22.参上
「騎士団の差し入れにと思って、届けてもらったんです。休憩所の騎士に渡していただけますか? たくさんありますから、リタもどうぞ」
「ありがとうございます! ここのお菓子、すっごく美味しくて幸せな気持ちになれるので、大好きなんです!」
「ジェニーとメリッサが口煩く分量を管理してるからね。憐れみで買ってもらうんじゃなくて、ちゃんと味で勝負したいんだって」
美味しくて当然だ、と言わんばかりにエドワードが言う。
「ドライフルーツのケーキもとっっても美味しくて、一本ぺろっと食べちゃったわ。ジェニーとメリッサにも、美味しかったって伝えてね」
「あ、うん……」
私の勢いに気圧されたのか、エドワードはたじろいだ様子だった。その隣で、ユリウス様が首を傾げる。
「リタも孤児院のお菓子を買ったことがあったのですか?」
「あ……」
しまった。実はラパンに貰っていたなんて、口が裂けても言えない。
「あの、い、いただいたことがありまして……お、お父様に! それにこの間、お土産にいただいたクッキーも美味しかったですし!」
「そうでしたか。僕もここのお菓子が好きで、時々こうしてエドワードに届けてもらうんです」
「この街まで売りに来るついでにな」
いいなぁ。私も買いに行けたらいいのだけれど、生憎持ち合わせがない。
ユリウス様とエドワードといくつか言葉を交わして別れた後、私は差し入れを手に騎士団の休憩所へ向かった。
騎士様たちの中には私の出自を知って露骨に嫌な顔をする人も居たけれど、大半は鷹揚だった。それに、思っていたよりも女性が多い。休憩所には、ここ数日で顔見知りになったディアナという女性騎士様がいたので、彼女に差し入れを渡す。
「いつもありがとうございます、リタ様」
「そちらのお菓子は、ユリウス様からです」
「ああ、いつもの孤児院のね。あいつ、一人じゃ食べきれないからってしょっちゅうあたしたちにも配るんですよ。ま、美味しいからいいんですけどね」
ディアナ様は屈託なく笑い、クッキーを一枚口に放り込んだ。私にも目配せして勧めてくれたので、同じものをいただく。
うんうん。やっぱり何度食べても美味しい!
「ユリウスはもう帰りました?」
「はい。長居すると隊長さんに怒られる、とおっしゃっていました」
「そうでも言わないと、無休で働こうとするんですよ。あの噂、結構気にしているみたいで」
「噂、ですか?」
おうむ返しに尋ねると、ディアナ様はしまったという顔をした。それから声を顰める。
「あくまで、ふざけ半分の噂ですよ。――ラパンはユリウスがいない時を狙ってる、って」
そういえば、以前レオン様も同じようなことを口にしていた気がする。
「ラパンの正体はユリウスじゃないかってからかう輩がいましてね。それでユリウスがムキになって、休みを返上してラパンを捕らえようとしたんです。そこを隊長に止められた、というわけです」
「それは確かに、ユリウス様にとっては不名誉なことですね……でも、どうしてラパンはユリウス様を避けているんでしょう」
「あたしはただの偶然だと思いますけどね。もし本当に避けているのだとしたら、ユリウスの実力を知っているからかもしれません」
「ユリウス様の実力……」
「あんな涼しい顔をして、剣も魔法も隊長クラスの腕前ですから。今ここにいるどの騎士よりも、腕は立ちますよ」
そこへ、話を聞いていた別の騎士が渋い顔で割り込んできた。
「いくら腕が立っても、肝心のラパンに遭遇できなきゃ意味がない。あいつの悔しさも分かるが、いつ現れるかわからん相手に無休で働かせるわけにもいかないしな」
「でも、本当にラパンがユリウスを避けているのだとしたら、今夜あたり来るかもしれないね」
「ああ、隊長もそのつもりで配置を組むつもりらしい」
そこから先は騎士様同士の仕事の話になりそうだったので、私はそっと頭を下げて休憩所を後にした。
ラパン本人に真相を尋ねてみたいところだけれど、きっと聞いたところで教えてはくれないだろう。
庭園を横切ってぶらぶらと歩き、前庭へと抜ける。正面玄関の扉を開けて中に入ると――そこには、あり得ない光景が広がっていた。
「ラパン……」
エントランスホールに、堂々とラパンの姿があった。床には、下女や侍女、それに執事が、ぐったりと倒れている。
ラパンが私を振り返り、笑みを浮かべた唇にそっと人差し指を添えた。
次の瞬間、目の前が真っ暗になって、私の意識は闇に呑まれた。




