21.ラパンに備えて
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ブロックス家に怪盗ラパンの予告状が届いた――その噂は、あっという間に学校中に広まった。こちらが黙っていても、まるで騎士団に包囲されたようなブロックス邸を見れば、このご時世、何が起きたのかは一目瞭然だった。
今やラパンから予告状が出されたということは、例の船の難破、教会の崩落事故の不正に加担していた一味として見られることと同じ。アリアナは登校を嫌がっていたけれど、父の『後ろ暗いことは何もしていないから、堂々としていろ』の一言で、休むことは許されなかった。
成績は優秀で、聖女のように美しく優しいアリアナを、面と向かって糾弾する声はなかった。ただ腫れ物に触れるように、誰もが気を遣っていた。その一方で――
「他所で子供を作るようなお方ですものねぇ」
「薄汚れた売女の血と、不正にまみれた血……あんな娘と同じ空気を吸うことすら耐え難いわ」
私への風当たりは、以前よりも強くなった。これは予想していたし、ラパンも危惧してくれていたことだ。元より陰口には慣れている。内容が多少変わったところで、痛くも痒くもなかった。
「アリアナ、リタ。大丈夫か?」
こんな時でも、レオン様だけは何も変わらなかった。
「レオン様……ラパンから予告状が届いてから三日、私……恐ろしくて夜も眠れませんの……」
赤い目をしたアリアナが、レオン様に弱々しく寄りかかる。
アリアナも義母も、屋敷の中では貴重品を仕舞った金庫の側を離れず、使用人たちにも二十四時間の見張りを命じていた。夜も何度も目を覚ましては、無事を確かめているらしい。
「世間じゃ義賊みたいに言われているけれど、いざ自分の家が狙われるとなると怖いよなぁ……」
「義賊だなんてとんでもございません! お父様は悪事になど手を染めておりません。ラパンの見込み違いも甚だしいですわ!」
「ああ。俺も、あの厳格なブロックス伯爵が不正に加担していたとは思えない。何か別の理由が……いや、悪い。今はそういう話じゃなかったな」
レオン様は何かを考えるような仕草を見せた後、アリアナの背をそっと撫でた。
「暫く、放課後ついていようか?」
「……え?」
「側にいても何もしてやれないけど、話し相手くらいにはなれる。少しは気が紛れるかもしれないし……って、別にいらないか」
「いいえ! 是非お願いいたします! とても心強いですわ」
数日ぶりに、アリアナの顔に笑みが戻った。
それから七日間、レオン様は放課後、休日は昼前からアリアナの就寝する頃までブロックス邸に通い詰めた。あれほど不安に怯えていたアリアナも、レオン様を独り占めできることで、すっかり調子を取り戻しつつある。私もレオン様が屋敷にいる間だけは屋根裏部屋ではなく自室を使うことを許され、同じテーブルで食事や間食まで摂ることができた。
ユリウス様も何かと気に掛けてくださり、警備の合間に庭で他愛の無い話をすることもあった。
怪盗ラパンからの予告状という異常事態の最中、私はこれまでにない穏やかな日々を過ごしていた。
「あ、リタ。丁度いいところに」
義母に言われ、庭園に設営された騎士団の休憩所へ差し入れを運ぶ道すがら、裏門の外からユリウス様に呼び止められた。珍しく団服ではなく私服姿だ。今日は非番なのだろう。
「リタ、お腹は空いていませんか?」
「私は食い意地が張っているので、いつでも空いていますよ」
「それは良かった」
ユリウス様は微笑むと、離れたところに立つ誰かへ手招きをした。その相手を見て、私は思わず小さく声を漏らす。
「エドワード」
「……よお。久しぶり」
孤児院の厨房で出会ったエドワードが、焼き菓子をいっぱい詰め込んだ籠を手に立っていた。その籠を一旦ユリウス様が受け取り、私に差し出す。




