甘い計画
綾乃が情報漏洩疑惑をかけられる数日前。
美玲は久しぶりに高校時代の友人からメッセージを受け取っていた。
<ねえ、これ、高瀬さんだよね?>
添付された写真を開く。
映っていたのは、大型ショッピングモールのエントランスだった。
買い物帰りらしい紙袋。
エスカレーター脇のベンチ。
そこに、美玲が担当しているクラスの生徒とその父親、そして綾乃が並んで立っている。
「なにこれ」
指先で拡大する。
三人の距離が、近い。
父親が身をかがめ、生徒の肩に手を置いている。その横で綾乃が笑っている。
角度のせいか——
家族写真のようだった。
「へえ」
美玲はおもしろそうに写真をもう一度見る。
このタイミングでこの写真。
「使えそう」
美玲は写真を保存し、アルバムの名前を「親友」にする。
まだだ。これでは弱い。
次の日、美玲はいつもの喫茶店「フレッシュ」にいた。
テーブルの上には、淡い緑色のクリームソーダ。
溶けかけたバニラアイスが、沈みはじめている。
しばらくすると、息を切らしながら、大学生風の男子が入り口でキョロキョロしている。
「こっちこっち」
美玲は手をふると、その男子を呼び寄せた。
「来てくれて、ありがとう。久しぶりだね。大沢くん」
「いや、先生からメッセージもらえると思わなかったんで、うれしいです」
美玲に大沢と呼ばれた男は、うれしそうに美玲に笑顔を見せる。
「大沢くんがうちの塾卒業してからだから、三年ぶり?」
「そうですね。そのくらいですかね」
「最後にID交換したのに、ぜんぜん連絡くれないんだもん」
「いや……あのとき、俺、めちゃくちゃ緊張してたんですよ」
「覚えてるよ。顔、真っ赤だった」
「それに、先生人気あるから、仕事忙しいだろうし。まあ、俺も大学の授業けっこう大変で」
「そうだよね。気を使わせてごめんね」
大沢はどこか安心したように、背筋を伸ばした。
美玲はその様子を見て、ほんの少しだけ微笑む。
「実はね、大沢くんに頼みたいことがあって」
美玲の「頼みたいこと」という言葉に大沢は身を乗り出す。
「はい?」
「うちの塾にね、今度声をかけたい先生がいるの。でも、その前に少しだけ様子を知りたくて」
「様子、ですか?」
「休日の過ごし方とか。誰と会っているのか、とか」
「ああー、つまり素行調査ってことですか?」
「言い方は任せるけど。ほら、今、いろいろあるでしょ。塾も」
「ああ、ニュースとか?」
「うん。だから、きちんと見ておきたくて」
「確かに、問題になりますもんね」
「ちゃんと謝礼は用意するから」
「え、マジっすか。やりますやります」
「この人なんだけど」
美玲は一段声のトーンを下げると、スマホの中に保存されている写真を大沢に見せた。
「それで、具体的には……」
大沢もそれに応えるように声をひそめて言う。
そのまま二人は、周りに気づかれないよう小声で話し続けた。
やがて、大沢が小さく息を吐いた。
「すみません、なんか俺ばっかりしゃべって」
「いいの。頼んでるの、私だし」
美玲は伝票を手に取る。
「今日は私が出すね」
「え、でも」
「謝礼とは別。これは、久しぶりの再会ってことで」
大沢は何度も頭を下げながら、店を出ていった。
気づけば、二時間ほど過ぎていた。
美玲はストローでグラスを軽くかき混ぜる。
緑色の液体の中で、溶けかけたバニラアイスがゆらりと揺れる。
甘い。
昔と同じ味だ。
「偶然は、重なると必然になるの」
誰に言うでもなく、そうつぶやいた。




