12.天才的な思いつき
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「私、天才的なことを思いついたの!」
五日後。約束通り深夜に屋根裏部屋を訪ねてきたラパンを迎え入れた私は、彼が窓を潜り抜けるなり、ずいっと詰め寄った。
ラパンは苦笑を浮かべる。
「唐突だな」
「ティーカップ、持ってきてる?」
「約束したからね」
マントの中から、前回と同じティーカップを取り出した。白磁の、縁に赤いさくらんぼが描かれた可愛らしいカップだ。
私はそれを受け取ると、両手で包むようにして持つ。そして魔法式を唱えた。
「【水】」
空っぽのカップの底から、じんわりと水が現れる。水はゆっくりとカップを満たしていき、一杯になったところで止まった。それを一気に飲み干して、私は得意気に胸を張ってみせる。
「ね?」
「ね? と言われても……?」
「この間貴方に借りた本に、水の魔法が載っていたの。もっと早くあの本に出会っていたら、私は喉の渇きと戦う必要がなかったのよ!」
「それは確かに、天才的だ。この五日間であの本を読んで理解し、水を出せるようになったって? しかもあの本に載っていた内容は、水の攻撃魔法だったと記憶している。こんな風に、飲み水を生成する生活魔法ではないはずだ」
「そこはほら、応用編で。水の基礎さえ理解できれば、なんとでも出来るじゃない?」
「……恐ろしい才能だね……」
ラパンは引き攣った笑みを浮かべながら、お茶の用意をしてくれた。今夜のお茶菓子は、ドライフルーツがたっぷり入ったパウンドケーキだ。それも丸々一本。
「以前私を捕らえた鎖……ただでさえ捕縛魔法は難易度が高いにも関わらず、そこにアレンジを加えて唯一無二の魔法にしていた。それほどの高難易度の魔法を扱えるのに、水魔法の基礎も理解していなかった? 信じられないよ」
「図書室で本を借りる時は、しっかりと吟味して選べないもの。魔法の書架の前を通り過ぎながら、アリアナの目線が逸れている隙を見計らって素早く引っ張り出すの。焦りすぎて以前『闇社会の歩き方』なんて本を借りてしまったこともあったわ」
「リタの話を聞いていると、常識とは何だったかわからなくなってくるな……」
呆れながらラパンは、ケーキをお皿に切り分けてくれる。
「適当に選んで魔法書を持ってきた。まだまだあるから、読み終わったら次のを持ってくるよ」
「ありがとう! 火の魔法を習得できたら、冷たいお風呂に入らなくても良くなるかもしれないね!」
ああ、でも、魔法でお湯にしたことがバレたら怒られてしまうかな。どうにか屋敷の人たちに魔法がバレないように、生活の質を上げる方法を考えていかなくちゃ。
胸をわくわくさせながら魔法書のページを捲る私の目の前に、ケーキを乗せたお皿が差し出された。
「はい、どうぞ。残りは全部あげるから、リタのお腹が空いた時に食べて。五日程度は日持ちするはずだよ」
「か、神……!」
未だかつて、お腹が空いた時にちょっとつまめる物なんて贅沢があっただろうか!? 絶対に見つからないように、しっかり隠しておかなくちゃ。
思わず感涙が溢れそうになりながらも、私はケーキを口に運んだ。
ふわぁぁ……この世のものとは思えない美味しさ……!
「前回のクッキーやこのケーキは、貴方が焼いたの?」
「残念ながら、お菓子作りは未知の領域だよ」
「じゃあ、焼いてくれた人にお礼を言ってね。私に幸せをありがとう、って」
「……うん。伝えるよ」




