36.修復
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学校の寮へと居を移した私だが、与えられたのは特別室だった。領主である父への配慮なのか、父の計らいなのかは分からない。
多くの生徒が暮らす棟とは別の棟にあり、公爵家や侯爵家の令息令嬢が入るような部屋だ。侍女の部屋まで用意されていて、付き添いを滞在させることもできる。
「お嬢様。民間紙にラパンの記事が載っていましたが、切り抜いておきましょうか?」
「はい、お願いします」
授業を終えて部屋に戻ると、部屋を綺麗に整えてくれたレーニが記事を差し出した。
「すっかり、お嬢様もラパンのファンですね」
「ファン……あはは……そ、そうですね」
新聞等も自由に読めるようになってから、私はほとんど無意識にラパンの記事を集めるようになっていた。それに気付いたレーニが、こうして取っておいてくれるようになったのだ。
ブロックス家の騒動以来、ラパンは鳴りを潜めている。けれど、あの時の口ぶりからして、事件はまだ続くはずだ。
私は、レーニが切り取ってくれた記事に目を通した。最近の話題は、専らラパンの次の標的について。以前は、難破事故と教会の崩落事故に絡めて、積荷の取引相手や、司祭、司教、果ては騎士団長の名前が挙がっていた。それが、ブロックス家の一件以来、後ろ暗いところがありそうな貴族や資産家の名前ばかりが並ぶようになっている。
「どれも違うと思うんだけどな……」
ラパンの最終的な狙いは、あの事故の責任を隠そうとした人たちを庇護している人物のはずだ。
けれど、私は世の中に疎い。誰と誰が繋がっているかなんて、見当もつかない。結局こうして、根も葉もない噂話を追いかけることしかできないのだ。
「ところで、お嬢様。こちらは、このままでよろしいのでしょうか?」
「うん?」
顔を上げると、レーニの手に二つに割れたティーカップが載っていた。ラパンに貰った、縁にさくらんぼが描かれた白磁のカップだ。
「あっ、それは捨てないで――」
「勿論です。お嬢様が大切にされているお品だと存じ上げておりますので、修復なさってはいかがでしょう」
「修復……?」
「少々見た目は変わりますが、金継ぎをすれば、またお使いいただけるようになりますよ。ミヒャエル・ガロの貴重なティーカップですし、このままでは可哀想です」
「ミヒャエル・ガロ? 有名な人ですか?」
レーニはきょとんとした顔で、二、三度瞬きをした。
「磁器職人のガロです。現存するガロの陶磁器は数少なく高価ですので、それで大切にされているのかと思っておりましたが……」
「そうなんですか……無知でごめんなさい。それは、大切な人からいただいた物なんです」
さすがに、ラパンから貰った物だとは言えない。
「失礼いたしました。私が個人的に陶磁器を好きなだけで、一般にはそれほど知られた職人ではありませんので、ご存じなくて当然です」
「それじゃあ、その金継ぎというものをお願いできますか? あっ、いくらくらいかかるんですか? もし高いのでしたら、そのままでも……」
「旦那様からは、リタお嬢様のご要望には何でも応えるようにと、仰せつかっております。それでは修理に出しますので、お預かりしておきますね」
レーニは、割れたカップをそっと優しく包み込んでくれた。




