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その証明は、言葉の中に  作者: こなれたタオル


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18/21

見えてきたもの

 カフェ・ブルーバードの店内には、午前の静かな時間が流れていた。

カウンター席に座った黒田は、落ち着かない様子でスマホの画面を何度も確認していた。


「黒田君、落ち着いて。ほら、コーヒーでも一口飲んで」


沢田が淹れたての一杯を黒田の前に置く。


「ありがとうございます」


黒田は言われるままに、コーヒーに口をつけた。さわやかな酸味と苦みが舌を刺激する。


「それ、綾乃ちゃんのお気に入り銘柄なんだ」


「へえ。おいしいですね」


香りを大きく吸い込んでみる。ちょうどそのタイミングで、綾乃が店のドアを開けた。


「お待たせしました」


綾乃は黒田が思っていたよりも、気落ちしている様子はなかった。いつもの窓際の席ではなく、奥のテーブルに向かって行く。慌てて黒田もそのあとを追った。


「大変でしたね」


「ええ、まあ」


綾乃が短く答える。


「実は並木先生から頼まれて、今回の件、僕が少し調べているんです」


「そうですか」


沢田がすぐに、綾乃の前にカフェラテを置く。


「これ、飲んで」


「ありがとうございます」


綾乃は沢田に笑みを見せると、黒田に向き直った。


「黒田君、ここは塾じゃないし、どうやら私はクビみたいだから。

もう砕けた感じで話すね。そのほうが黒田君も気が楽でしょ?」


まるで冗談を言うような口調で綾乃が言った。


「わかりました」


「あーあ、まさかこういう展開になるとはなあ。ホント、びっくりだよ。

私がやるはずだった授業は、普通に進んでるの?」


綾乃がカップに指を掛けながら言う。


「ああ、柏木先生と、あともう一人の先生いますよね。その先生が多めにコマ入ったみたいです」


「なるほどね。まあ、順調ならよかった」


「いや、ぶっちゃけ順調じゃないと思いますよ?特に、柏木先生は」


「どういうこと?」


「柏木先生、自分で考えた作文の書き方のわりに、なんか指導がイマイチらしくて。生徒からも、高瀬先生のほうがいいって声出てるみたいで」


「そうなんだ」


カップに口をつけながら、綾乃は視線を下に向けた。


 

 黒田はポケットからスマホを、バックパックからノートパソコンを出した。


「それじゃ、わかったことを報告します」


「うん、お願い」


綾乃は覚悟を決めたような表情で黒田を見た。


「まず、先週の件です。履歴には何も残っていませんでした。僕が確認しました」


「そうだったんだ。よかった。でも、なんでそんな噂が流れたんだろう」


「……誰かが高瀬先生のこと『問題起こす人』って印象付けたかったんじゃないですか?」


「そうかな。あのあと、タイミングよくメールと写真が送られてきたことを考えると、そういうことなのかもしれないね」


黒田は頷くと、一旦自分の方へパソコンの画面を向けて、キーボードを叩いた。


「そのメールと写真ですけど、僕見たんですよ。さすがにコピーはさせてもらえなかったんですけど。ただ、その写真ここで撮られたものだって、すぐに気が付いたんです」


「そうなの?それって先週の金曜日の事だよね?」


「そうです。先生のルーティーン知ってる人が撮ったみたいですね。顔はぼかしてありましたけど、先生がここの窓際の席で男の人と会って、金みたいなものを受け取ってるような感じの」


綾乃は納得したように言う。


「やっぱり、それか。なんか、変だと思ったんだよなあ。それね、冴島健斗君のお父さんでね、話した内容は、まあ、普通に健斗君のことに関する相談なんだけど。話が終わりそうになったころに、お父さんがお金を私に、渡そうとするわけ。

しかも、なんだか私が要求したみたいな感じになってて。そういう口調だったの」


「その冴島健斗の父親に確認をとる必要があるみたいですね。これは、並木先生に報告しておきます」


「誰がそんな写真を……」


「それを昨日調べたんです。僕と同じ大学の学生で、その人が、ある人に頼まれて高瀬先生の普段の行動を調べて、写真を撮らせてました」


「え?それ、確実な情報なの?」


「ええ、もちろんです」


黒田は得意げにボイスレコーダーをテーブルに置いた。


「あー、よかった」


綾乃はやっと少し笑うことができた。


「ねえ、そこまでわかっているなら、ちょっと私の話を聞いてくれる?」


「なんですか?」


綾乃は鞄からスマホを取り出した。昨夜送られてきた、あのアドレスの写真を黒田に見せた。


「どうやら、相手は私を精神的にも潰しにきてるみたいでさ」


最初は、綾乃が差し出したスマホの画面を普通に見ていた黒田だった。しかし、時間がたつにつれ、だんだんと険しい表情になっていく。


「これ、先生の彼氏さんってことですよね?」


「そうだね。その人が、誰かほかの人と付き合ってるみたい」


綾乃は呆れたような諦めたような調子で答える。


「これも、あのメールを送った人なんですかね」


黒田は次々と写真を確認していく。その中の一枚を見ているときに、手が止まった。


「あれ?」


画面に顔を近づける。


「これはもしかして……」


「高瀬先生、この写真、僕に転送してください」


黒田は顔を上げると、一枚の写真を指さしながら言った。


「うん。いいよ。え、なにかあった?」


「いや、見間違えかもしれないんで、パソコンで拡大してみますね」


黒田のノートパソコンのクリック音だけが、静かな店内に小さく響いた。


 「あ、これだこれだ」


黒田は綾乃から転送された画像の中に、気になる部分を見つけた。


「え、なに?」


「高瀬先生、ここに何か見えませんか?」


綾乃は目を凝らして、黒田が指さす場所を見た。


「あ…」


「そうです。あの、特徴的な指輪ですよ。あの人が右手の人差し指にはめてる」


写真の中では圭太が上半身裸で寝ている。窓ガラスには映らないよう、細心の注意を払ったのだろう。

だが、ルームランプの金属部分に、わずかな反射が残っていた。


黒田は画面をさらに拡大する。


丸くゆがんだ光の中に手が映り込んでいる。

人差し指と思しき指に、見覚えのある指輪がはまっていた。


「よく見つけたね、これ」


「いや、前に自分で写真を撮ったときに、こういう曲面の場所に自分が映り込んじゃったことがあって。それで、もしかしてって思ったんです」


「はー。またか……。ホント、手が込んでるね」


綾乃はカフェラテのカップに手を伸ばした。泡はすっかり消えて、表面は静かになっていた。

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