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落ちこぼれ私生児令嬢は怪盗白兎を捕まえる  作者: ままはる


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05.怪盗白兎

 一目でピンときた。怪盗白兎(ラパン)に違いない。


 ラパンは仮面の隙間から見える目をまん丸に見開き、凍りついたように私を見下ろしていた。


「あ――」


 何かを言いかけて、やめる。それから口の中で早口に唱えると、白いグローブを嵌めた手を自分の喉にあてた。


「こんばんは、レディ」


 ……あれ? なんだか、ラパンの声が変わった? 今のは、自分の声を変える魔法だろうか。


「どうやら道を間違えたようだ。不躾な訪問を許していただきたい。では――」


 ラパンは、今し方入って来た窓から出て行こうとマントを翻す。


 私はそっと右手を差し出し、唱えた。


「【白鎖の封縛(ブランシェリア)】」


 言葉と魔力に呼応して、仄白く光る鎖が出現する。鎖はあっという間にラパンの体と足に巻き付き、彼の自由を奪った。


「……嘘だろ……」


「その鎖は、抵抗すればするほど強く巻き付くから、大人しくしてた方がいいよ」


「……」


 ラパンは無言で私を睨みつける。窓の向こう、どこか遠くの方から声が流れてきた。


「ラパンはどっちへ行った!?」


「わかりません! 突然消えました!」


 その内容から、騎士団か自警団の声だろうと推測する。


「泥棒の帰り? 予告状は貿易商のテレーヌさんのお屋敷だったっけ?」


「……」


 ラパンは答えてくれない。私を見据えたまま、魔法式らしきものを唱えている。どうやら鎖を解こうとしているようだが、上手くいかないらしい。


「私はそんなに魔法に詳しくないけど、多分簡単には解けないと思うよ? その鎖、私の編み出したオリジナルだもの」


「……編み出した?」


 お。喋ってくれた。


「捕縛魔法の応用編。魔力の具現化だけで縛ると魔力で解かれてしまうし、従来の縄仕様だと刃物で斬られちゃうでしょ? だから、魔力でも解けない刃物でも斬れない鎖にしてみたの。初めてにしては上出来だと思わない?」


「初めて……? この鎖を出したのは、今が初めてだと?」


「うん。さっきまで読んでた本を、参考にしてみたの」


 ラパンは口をぽかんと開けたまま、私の顔をまじまじと見ている。


「えっと……どうしようかな。このまま一緒に、騎士団のところに行く? あー……でも、まずいなぁ……」


 泥棒を捕まえたのだから、引き渡すのは当然として。どうやって捕まえたか、騎士団に正直に話しても大丈夫だろうか。先に義母やアリアナにお伺いを立てた方がいいかな? あの人たちはきっと、私が泥棒を捕まえたことを褒めるよりも、魔法を使ったことを叱るはずだ。でもそうすれば、捕まえた功績は全部あの人たちのものにされてしまうだろう。それはちょっとだけ、面白くない。


 私が腕を組んであれこれと考えている間、ラパンは飛んだり跳ねたりしてなんとか鎖を解こうと抵抗していた。


 あーあ……抵抗すれば強く巻き付くって言ったのに。案の定、鎖はラパンの体の肉に食い込んでいき、彼は苦しそうな声を漏らす。


「ねぇ、ラパ――」


「ドタドタとうるっっさいのよ! 何時だと思ってるわけ!? 朝になったらタダじゃおかないから覚悟しなさいよ!」


 床下から突き上げるような衝撃と、アリアナのヒステリックな声が飛んできた。


 この屋根裏部屋の真下には、一応父に与えられた私の部屋がある。中扉を隔てて隣は、アリアナの部屋だ。ラパンが飛んだり跳ねたりするから、音が響いたのだろう。


「ちょっとだけ緩めてあげるから、静かにしてくれる? アリアナを怒らせたら、朝食の水すら貰えなくなっちゃう」


「……」


 戸惑いながらも小さく頷いたのを見て、私は鎖の力を緩めてあげた。


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