決めつけられた罪
土曜日の朝。
青葉進学塾・高島駅前教室の室長、並木は、出勤するとまずパソコンを立ち上げ、メールをチェックする。
本部からの連絡事項、塾生の保護者や入塾希望者からの問い合わせなど、内容はさまざまだ。今日も、新着メールが数通来ている。その中に、気になるタイトルのメールがあった。
<講師の方について>
一体どんな内容なのだろう。並木はタイトルをクリックして確認する。講師である、高瀬綾乃が塾外で不適切な行動をとっているという告発のメールだった。
メールには写真も添付してあり、高瀬講師が男性と二人でカフェのようなところで笑顔で話していたり、なにか封筒のようなものを受け取って、中をのぞいていたりしていた。男性の顔にはぼかしが入っていて、誰なのかはわからない。だが、それだけで十分だった。
——これは完全にクロじゃないか。
並木の胸に、怒りが一気に込み上げた。
ちょうど今週の月曜日にも高瀬講師が、この教室の生徒の個人情報を漏洩しているのではないかという疑いが出ていて、これから本格的に調べようと思っていたところだった。
「やっぱり、やっていたんだな」
並木はそのメールと写真を保存した。さすがに、今日いきなり高瀬講師の処分を決めることはできない。一応、本人の言い分も聞いてみるが、これだけの証拠があるのだ。言い逃れはできないだろう。
授業にいきなり穴をあけるわけにはいかないので、今日は予定通りの授業をさせるしかない。月曜日からの代わりの講師を探さなくては。並木は講師のスケジュール表を確認した。
すべての授業が終わった後、事務の倉崎に高瀬講師に面談室に来るよう伝えた。
綾乃が授業を終えると、倉崎から室長の指示が伝えられた。
授業のまとめもそこそこに綾乃は面談室に向かった。
「失礼します」
「どうぞ」
並木の前にはノートパソコンが開かれていた。腕を組んだまま、綾乃が座るのを見ている。
「高瀬先生、単刀直入に言います。あなたはこの塾で禁じられたことをしましたね」
「え?なんのことですか?」
並木はノートパソコンの画面に目を落としたまま言った。
「覚えはあるでしょう。保護者の父親と、個人的に外で会っていますよね?」
「え?どういうことでしょう?本当に……」
並木は綾乃の言葉を遮るように続けた。
「覚えてないとおっしゃいますか。先週の金曜日ですよ。偶然会って、こんなに楽しそうに。それに、なんですか。なにか封筒に入ったものももらったりして」
冷ややかな声が、面談室に響く。
「確かに偶然お会いしましたけど、それだけです。それに、お金なんて受け取っていません」
並木の口調は次第に強さを増していった。
「しかも、それを他の保護者に見られて、写真を撮られるなんて。私が室長になってから初めてですよ、こんなことは」
「並木先生、本当に、偶然お会いしただけなんです」
「いくらそう言っても、無駄ですよ。まったく、情報漏洩の件もあるし。
塾への損害があれば、あなたに負ってもらいますからね。こんなことなら月曜日にもっときちんと調べて、手を打つべきでした」
並木はいまいましそうに言った。
「高瀬先生、来週の月曜日から出勤しなくていいです。代わりの講師はもう見つけてありますから、ご心配なく。処分は本部と相談のうえでご連絡しますので。
しばらくの間は、体調不良で休むということにしておきます。再来週にはお盆休みも入ることですし、そのまま辞めていただくことになると思います」
綾乃はしばらく、なにも言えなかった。
「わかり……ました」
何を言っても、否定しかしない並木にこれ以上言っても、仕方ない。綾乃はそう思って、面談室を出た。講師室にはもう誰もおらず、綾乃は暗い気持ちを抱えながら、今日の授業のまとめを提出する作業をし、重い足どりで家路についた。
何が起きているのか、まったく整理がつかなかった。




