14.孤児院への慰問
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この日の学校は休みだった。しかし私もアリアナも制服を着て、いつもより早い時間に馬車に揺られている。
「あーあ……面倒くさ……」
目の前のアリアナは不機嫌だ。つるつるの頬を膨らませながら、窓の外を睨みつけている。
「なんでせっかくの休日に、ボランティアなんかに行かなきゃならないのよ」
私たちの行き先は、孤児院だ。学校で募った有志たちが、慰問に訪れるのである。
「嫌なら名乗り出なければ良かったのに……」
「カーマイン侯爵家が後援する孤児院よ? 私が行かないなんて、おかしいじゃない」
まだ結婚したわけじゃないんだから、別に構わないと思うのだけれど、きっとアリアナはレオン様の好感度を上げたいのだろう。
「言わなくても分かってると思うけど、汚い子供が寄ってきたりしたら、あんたが間に入るのよ。指一本、私には触れさせないで。あと、汚れ仕事は全部あんたが引き受けなさいよね」
「分かってるよ。その為に私を連れて来たんでしょ」
「ふんっ」
ボランティアに行くのは初めてのことではない。伯爵家の娘として、領地の病院や施設に何度か慰問に訪れたことがあるからだ。
ただ今回違うのは、学校から慰問に行くということ。行き先はブロックス伯爵領の隣、カーマイン侯爵領の孤児院。なので――
「レオン様、おはようございます」
「おはよう。アリアナ、リタ」
猫撫で声で擦り寄るアリアナに笑顔で手を挙げて、更に私にもレオン様はそれを向けてくれた。
カーマイン侯爵家の孤児院なので、レオン様も慰問に参加するのだ。
他にも参加を希望した生徒が十名ほどいて、私たちは全員が揃うのを孤児院の外で待っていた。
「やぁ。おはよう、レオン」
次々と馬車が到着する中、一際目立つ真っ白な馬車。そこから颯爽と降りてきたのは、ユリウス様だった。
レオン様の表情が凍りつく。
「なんでてめぇがいるんだよ……」
「僕も慰問に参加しようと思って」
「騎士団は、そんなに暇なのか?」
「僕が休みの日に何をしようと、僕の勝手じゃない?」
あれからも何度かユリウス様は学校に来て、技能の授業だけでなく他の授業も見学されていた。誰かが尋ねたところ、それらは公務ではなく、ユリウス様個人の公休を使って来ているということだった。
「ユリウス様は、余程レオン様に騎士団に入って欲しいのですわね」
「こいつ、自分が学校を中退したもんだから、今になって学生気分を味わいたくなってるだけだよ」
「あっはっはっ。嫌だなぁ、レオン。図星を突かないでよ」
「うふふ。ユリウス様ってば、面白いお方ですのね」
大好きなレオン様と、お顔の綺麗なユリウス様に囲まれて、アリアナはすっかりご機嫌である。私への当たりも弱まるかもしれないので、お二人には感謝しかない。
「全員揃ったようですね。まずは院長先生のもとへ、ご挨拶へ参りましょう」
引率の先生に従って、私たちは孤児院の中へと足を踏み入れた。
建物は古く年季が入っており、所々壁に亀裂が走っている。
「あっ! レオン様だ!」
「レオン様ー!」
廊下を歩いていると、子供たちがレオン様に向かって大きく手を振っていた。レオン様も手を振り返していて、親しげな様子である。
「ユリウス様もいる!」
「ホントだ、騎士様だ!」
子供たちの声に、レオン様は訝しげにユリウス様を振り返った。
「ここに来たことがあるのか?」
「調査の折に何度かね」
「調査って……アレか。貨物船の件で? それとも教会の崩落事故?」
「調査内容は機密事項だよ。知りたいなら、騎士団に入ればいい」
「……あっそ」
レオン様はぷいっとそっぽを向いた。
確か一年ほど前、大きな貨物船が海上で難破するという事故が起きた。それから数ヶ月後、カーマイン侯爵領内の教会が、ミサの最中に崩落する事故があった。どちらも多くの犠牲者が出て、この孤児院には遺族となった子供が多く在籍しているのだと、事前に先生が言っていた。
「……ラパン……」
「ん? ラパン?」
思わず私の口から漏れた言葉を、ユリウス様が拾い上げた。余計なことを言ってしまったと後悔したが、ユリウス様もレオン様も、私の次の言葉を待っている。
「あ……いえ、ごめんなさい……ただ、ラパンの一件目の被害者であるカールズ子爵と二件目のレスター伯爵が、建設会社と悪巧みをしていた、という話を思い出したんです。確かその建設会社が難破した貨物船と、崩落した教会の建設に携わっていたなって」
「新聞に載っていましたね」
にこりと笑ってユリウス様が頷く。私は新聞で読んだのではなくて、クラスメイトたちの噂話を聞いただけなのだけれど。
「三件目のコーエン林業も、四件目のテレーヌ商会も、造船と教会の資材や内装に関わっていて、どちらの事故も粗悪品を使った手抜き工事が原因だったと。だから思わず、ラパンを思い出してしまって……」
「リタも、ラパンは悪事を暴く正義の味方だと思いますか?」
「え? い、いえ……そんなことは……」
正義の味方ではないけれど、悪い人ではない――なんて、どこか冷たい目をしたユリウス様には言えない。
「私は、本当の目的が何であれ、高価な宝石や貴金属を盗み出すことは悪だと思いますわ。皆が安心して暮らせるように、騎士団の皆様には一刻も早く捕まえていただきたいと思っております」
アリアナがそう言うと、ユリウス様の目がいつもの穏やかなものに戻った。
「これは耳が痛いですね」
「あら、私はそんなつもりでは……」
「優秀な騎士が入団してくれると、すぐに捕まえられると思うのですけれどね」
「いちいち話をそこに戻すんじゃねぇよ」
半眼でユリウス様を睨んで、レオン様は歩みを早めた。




