔法はオリヴァー兄様が魔法の本を買ってくれたので、必死に読み込んで習得した。



はあー・・・・・。気分は晴れない・・・。



一度だけでも返事が来たのだから満足しなくてはいけないのかもしれない。会いたいなんて書いたからワガママな孫と思われて、祖母からは手紙の返事が届かなくなってしまったかもしれない。


伯父からの返事はいまだにない。


母には愛しているか分からないと言われた。

父は母を肯定した。

私だって辛かったし、今も現在進行形で辛いよ。書庫にあった絵本の中の母親は自分が産んだ子供をとても愛していたよ。子供の為なら頑張れるんだって。


兄のおかげで髪を切られる事はなくなったが、忙しい兄に会える時間はなかなか訪れない。朝、目覚めるとメッセージカードと一緒にお菓子や小さな花が置かれている時がある。すごく嬉しい。本当にとてもとーっても嬉しいんだけど、ちょっとでいいから兄の顔を見たい。兄と会話をしたい。貰ったお菓子を一緒に食べたい。

これもワガママなのかな・・・・・。


祖父と実兄はずっと不在。

騒がれていないのだから、各国の支店巡りでもしているのかもしれない。

羨ましい。私は屋敷と商会とこの丘以外の景色を知らない。



あはは、 どう考えてもいらない子だよね・・・。

あれれ? 笑ってるのに涙が出てきて止まらない・・・。


あーっ、もーっ、うおーっ、

ねえ、誰か私を見て。ねえ、誰か私を愛して。

苦しいよぉ、寂しいよぉ、辛いよぉおおお。


「 っ!? 」


突然、魔力がぐるぐると腹の中で暴れ、体の中から爆発が起こりそうな気持ち悪さで、心だけじゃなくて体まで本当に苦しくて、辛くて、どうにかなりそうだった。



このまま死んじゃうのかな・・・。

でも死んだほうがいいのかもしれない・・・。





「おいっ! 大丈夫か? あ、いや全然ダメそうだな。ちょっと触れるぞ?」


うずくまっていた私を見つけた男が、慌てた様子で抱きしめてきた。


あー、なんなのこの心地良さは・・・。

あー、理解できた・・・。


きっと空腹の飢えよりももっと限界だったのは、愛情の飢えだったのだろう。それが限界を突破して魔力が暴走してしまった。


ボサボサな髪でぼろぼろなローブを着た怪しい男だったけど、ぎゅうっと抱きしめてくれた。それだけでカラカラだった心が満たされて幸せを感じてしまった。


その後は感情が溢れ、コントロールができずに声を出して泣いた。


嗚咽がおさまった頃、優しく背中をポンポンされながら、「落ち着いたか?」と言われこくりと頷いた。男が私を離そうとするから、頭をグリグリと男の胸に押しつけて、イヤだと抵抗した。


「ふはっ。顔を見るだけだ。 本当に大丈夫か確認させてくれ」

「・・・・。(ムリムリやだやだ)」

「な? ちょっとだけだから」


離れたくなかった。逃がさないように男のぼろローブを右手も左手も力を込めてぎゅっと握りしめてから、しぶしぶ、しょうがなく、本当にイヤだけど仕方なくゆっくりと顔を上げた。


あ、オッドアイだ。


「ははっ・・・。 ちょっとしゃがんで目線も合わせたいんだけど、まぁ、仕方ないか」


苦笑しながら私の両頬を男の両手が包む。それで何が分かるのかは知らないが、真剣な顔で私の症状を確認した後は、フっと笑ってまたぎゅうっと抱きしめてくれたので、私も遠慮なく男の背に手を回した。

んー、満たされる。




「ところでおチビちゃん。 初対面のお兄さんに心開きすぎじゃない?」




そう言われればそうですね・・・。

あ、もしかしたら抱きしめられたのが久しぶりだったからかな。この心地良さを知ってしまった私は、明日から生きていけるのだろうか・・・。

心配だ。


ロイエルと名乗った男とたくさん話をした。人と会話をするのが久しぶりで興奮してしまった。

ロイエルは魔法に詳しく、私の魔法にダメ出しばかりだし、お説教をされた。「転移も使えるのに?」と言ったら、魔力の流れが悪い上に魔力の使い方が大雑把。逆によく上級魔法の転移を習得できたもんだと言われた。しかも魔法は、魔力があると分かった時点で、魔法局から人が派遣され、基礎を学ぶらしい。知らなかった・・・。実兄は学んだのかな? それから定期的に魔力を放出しなければ体に悪い。感情を制御できないとまた魔力を制御できなくなって、いずれ暴走すると言われた。


私には感情の制御が一番難しいかも・・・。


「・・・なんか他にもまだ隠し事がありそうだな? この際だから全部吐き出せ。ちゃんと聞いてやるし、解決してやる」


ロイエルが心配そうな顔をしながら、私の顔を綺麗なオッドアイの瞳で覗きこんできた。


遮断は常時展開をしている。

知られたくないことは隠せて・・・いるよね?


ボサボサで伸ばしっぱなしの前髪の隙間から探るような目で見られ、何となく見透かされているような気がした。


でもロイエルならバレても、言いふらされてもかまわないと思えた。


叱られたことが、話を聞いてくれたことが、抱きしめてくれたことが嬉しすぎて、そう思ってしまった。



病んでますねぇ。

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