04.屋根裏部屋で
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父が帰宅しない日の夜の私は、忙しい。
義母とアリアナへの夕食の配膳から始まり、下げた食器と調理器具を洗う。調理場の床やコンロも、ピカピカに磨き上げなければならなかった。料理人や下女たちは、とうに引き上げているからだ。
学校で宿題が出た日は、そこからアリアナの宿題に取り掛かる。今日は出なかったので、代わりに屋敷中の窓拭きを命じられた。
ようやく自分に与えられた部屋――とは言っても、狭くて埃っぽい屋根裏部屋なのだが――に入った頃には、すっかり夜も更けていた。
赤切れの酷い手をスカートのポケットに突っ込み、カチカチになったパンを取り出す。
ふふっ。調理場の掃除は大変だけれど、残飯にありつけるから嫌いじゃないのよね。
この家でまともなご飯が食べられるのは、父のいる夕食時だけ。朝は私の席に水しかなくても、忙しい父は気付きもしない。夜はさすがに水だけでは怪しまれると思っているのか、量は極端に減らされながらも食べさせてもらえる。ちなみに昼は学校の食堂で好きなだけ食べられるので、学校だけは風邪を引こうが嵐が来ようが、這ってでも行く。
「さて、と」
ガリガリとパンを齧りながら、通学鞄の中から本を取り出す。今日、図書室で借りて来た本だ。
アリアナは私が図書室に行くのも嫌な顔をするが、アリアナの成績の為だと言うと渋々許可してくれる。それでも私を見張るように図書室まで付いてくるので、好きな本を好きなだけ借りることはできない。数学や外国語の本を選びながら、彼女の目を盗んで、本命の一冊をその間に忍び込ませるのだ。
狭い窓から差し込む月明かりだけでは、文字までは読めない。
「【光】」
右手に仄かな魔法の明かりを生み出し、本の側にそっと浮かべる。万が一この光が外に漏れて、アリアナたちにバレたら怒られてしまうので、本が読めるぎりぎりの光量に絞った。
床に胡座をかき、本命の一冊の表紙へと目を落とす。
『古代魔法の本質と構成学――応用編――』
私は魔法が好きだ。だって魔法は、努力がそのまま目に見える結果として現れるから。難解な公式を理解して、緻密な魔法式と魔法陣を組む。自分の魔力の流れを、意のままに操らなければならない。いくつもの難所を乗り越えて、それが成功した時、この手の中に超自然の現象が生まれる。それがたまらなく快感なのだ。
――どのくらい、文字の羅列に没頭していたのかわからない。少しだけのつもりが、捲ったページの量を見る限り、かなりの時間が経ってしまったようだ。
「さすがにもう寝ないと」
明日――もう今日かもしれないけれど、どんな体力仕事を命じられるかわからないからね。
明かりを消して、床に直接敷いたくたびれた毛布にくるまり、横になる。瞼を落とすと本の内容が蘇り、今すぐ飛び起きて試してみたい衝動に駆られた。
ゆっくりと呼吸を繰り返して胸の疼きを鎮めているうちに、心地良い微睡みが訪れる。意識を手放そうとした、その瞬間――
カチャン……ガタガタッ。
物音がして、目を開く。その目に映り込んだのは、薄闇の中に映える真っ白なマントだった。
「……は?」
「え?」
思わず漏らした私の声に、白いマントからも呟きが溢れた。
白い仮面で顔の上半分を覆った、人間――体つきからして、恐らく男の人だ。仮面の両サイドには、兎の耳のような長くてふわふわした飾りが付いている。
「ラパン……?」




