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その証明は、言葉の中に  作者: こなれたタオル


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メールの信ぴょう性

 黒田は青葉進学塾でアルバイトをしている大学生だ。大学に入学した年から始めて、今年で三年目になる。週に二回、小学生に算数、中学生に数学を教えている。


塾での仕事を最初に教えてくれたのは、綾乃だった。担当している科目は違ったが、テキストの使い方、授業の流れ、宿題の出し方。実際に黒田が授業を担当する前に、綾乃の授業を見学させてもらったりもした。


黒田にとって綾乃はよき先輩であり、相談相手でもあった。以前、大学の授業で提出するレポートを綾乃に添削してもらったこともあった。「ら抜き」言葉や句読点、誤字脱字まで細かく直されたことを今でも覚えている。


綾乃は塾では黒田とあまり話さない。

男性講師と人前で話すこと自体、どこか避けているように見えた。

そのかわりというわけでもないのだろうが、自宅ではなかなか集中できないと黒田がこぼしたとき、綾乃は自分がよく行く喫茶店を教えてくれた。


カフェ・ブルーバード


駅から少し離れた、いかにも昔ながらの喫茶店だ。店主の沢田とも、いつのまにか顔なじみになっていた。綾乃は一人のとき、いつも窓際の席に座っていた。


一度、黒田もその窓際の席に座ってみようと思ったことがある。

だがそのとき、沢田に笑いながら言われた。


「今日は金曜日だから、そこは綾乃ちゃんの指定席」


それ以来、黒田はその席に座ることはなかった。



 月曜日。

黒田には気になっていることがあった。

綾乃の情報漏洩の件だ。

もし何もなければ、それでいい。

少なくとも、自分にできる形で綾乃の力にはなれるはずだった。


塾に着いて、講師室を見回した。いつも黒田より先に来ている綾乃の姿が見えない。しばらくすると、室長が授業前の全体ミーティングを始めた。


「高瀬先生は、体調不良でお休みです。復帰のめどは立っていません」


講師室がざわっとした。もちろん、美玲もその中にいる。

ただ一人、落ち着いた顔をしていた。


黒田はミーティングが終わると、室長の並木に声をかけた。


「並木先生、高瀬先生はどうされたんですか?復帰のめどがたってないなんて、何か大変そうですけど」


「ああ、そうですね」


並木はどこか他人事のような口調で答えた。


「黒田先生、今日の授業が終わったら、面談室に来てください。ちょっとお話したいことがあります」


「わかりました」


並木は自分の席に戻ると、パソコンで作業を始めた。


――並木先生の話とは、なんなのだろうか。

まさか、高瀬先生に関係することなのだろうか。


黒田はそんなことを考えながら、授業のため講師室を出た。


 今日は小学生クラスの担当だった。授業は昼前に終わる。

二コマの授業を終えると、早々に授業報告をまとめて提出したあと、黒田は急いで面談室に向かった。

すでに並木は席に座っていた。テーブルの上にはノートパソコンとタブレットが置いてある。


「黒田先生、相談があります。普段通信関連の設定を手伝ってもらっている、あなたにしかお願いできません。これは絶対に他言しないでほしいことなんですが」


並木は低い声で言う。


「え、どういうことですか?」


「実は、高瀬先生に関することで問題が起きまして。情報漏洩の疑いが出ています」


並木は人差し指でテーブルをトントンと叩いた。


「先日、ある方から、高瀬先生が生徒の個人情報を外部に持ち出そうとしているのではないかという報告がありまして」


「え?高瀬先生が、ですか?」


「この教室の通信関連の設定に関しては、黒田先生のほうが、私より詳しいですよね。アルバイトのあなたに頼むのは本当はよくないことなのですが…」


「それで、僕は何をすれば」


「高瀬先生のタブレットのファイル保存履歴と、アクセス履歴を調べてほしいんです。それから、メールの信ぴょう性の確認ですね」


「メールの信ぴょう性ですか?」


「ええ。実は、高瀬先生に関してこの教室あてに匿名のメールが届きましてね。

私としては、かなり信ぴょう性が高いと思っています。

ただ、証拠として成り立たせるには、メールの内容が事実かどうか確認する必要があります」


黒田はタブレットを手に取り、保存履歴とアクセス履歴を確認した。

目立った異常は見当たらない。


――やっぱりおかしい。


「見た感じでは、履歴はないですね。そのメールも見せていただけますか」


「そうですか。わかりました」


並木はノートパソコンの画面を黒田に向けた。


「これです」


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<件名  講師の方について>


青葉進学塾 高島駅前教室 室長様


突然のメールを失礼いたします。


そちらの塾の講師と思われる方が、保護者と個人的に会ってお金を受け取っているのを見かけました。


塾に子供を預けている身といたしまして、大変心配に思っています。

他の保護者の方から声が上がるのも時間の問題ではないでしょうか。


一度、当該の講師の方にきちんと確認してください。

写真も添付しましたので、見れると思います。


保護者より

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黒田はメールを最初から読んでみる。一見したところ、不自然な文章ではない。

メールと一緒に三枚の写真が添付されている。いかにも綾乃が、生徒の父親からお金を受け取っているような見える写真だ。だが、誰からなのかはわからない。


——あれ?


黒田には写真の中の綾乃がいる場所に、見覚えがあった。外壁の白と水色の印象的なタイル。よく見ると、テーブルの上のカップは見覚えのあるデザインだった。


——カフェ・ブルーバード


送信元も一応チェックしたが、予想通りフリーアドレスからで、簡単に送信者を特定することはできない。


「並木先生、この写真、少し心当たりがあります。調べてもいいですか」


並木は腕組みをしながら答えた。


「ええ、もちろんです。……まあ、美玲さんが言っていた通り、ということなんでしょうが」


「え、美玲さんって柏木先生のことですか?」


「あ、ああ、別に、なんでもないです。忘れてください」


「はあ」


黒田はもう一度写真を確認すると、並木にあいさつし、面談室を出た。

カフェ・ブルーバードに行ってみるしかない。

講師室へ戻ると、鞄をつかみ、ほかの講師へのあいさつもそこそこに外へ飛び出した。

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