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その証明は、言葉の中に  作者: こなれたタオル


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写真の真相

 カフェ・ブルーバードは、高島駅から少し離れた場所にある静かなカフェだ。

黒田は綾乃からこの店のことを教えてもらった。


店主は、綾乃の祖父の同級生だという。

綾乃は小さいころから祖父に連れられて、この店によく来ていたらしい。


大学の卒論を書いていた頃も、ここでノートパソコンを広げていたそうだ。


「うんうん唸りながらな」


そう言って店主の沢田は笑った。


綾乃は職場では、黒田と長く話すことをあまり好まなかった。

必要なことだけを短く伝えて、それ以上は続けない。

話すときは、たいていこの店だった。


黒田が大学のレポートを見てもらったこともある。

そのときのことを、ふと思い出した。

言葉遣いは細かいところまで直され、

とくに「ら抜き言葉」は、厳しく指摘された。


だからだろうか。さっき見た保護者からのメールの最後の一文に、妙に引っ掛かりを感じた。


カフェまでの道を急ぎ足で向かう。

到着したのは、ちょうど午後二時頃だった。


黒田は店のドアを開ける。


「こんにちは」


「やあ、黒田君、いらっしゃい」


カウンターの中から、沢田が手を挙げて黒田を迎えた。

黒田はカウンター席、沢田の正面に向かってまっすぐ歩いていく。


「今日はどうしたの? いつもの席じゃなくていいの?」


沢田が目を丸くして聞く。


「はい。今日は沢田さんにお聞きしたいことがあって」


「え、聞きたいこと?」


「はい。実は、高瀬先生のことなんですけど」


「綾乃ちゃん、どうかしたの?」


黒田は身を乗り出し、沢田に顔を近づけて小声で言った。


「実は今、青葉進学塾で高瀬先生がピンチなんです」


「どういうこと?」


沢田の声が低くなる。


「高瀬先生、今、塾で情報漏洩と、生徒の保護者との不適切な関わりを疑われていて」


「は?」


沢田が弾かれたように声を上げた。


「綾乃ちゃんが?」


「はい。でも、たぶん違うと思います」


「いや、そりゃそうだろう。あの子がそんなことするわけない。

君だって、あの子の人となりは知ってるだろう?」


「もちろんです」


「それで、何を聞きたいんだ?」


黒田は少し肩の力を抜いた。


「先週の金曜日なんですけど、高瀬先生、いつものようにこの店に来ましたか?」


「ああ、来たよ」


「その時なんですけど、誰かと会いませんでしたか? 生徒の保護者みたいな人と」


沢田は天井を見上げた。


「ああ、あの人かな。

最初から綾乃ちゃん目当てで来たって感じだったな。偶然って言ってるのが聞こえたけどね」


「え、どうして高瀬先生目当てって分かるんですか?」


「その人さ、店内をキョロキョロすることもなくてね。

綾乃ちゃんが座ってたあの窓際の席にまっすぐ向かっていったんだよ」


黒田は小さく息を吐いた。


「なるほど……そういうことですか」


「それで、しばらく話していて、最後にその男が封筒みたいなものを出してね。

それを見た時、綾乃ちゃんの顔色が変わったというか、いつもと違う様子だなって思ったんだ」


「どうも、そのあたりを写真に撮られたみたいなんです。それが塾に届いて」


「うーん。私が見ていた限りじゃ、ただの子どもの相談って感じだったけどねえ」


黒田は少し間を置いてから言った。


「それで、沢田さんにお願いしたいことがあるんです」


「なんだい」


「この店の防犯カメラを確認してもらえませんか。

部外者の僕が見るわけにはいかないので、沢田さんにチェックしてほしいんです」


「綾乃ちゃんは親友の孫だ。

俺にとっても孫みたいなもんだよ」


そして少しだけ表情を曇らせる。


「そんな疑いをかけられるなんて、絶対に放っておけるわけがない」


 「ちょっとこっち来な」


沢田は黒田をカウンターの奥へ呼んだ。

小さな事務スペースにモニターが置かれている。


「店のカメラ映像はここで見られるんだ」


沢田がマウスを動かすと、モニターに三つの画面が並んだ。


一つは店の入り口。

一つは客席の様子。

もう一つは、ガラス越しに見える店の前の道路だった。


「店の前も少し映るようにしてあるんだよ。今の時代、何があるかわからないからね」


沢田は肩をすくめた。


「ほら、この店も年寄りが一人でやってるからさ。で、ええと、先週の金曜日だね」


「はい」


沢田が画面を何度かクリックしていく。


「ええと、何時ごろだったかなあ。ああ、ここだ、ここだ」


モニターに映った映像の中で、窓際の席に綾乃が一人で座っている。

そこへ向かって歩いていく男の姿が映っていた。


間違いない。

あの写真の男だ。


「この人です」


黒田は画面を指さした。


「何か、二人の会話で聞こえたことってありませんか」


「いやあ……うーん。ほとんど小さい声で話していたからなあ」


沢田は画面を見つめたまま、腕を組む。


「ああ、そうだ。

『なんとか健斗の父です』みたいなことを言っていたかな」


健斗。


黒田の頭の中で、生徒の名前がいくつか浮かぶ。


青葉進学塾には、健斗という名前の生徒が何人かいる。

だが、綾乃が教えている中学二年の健斗といえば――


冴島健斗だ。


黒田も同じ中二の数学を担当している。

もちろん、その名前は知っていた。


「そういえば、ここ最近、おかしなヤツがいてね」


「おかしなヤツですか?」


「うん」


沢田はまた画面をクリックした。


「この一か月くらいかなあ。最初は気が付かなかったんだけど、どうも同じ若い男が、この店の向かいに――ほら、電柱と植え込みがあるだろう?」


黒田は小さくうなずく。


「あそこのあたりに何時間か立っていてね。なんだか、こっちの様子をうかがっているみたいだったんだ」


「確か、あの日も……」


沢田は画面を切り替える。


「ああ、ほら、これこれ」


沢田が、店の前の道路を映したカメラの映像を指さした。

若い男が電柱の陰で、スマホをかまえている。店内の様子を撮影しているようだ。


「これがね、確か先々週の金曜日も来ていたし、その前の週は一週間毎日きていたかなあ」


黒田は愕然とした。


「完全に、嵌められた感じですね」


沢田も苦々しい顔で頷く。


――この男、もしかして。


黒田には、スマホをかまえて立っている男に見覚えがあった。大学の学内でも派手な服装でちょっと目立っている学生だ。


黒いTシャツに、だぶついたパンツ、派手なロゴのはいったキャップをかぶっている。


「俺、この人知ってます。同じ大学で、同じ学年です。いつもこんな感じの格好なんで、けっこう目立つんですよね」


「まったく。こんな帽子かぶって、目立つと思わないのかね。私だって気が付いたくらいだ」


沢田は呆れたようにモニターを見つめた。


「名前までは分からないんですけど、友達に聞けば分かるかもしれません。あの、顔の部分だけでいいんで、写真撮ってもいいですか?」


「ああ、そこだけならいいよ。ほかならぬ綾乃ちゃんのためだ」


沢田はうなずいた。


「絶対に濡れ衣を晴らしてやってくれ」


「はい」


黒田はモニターに映った男の姿をスマホで撮影した。


そしてすぐに、友人の中でも一番の情報通、竹下にメッセージを送った。

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