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落ちこぼれ私生児令嬢は怪盗白兎を捕まえる  作者: ままはる


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09.魔法の素質

⭐︎


 情報通のルフィナ様によると、ユリウス・ドラクレール様はペルテリア王国中央地方に領地を持つ、ドラクレール伯爵家の次男で現在二十二歳。


 騎士団への入団は、中央貴族学校の在学中、十七歳の時。剣の腕もさることながら、魔法の才を見出されて騎士団から声が掛かったそうだ。


 現在はこの南部で、魔物や盗賊の討伐など、治安維持の任にあたっているという。


「――で、その職務の傍ら、才能のある人材を見つけては、騎士団への入団を声かけしていらっしゃるそうですわ」


 あれから二日後の『技能』の授業中。訓練室の片隅で微笑みを湛えているユリウス様を横目で見ながら、ルフィナ様がアリアナへそう説明をしていた。


「その白羽の矢が立ったのが、レオン様というわけですわね。さすがはレオン様ですわ」


「でもまさか、入団をお断りしていたとは驚きですわ。レオン様でしたら、きっと素晴らしい騎士様におなりになるでしょうに……」


「詳しい理由は教えてくださらなかったけれど、レオン様は領主としての責務を果たしたいのだとおっしゃっていたわ」


 レオン様は、侯爵家の嫡男だ。将来は現在のカーマイン侯爵の後を継ぎ、侯爵領の領主となられる。騎士の道を選べば、領地のことは他の誰かに任せることになるだろう。


 それはともかくとして。何故ユリウス様が訓練室にいるのだろう?


「……おい。なんでてめぇがここにいるんだよ?」


 私の内心を代弁するかのように、レオン様がユリウス様に詰め寄った。


 ユリウス様はにこりと笑う。


「校長先生の許可をいただいたからだけど?」


「そんなことは訊いてねぇ! 何のためにいるのかって訊いてるんだよ!」


「僕の仕事は治安維持と、騎士のスカウトだからね。ここの生徒の中に騎士に相応しい者がいないか、視察に来たんだ」


「……っ!」


 ユリウス様の本心は、レオン様を口説くためだろう。しかしそう言われてしまうと、レオン様も反対することができない。


「と、いうわけで。これから時々、こちらにお邪魔することになると思います。どうぞ皆様の実力を、存分に発揮してください。ご令息だけに限らず、ご令嬢も大歓迎ですよ」


 生徒たちに、小さなどよめきが起きた。通常騎士へのスカウトは、あの人は凄いらしいという噂が巡り巡って騎士の耳に届き、そこから初めて検討されるものだ。このように直接騎士に見てもらえる機会など、滅多にない。


「それでは、いつも通りに剣技と魔法に分かれ、課題に取り組みなさい」


 先生の一声で、授業は通常通りに開始された。


「騎士様に見られていると思うと、緊張してしまいますわね」


「私、実は火を出す魔法を習得しましたの。ここでお見せしたら、騎士様のお目に留まるかしら?」


「ふふっ。でしたら私は、旋風を起こしてみせようかしら」


 令嬢たちは浮き足立っている。そのほとんどは、騎士になりたいからではなく、見目麗しい騎士様の目に留まりたいからだ。魔法の苦手なアリアナさえも、あの蛍のような明かりを自慢げに翳して見せている。


 何にせよ、皆んなが楽しそうで何より。


「リタ・ブロックス! 本当に貴女は、何百回同じ注意をすれば理解できるのですか!?」


 いつも通り、とんちんかんな魔法陣を描いた私に、先生の鋭い声が飛んできた。


「ごめんなさい」


「明かりを生み出す魔法は、初歩中の初歩です! 初等部の子でもできますよ!?」


「ごめ――」


 謝罪を繰り返そうとした私の頭に、何かが触れた。何が乗ったのかと見上げると、ユリウス様の大きな手が置かれていた。


「は……?」


「本当に貴女は面白い人ですね、水飲み令嬢さん」


「み、水飲み令嬢……」


 先日の醜態を揶揄され、私の顔が熱くなる。しかしユリウス様は構わず、頭に触れていた手をゆっくりと、肩から指先へと滑らせた。


「断りなくレディに触れて、申し訳ありません。しかしやはり貴女には、十分すぎる魔力がありますね」


「はい……?」


「お手を触れただけで、お分かりになるのですか?」


 さりげなくアリアナが私の腕を引き、私をユリウス様から引き離す。


「はい。それに彼女の場合は、さきほど描いていた魔法陣の鮮明さからも、確かな魔力量があることがわかります」


 え? そうなの?


 自分の魔力を指先から放出しながら虚空に描く魔法陣は、魔法の超基礎である。慣れてくるとわざわざ魔法陣を描く必要はなくなるのだけれど、落ちこぼれを演じるために私は魔法陣を描き続けていた。


「正しい魔法陣が描けていれば、この訓練室丸ごと照らせるくらいの明かりは出せるはずですよ」


 ユリウス様、やめてください……私がここで魔法を成功させることはあり得ないし、それ以上私を褒めると、アリアナの機嫌も悪くなってしまいます……!


「あ……その、私、頭悪くて……魔法陣? とか、魔法式? とか、よくわからなくて覚えられないんですよ……」


「折角それだけの素質をお持ちなのですから、一度真摯に取り組んでみることをお勧めします」


「あは……はは……」


「ユリウス様。私はどうですか? 私の魔力の量も測っていただけますか?」


 アリアナは私を押し退けて、ユリウス様にぐっと体を寄せた。


「ええ。では、失礼しますね」


 ユリウス様は私にしたのと同じように、アリアナの頭に手を置いた。そしてにっこりと、優しい笑みを浮かべる。


「魔力の量や質は生まれ持ったものですが、後天的な努力で大きく改善します。頑張ってくださいね」


 めちゃくちゃオブラートに包んでいるが、要するに魔力が少なかったんだろうなぁ。


 アリアナは悔しそうに下唇を噛んだが、頭に触れてもらえたのが嬉しかったのか、満更でもない顔をしている。


 するとそこから他の令嬢たちも「私も、私も」とやって来て、すっかり私のことは忘れられた。


 ユリウス様を取り囲む輪から離れてホッとしていると、こちらを見ていたレオン様と目が合った。レオン様は呆れたような目をユリウス様に向けた後、私に向かって小さく笑いかける。レオン様はお優しい方だから、ユリウス様に絡まれた私を心配してくれたのだろう。


 今後ユリウス様の前では、細心の注意を払って落ちこぼれを演じようと、私は身を引き締めた。


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