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ミュゼリアはもう戻れない  作者: ぱんどーる


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よろしくお願いします。

私はメルティアン伯爵家の長女ミュゼリア。


見た目は髪も瞳も淡い色なので、周囲には儚げな印象を与えているらしい。中身はまーったく違うのだけど。


こうなるまでには色々とあったので説明したい。


まず、私は生まれた時から貴族だったのではない。

商家生まれの平民だ。


歴史は古く、代々受け継がれてきた中で、高祖父と曾祖父には歴代の中でも飛び抜けた商才があった。この二代で一気に規模が拡大された。生国だけでなく、支店を他国にも広げた。


期待されたものの、たいした商才はなかった祖父には種馬としての才能があったらしく、七人の息子と一人の娘がいた。男兄弟だらけの中で末っ子だった母は、祖母や兄達に懐くことはなく、重度のファザコンで、祖父が仕事で他国に行かなければならない時も常に一緒についていった。


祖父は母をラルクロッドに連れて来てしまったことが人生で一番の失敗だと酔うたびに口にして泣いているらしい。


このラルクロッド国にも支店を置き、軌道に乗ったところで、母が貧乏男爵家に目を付けられ、圧力で強引に婚姻を結ばされてしまい、貧乏男爵の次男が婿入りしてきた。そして常に多額の金品を要求された。


仲の良い夫婦ではないはずだったが、結婚後すぐ兄ジョエルが生まれ、その翌年に私ミュゼリアが生まれた。


このラルクロッドで魔法が使える者は希少だったが、祖父や母の生国グレイウッドは魔法が使えることは当たり前だった。その血を受け継ぐ、兄と私にも魔法が使えた。


魔法が使えない変わりではないが、このラルクロッドではギフトと呼ばれる神からの贈り物があった。全員が持っているわけではなく、所持しているのは国民の半数くらいで、貴族、平民は関係ないらしい。喜ばれるギフトから笑われるギフトまで様々なギフトがあるらしい。

同じ名前のギフトが被ることはない。持ち主がいなくなってから十年くらい経つと、またどこかの誰かがそのギフトを授かるらしい。


五歳になると教会に行き、『鑑定』をしてもらう。


なんと兄は『査定』のギフト持ちだった。

商家の人間には活用しやすいと言える良いギフトを授かった兄はとても喜んでいた。

母も私も一緒に喜び、お祝いをした。


面白くないのは、元父。


自分は貴族に生まれたのに、末端で、貧乏で、次男だから後継者でもなく、当主の父が用意した縁談相手は移住してきた平民。家の為だと父に強く言われ、貴族との結婚も叶わず、平民にさせられた。


妻となった女は平民のくせに金持ちで、魔法まで使える。子供達は二人とも俺の唯一の自慢である容姿を受け継いで生まれた。特に娘は俺に似ている。その上、二人とも妻の魔力も受け継ぎ、息子は今日の鑑定でギフトまで授かっただと?


ふざけるなっ!


楽しい家族パーティーは父が暴れて最悪な思い出となった。


突然元父は立ち上がり、兄のもとへ歩くと何も言わず殴った。椅子から転げ落ちた兄に馬乗りになって容赦なく殴り続けた。母が止めに入ると、大声で文句を言いながら母の髪を乱暴に掴み、振り回して兄と同じように何度も殴った。


私は怖くて動けなかったし、助けを呼ぼうとしてもうまく呼吸が出来ず、声を出すことも出来なかった。


警備隊が来てくれるまで、私達三人の地獄は続いた。


ガタガタと震える私を見た元父は、ニヤリと気持ち悪い顔をしてこちらに近づいてきて私の髪を持ち、縄を振り回すようにして何度も壁に投げつけ、気を失っている間に髪をバッサリと切られた。


あまりの惨状に駆けつけた警備隊も声が出なかったらしい。元父以外は全員意識がなく、死んでいると思ったらしい。その中で元父は、逃げるわけでもなく椅子に座り、優雅にワインを飲みながらニヤついていたらしい。


私達三人は、全員が重傷で完治するまでに半年以上かかった。それぞれに消えない体の傷と心の傷が残った。私は額に傷がある。


それぞれの現場にいた曾祖父に祖父、伯父達がほぼ同時に駆けつけて、元父とすぐ離縁、慰謝料請求の手続きをして、店を畳み国を出る準備を始めた。


しかし、ラルクロッドの王家から待ったがかかった。


ラルクロッドでも本店から送られてきた優秀な人材の頑張りと、母の微量? な頑張りで、元父にお金をむしり取られても、男爵家から脅されても、それ以上に利益をだしていた商会。元を辿れば、大陸中に名を轟かせているユニオン商会。


貧乏男爵家と天秤にかけるまでもない。


男爵家は取り潰され、足りない慰謝料は王家が今すぐ出す。陛下自身の子供達の誰かと、長男長女を結婚させてもいい。っていうか是非させたい。何せ様々な国とのパイプがあり、独自の販路を確立させ、しかも大金持ちで魔法も使える。長男にいたってはギフトまで持っているのだ。長女も来年の鑑定で何か授かるかもしれない。それに二人の見た目も、貴族らしい色を持っているし、顔立ちもなかなかに良い。どこかの養子に入るもよし、今すぐ爵位を与えてもよし。


