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落ちこぼれ私生児令嬢は怪盗白兎を捕まえる  作者: ままはる


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27.パーティー会場へ

 学年末パーティーには、主賓として領主である父と義母も出席する。元より華やかな催しを好まれない父は、初等部、中等部のパーティーも少し顔を出しただけで引き上げていた。今年もダンスを二、三曲眺めたら帰ってしまうのだろうと、学校へ向かう馬車の中でぼんやり考える。


 いや、それよりも――ラパンはこのパーティーに何を仕掛けているのだろう。最低で最高なパーティーとは、どういう意味だろう。考えれば考えるほど、不安が募っていく。


 その一抹の不安を抱えたまま、馬車は学校に到着した。いつものように先に降りようとしたところで、外から扉が開かれる。


「お手をどうぞ、アリアナ」


「レオン様……!」


 ボルドーの衣装に身を包んだレオン様だった。アリアナは私を押し退け、頬をピンクに染めてその手を取る。


 うん……恋する乙女なアリアナの一面は、ちょっとだけ可愛いなと思ってしまう。


 苦笑しながら馬車を降りようとした私の目の前に、白い手袋を嵌めた手が差し出された。


「お足元にお気をつけください」


 ユリウス様だ。私は戸惑いつつも、その手を取る。


「あ……は、はい……どうも……」


「いつもの制服姿も素敵ですが、今日は一段と美しいですね」


「いえいえいえ! と、と、とんでもないです!」


 ユリウス様ってば、どうしてそんな歯の浮く様なセリフを、当たり前のように口にできるのだろう。あぁ、もう、ほら! アリアナが睨んでる!


「おい、ユリウス。お前、仕事中だろ? 生徒にちょっかいかけてていいのかよ」


 呆れた様子のレオン様が助け舟を出してくれる。ユリウス様は軽やかに笑った。


「いいわけないでしょう。見つかれば叱られるよ」


「だったら持ち場に戻れよ。なんだってお前は、事あるごとにリタに構うんだ?」


「そりゃあ、下心があるからに決まっているだろう?」


 し……下心って……


 とんでもない言い回しに、アリアナの表情が凍りつく。


「ユリウス様……? それは一体、どういう意味ですの……?」


「僕とリタの秘密です。ね?」


 それって、例の魔法の授業に誘っていただいている話ですよね!?


「ユ、ユリウス様! そんな風におっしゃると、誤解を招きます!」


「あっはっはっ」


 いや、笑い事じゃないんですけど!?


「リタ。何を言われてるのか知らねぇけど、迷惑なら迷惑だってちゃんと言えよ。まぁ、言っても通じない奴だけどさ」


「納得するまで諦めないのが、僕の信条だからね」


 これはレオン様への言葉だろう。相変わらずユリウス様は、騎士団への勧誘を続けているらしい。


「ともかく、リタ。会場まで僕にエスコートをさせていただけませんか?」


「えっと……」


 横目でアリアナの顔色を窺う。彼女は好きにしろと言わんばかりに、レオン様と腕を絡めて歩き出してしまった。


「では……お願いします」


「ありがとうございます」


 ユリウス様はにこりと笑って、自分の腕を差し出す。遠慮がちにその腕へ触れながら周りを見渡すと、ユリウス様の気遣いの理由が分かった。会場に一人で入っていく令嬢は、誰一人見当たらない。誰もが、必ずパートナーのエスコートを受けているのだ。


「気を遣わせてしまって、すみません……」


「何をおっしゃいますか。これが仕事中でなければ、一曲お願いしたいくらいですよ」


 ユリウス様の優しさが、骨身に染みる。


 大広間の扉を潜ると、そこは煌びやかなパーティー会場になっていた。いくつも並んだ料理のテーブル、優雅な音楽を奏でる楽団、会場を彩る色鮮やかな花々――その雰囲気に圧倒されていると、隣でユリウス様が小さく笑った。


「僕は会場内の警備にあたっていますので、何かお困りのことがあればお声がけください。ディアナもどこかにいるはずです」


「はい。ありがとうございます」


 ユリウス様は軽く手を振って、持ち場へと戻って行った。アリアナの方を振り返ると、彼女はレオン様の腕にしがみついたまま、ルフィナ様の姿を見つけて談笑を始めている。


 ――さて。早速お料理をいただくとしよう!


 壁際に用意された軽食を、ひたすら摘んでは口に放り込んでいく。今日は朝食も昼食も食べていないので、お腹はぺこぺこだった。締め付けるコルセットのせいで、あまり量は食べられそうにないのが残念でならない。


 ハムを挟んだサンドイッチに齧り付いていると、会場を巡回するディアナ様と目が合った。微笑んで手を振ってくれたので、私も手を振り返す。ディアナ様も、なんて食い意地の張った令嬢だろうと呆れているかもしれない。


「……あんた、何やってんの?」


「うん?」


 無心で野菜のピクルスを咀嚼していると、不意に隣に立った人物に声を掛けられた。


「あ、エドワード」


 給仕の格好をして、片手にグラスを並べたトレイを乗せたエドワードだ。


「『あ、エドワード』じゃないよ。あんた、一応お貴族様だろ? こういうのって、皆んなと歓談したりするもんじゃないの? あんた、さっきから食べてばっかじゃん」


「なんで皆んな食べないんだろうね? こんなに美味しいのに」


「皆んな、食べに来てるわけじゃないからだろ」


「あはは。それもそっか」

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