41.疑惑
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「結局、私は無力なままだよ……」
カーマイン侯爵邸を訪ねた三日後。私は再び孤児院を訪れ、エドワードの前で項垂れていた。
カーマイン侯爵家にラパンの予告状が届いたことは世の中に周知され、学校のみならず各所を騒然とさせている。レオン様の話題で持ちきりになった学校で勉強をする気分にはなれなくて、こっそり抜け出して来てしまった。
レオン様の説得はできなかった。あれほどの信念を持った人を、止めることなんてできない。
「リタの言うことなら、聞いてくれると思ったんだけどな……」
「にわか伯爵令嬢の言うことなんて、侯爵家嫡男が聞くわけないじゃない」
「そういう意味じゃないんだけど。ブロックス家の一件の舞台裏、見せられるものなら見せてあげたいよ」
「どういう意味?」
エドワードは、思い出し笑いを堪えながら口を開く。
「テレーヌ商会とかレスター伯爵の時なんかは、全部自分で調べて勝手に動いてたのに、リタの件だけはめちゃくちゃ俺に相談してきたんだからな」
「エドワードに相談? 何を?」
「どうやったら自然にアリアナとリタを引き離せるか、とか。アリアナと婚約者ごっこをしたら、リタは嫌な気分になるかな、とか」
「あ……」
思い返せば、アリアナを自然と引き留めてくれたことも、八つ当たりされそうな場面で機嫌を取ってくれたことも、一度や二度ではない。
「あと、リタに渡すお菓子の相談とか。焦ってラパンを妙なキザ野郎に仕立てちゃって、リタに引かれてないかってのも気にしてたな」
「何それ」
胸がじんわりと温かくなって、思わず笑ってしまう。
「とにかく、レオン様はリタのことが好きなんだよ。最初は同情だったかもしれないけど、あのパーティーでリタと踊ってる時のレオン様、すげぇ嬉しそうだったし。……まぁ、その後アリアナがブチギレるのを見越しての計画だったから、複雑ではあっただろうけど」
「私なんかに、好かれる要素があるとは思えないけど……」
でも、そうだとしたら嬉しい。そして叶うならば、レオン様自身の口から聞きたい。
私とエドワードは、ほぼ同時に雲ひとつない青空を見上げた。
「レオン様の計画通りにいくことを、祈ることしかできないのかな……」
「結果は明日、だな」
「……ん? 明日?」
目線を下ろし、エドワードを見る。
「え? 決行は今日なの?」
「リタが止められてたら良かったんだけど。今回は早く終わらせたいからって、ユリウス様が交代で警備から外れる初日を狙うんだって。多分決行は、今夜だ」
「ユリウス様が警備から外れるのは、どうやって分かったの?」
「ユリウス様って、ここのお菓子をよく騎士団の詰め所に差し入れするだろ? 前もって、今日こっちに戻って来るからお菓子を用意しておいて欲しいって頼まれてたんだ」
……あれ? 何かが引っかかる。
「レオン様の方には、一昨日院長が届けたお菓子の箱の底に日付を書いたメモを入れておいたから、伝わってるはずだよ」
「待って……ユリウス様、今日こっちに戻って来るって言ったの?」
「そうだけど?」
「私には、任務が終わるまで戻らないって……」
「……え……」
一気に頭から血の気が引いていく。
ユリウス様の気が変わったのだろうか。それとも、あの言葉自体が嘘だった? それとも――
「俺が共犯者だって、バレてる……?」
「だとしたら、既に騎士団に拘束されてるはずだよ。でも、疑われてはいるのかも……」
「ど、どうしよう!? もしこれが罠だったら、ユリウス様とラパンが鉢合わせしちゃうよな!?」
エドワードは頭を抱えて、再び空を見上げた。太陽はとうに一番高いところを過ぎている。今から馬を出したとしても、カーマイン本邸に着くのは日付が変わる頃になってしまう。
「レオン様、ユリウス様と本気でやり合ったら勝てるか分からないって言ってたんだ。他の騎士たちに囲まれでもしたら……!」
もしユリウス様がエドワードを疑っているなら、その先にいるレオン様にも辿り着いているはず。今夜レオン様がラパンとして動けば、確実に正体が露見する。
私は慌てふためくエドワードの手を取り、真正面から見据えた。
「エドワード、頼みがあるの。今から言う物を、すぐに用意して欲しい」




