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その証明は、言葉の中に  作者: こなれたタオル


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17/21

鍵のかかった写真

 綾乃が青葉進学塾に出勤できなくなってから、二日たった。本来なら火曜日は、読書感想文の仕上げに入る予定の日だ。


「あの子たち、書けてるのかな」


綾乃はなんとなくスマホを手に取る。


謹慎になったことは、まだ誰にも伝えていない。

塾から何か連絡が来るかもしれないと思い、スマホを気にしてはいた。


ただ、あの身に覚えのない「綾乃の悪事」のことを思うと、どう説明すればいいのか、自分でも言葉がまとまらなかった。


部屋にいても気が滅入るばかりだ。

かといって外に出ようという気分にもなれず、綾乃は仕方なくテレビをつけ、なんとなく画面を見ていた。


一時間ほど過ぎただろうか。

ちょうど昼ごろ、スマホの呼び出し音が鳴った。カフェ・ブルーバードの沢田からだった。


「急に悪いね、綾乃ちゃん」


「どうしたんですか? 沢田さん」


「実は、黒田君が君と連絡を取りたいって。綾乃ちゃんの電話番号を教えてもいいかな? とても大事な話があるらしいんだよ」


「はい、わかりました。私も黒田君と連絡を取りたいと思っていたので」


「うん。じゃあ、すぐに教えるから。それじゃ、またお店でね」


綾乃はスマホをテーブルに置いた。


すぐにメッセージの通知音が鳴る。黒田からだった。


〈高瀬先生 黒田です〉


〈先生が巻き込まれている問題を解決できるかもしれません〉


綾乃は息をのんで、メッセージを読んだ。


〈一緒に見てもらいたいものもあるので、明日の午前十時頃ブルーバードで会えませんか〉


〈ありがとう。忙しいのに、ごめんなさいね。ブルーバードで会いましょう〉


綾乃はスマホを握りしめたまま、立ち上がった。黒田の言う、見てほしいものとはなんだろう。問題を解決できるかもしれないということは、綾乃が何もしていないことを証明できるのだろうか。


とにかく明日だ。


綾乃は少し元気を取り戻した。



 その日の夜、綾乃は眠れないままベッドに横になっていた。

スマホを手に取ると、メールチェックを始めた。いつもながら、迷惑メールがよく来る。削除しようと件名を見た綾乃は、その手を止めた。


<漆原圭太の秘密>


——え?


件名をタップすると、どうやら鍵のついた写真を中心としたSNSのアドレスとID/パスワードだった。普段ならもちろん見ることもせずに、捨てるタイプのメールだ。しかし、件名に圭太の名前が書いてある。差出人は見覚えのないフリーアドレスだった。


綾乃には一つの予感のようなものがあった。証拠はない。ただ、感じているだけだった。だが、このメールを受け取ったことで、それは確信に変わった。


綾乃はリンクが張られている文字列をタップした。IDとパスワードを入れる。それはたくさんの写真がアップロードされているサイトだった。


その一つをタップしてみる。圭太がワイングラスを片手に微笑んでいる写真だった。


「なにこれ?」


綾乃はページの下へ向かってスクロールする。一番古い写真は今年の六月の中旬だった。バーのような場所で圭太が酒を飲んでいる横顔。


次の写真はやはりバーのような場所で、手と手が重なりあっている写真。男性の手は圭太なのだろう。その手の下には女性と思われる細い指が見えた。


今度は上に向かってスクロールする。綾乃の手が止まった。ゆっくりとサムネイルをタップする。


誰かの家の寝室だろうか。上半身裸で眠る圭太の姿があった。


綾乃はその写真がアップロードされた日付を見て、愕然とした。久しぶりに圭太に会えた、八月の一週目の週末。圭太は綾乃に無理をさせたくないと言って帰ったあの日だ。


この写真を見るかぎり、圭太はあの日綾乃と会った後、別の女性の部屋に行ったことになる。ご丁寧にキャンプションまでつけられていた。


八月××日 圭太さんと密会♡


綾乃の手は、心とは裏腹に、タップするのをやめられなかった。


六月

七月

八月


圭太の写真は日を追うごとに、その「誰か」との関係の深まりを感じさせた。


——何で気づかなかったのかな……。


綾乃はスマホを手にしたまま、ベランダに出た。

夜の空気は、まだ昼の熱を残していた。

それでも、部屋の中にいるより楽だった。


深いため息が一つ、街灯に照らされた街の景色の中へ消えていった。

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