出ていかれる方が遙かに損害が大きい。



そんな思惑がダダ漏れの国王に対して、我が一族を相手に交渉で勝てるつもりでいるのか? と内心では呆れているが、キレイに隠した曾祖父と伯父達 VS ラルクロッド側の交渉が行われた。

祖父が不参加だったのは、母が離さなかったらしい。


数時間後、


ぐったりした様子を隠せない国王陛下に、げっそりとやつれた宰相や重鎮たち。反対にスッキリとした顔でにこやかに王宮から出て行った曾祖父と伯父達の話は、噂になったらしい。


ラルクロッドの王都にある商会はそのままに、この国で拠点を置くならここだと曾祖父が断言したメルティアン伯爵領に商会を置く事になり、周辺の土地も容赦なくもらった。


王命での婚約は不可。こちらは誓約魔法まで使った。


この時、祖父は曾祖父や伯父達の説得により、長男に全ての権利を譲渡し、母と兄と私の三人と一緒にラルクロッドで生きていくことになった。


そうしてラルクロッドでの地盤が固まった頃、曾祖父は亡くなった。


そんな中で、兄は二回誘拐され大騒ぎになった。

母はここの伯爵家の当主から猛アタックを受けた。

当主は反対する祖父の条件を乗り越え、真剣に母を口説き、ようやく母の心も手に入れることができて結婚した。



そうして私は貴族になった。



ちなみに今の父も再婚で長男が一人いた。

新しい父も、少し歳の離れた兄のオリヴァーもとてもいい人だ。


母が幸せそうな顔をしているのは私も嬉しい。

実兄はギフトを活かしてラルクロッドにある商会を継ぐ気満々なので、オリヴァー兄様と後継者争いの気配は全くないことは良かった。


だが、私の性格がひねくれていったのはこの頃だった。


前の小さい家の方が母も兄も近くにいたし、会話もあったし、二人からの愛も感じて幸せだった。私もよく笑っていたと思う。

この大きな屋敷に来てからは、家族とまともに話をしたのは最初の食事の時だけだった。その時だって、壁際で控えている使用人達の目が気になるし、マナーも分からずで緊張していたから、たいした話はできなかった。


祖父は母が遅い親離れをして、父にベッタリになってしまったのでしょぼくれていたが、実兄が祖父にベッタリになったので機嫌が戻り、母の時のようにあちこち連れ回しはじめた。

義兄は後継者教育の為、可哀相なくらいにスケジュールが過密で自室から出られない状態だった。



これは虐待ではないとちゃんと理解している。皆が自分に夢中だったから忘れられた、ただの放置。



そんな私に対して、使用人達も家族に倣った態度になってしまった。衣食住全てにおいて基本放置されるようになった。


男の子のように短くなった髪が肩につく頃になると、毛先を整えましょうと言われ、アゴのラインの長さに切られる。

これは絶対に嫌がらせだろう。



こんな環境だったから、誰にも言っていない秘密が二つある。



一つ目は、私がギフト持ちである事を話していない。

しかも二つ持ちだった。


二つ目は、魔法を独学で学び、ある程度は自在に使える事も話していない。


ギフト持ちなんて知られたら、実兄のように誘拐されてしまうかもしれない。私が誘拐されたとして、この環境で誰が救出してくれる?

王家が約束を破り、結婚させられるかもしれない。一番の切れ者であると言われた曾祖父はもういない。今実権を握っている伯父は忙しいので、すぐこの国に来てくれるか分からない。放置状態だから教育は受けていない。屋敷にある書庫で、本を読んでマナーを頭に入れただけの私に煌びやかな世界で居場所があるはずがない。



私のギフトは『遮断』と『記憶』



遮断は授かる前に、分かっていた。

誘拐されたくない、望んでいないのに髪を切られたくない、本を読んでどうにかマナーを覚えている所を見られたらバカにされるから見つかりたくない。王家に目をつけられたくない。


心の中で強く願っていたことが、現実になった時は驚いた。


「そろそろあのチビの髪を切ってやらなくちゃ」とハサミを手にした使用人が、私の前を何度も通り過ぎたが、隠れていないのに気付かれなかった。誰が書庫に入ってきても、自由に動いて本を探す私に気付かなかった。


だから教会で遮断を使い、ギフトは授かってなかった事にした。

魔力鑑定も遮断で調整した。


使いこなせば本当に便利な『遮断』


放置を利用して、私は遮断を使いこなす事と魔法に夢中になった。


遮断したから『記憶』と言う名のギフトではないかもしれない。記憶だろうなと思ったのは、忘れられないからだ。一度見たもの、会話をちゃんと覚えているのだ。


元父の暴力もその時の暴言も、今の環境も、この家の使用人達の私に対する扱いも、全部、ぜーんぶ覚えているのだ。



今の私の『記憶』は忘れたい事ばかりで埋めつくされている。


今の私の『記憶』にはまだ良い思い出がない・・・。


祖父はけっこうなおバカさんタイプ。

母はそんな祖父を見て育ってますので・・・。


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