表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/62

【EXエピソード】史上最大のピンチ VS以東 亜希(後編)

闇夜の中、罪園つみぞのの借りたレンタカーが公園を走る。


ハンドルを握る罪園がため息をついた。


「――まったく、なぜ弊社がこんなことを」


「悪い、罪園。どうしても協力が必要なんだ」

と、俺は言った。


罪園は車内のミラー越しに冷たい目を向ける。


「以東くんの真性マザコンが亜希さんにバレたと。結構なことじゃないですか、真実が明らかとなったのですから。いずれは知れることです」


助手席に座った母さんがペコリと頭を下げた。


「ごめんなさいね、リアムちゃんにまで協力してもらって。お仕事や学校のことで、とっても忙しい中で頑張ってるのに……やっぱり悪かったわよね」


「問題ありません。愛するお義母かあさまの頼みは弊社の業務の中では最優先事項です。いつでも割り込み処理で対処しますので、問題発生時にはホットラインで連絡してください」


「俺との反応の差ァ!」


罪園ったら、本当に母さんに懐いてるよな……。


亜希を膝枕しているパンドラさんが「しーっ」と唇に指を当てた。


「リュウさま、大声を出したら妹さまが起きてしまいますわ」


「そ、そうだな……」


冒険者の恰好をしていないパンドラさんと会うのは初めてだった。

軽く事情を説明したところ、やって来てくれたのだが。


ちらり、とパンドラさんの姿を盗み見る。

パンドラさんの私服は、彼女の清楚で落ち着いた雰囲気をそのまま映し出していた。


クラシックなデザインのロングスカートは淡いラベンダー色で、裾にはオシャレな刺繍が施されている。

上半身はアイボリーカラーのブラウス、襟元には小さなリボン。


軽くウェーブのかかった紫髪を片側に流して垂らしており、自然体ながらも上品さを感じさせる仕上がりとなっている。

日本人離れした髪色だけど――染めてるか、ハーフなのかな?


「(……まずい、あんま見ちゃ失礼だな)」


特に、()()()()は――。


ブラウスの素材は柔らかく、防御力や機能性を考慮した冒険者の装備のような厚みや硬さが無いため、彼女の身体のラインが自然と浮かび上がっていた。

特に、ブラウス越しに女性らしくふくよかで豊満な胸元が主張しており、普段の冒険者としてのシスター服姿では隠れていた一面に目を奪われそうになる。


慌てて目を逸らすと、パンドラさんがくすくすと笑った。


「リュウさまの本名。『以東』とおっしゃるのですね」


「さっき、罪園が話してたかな?

 うん、俺の名前は以東 りょうだ」


「リョウさま、ですか。

 では、これからはプライベートではそのように」


「パンドラさんの名前、聞いてもいいか?」


彼女はイタズラっぽい目つきでウインクした。

目元にある泣きぼくろが年上の色気を感じさせる。


「内緒ですわ。わたくし、本名よりDネームの方が気に入っていますの」


「パンドラ、か。ミステリアスなところが似合ってるし、良い名前だと思うぜ」


「お褒めにあずかり、光栄ですわ♪」


パンドラさんは膝元ですやすやと眠るアキの頭を撫でた。

――まったく、よく眠る奴だな。


アキを膝枕しているパンドラさんは「ふふっ」と笑う。


「妹さま、ミハルさまにそっくりですわね。

 ……例の作戦、本当に上手くいくでしょうか?」


「なんとか、なるはずだ」と俺は自分を鼓舞する。


運転席の罪園は冷ややかな声で、


「失敗すればそれまでです、なるようにしかなりません。亜希さんには、いつまでも隠し通せることではありませんので。弊社は天運に裁きを委ねます」


罪園の言葉を受けて、母さんは言った。


「私も、アキちゃんがもう少しだけ大人になったら話すつもり。でも、今は思春期だし……受験も控えてる時期だから」


パンドラさんは頷く。


「わたくしは、あまり皆さまの事情を知らない門外漢ですけれども。配信者というのはそれ自体がアクター、演技者なのは前提だと思います。リスナーが求める姿を演じる――それはある意味では虚像だけど、嘘の一言で断じられるものではありません。配信者だって、自分ではない理想の自分を求めている一面がありますもの」


「え……? でも、パンドラさんはカメラの前でも、こうしているプライべ―トでも、全然キャラが変わってないよな。裏表が無いっていうか」


「否定します。以東くん、その方の本性は……」


「あっ、そろそろ目的地ですわ♪」


罪園が何かを言いかけていたが、目的地に着いたことで中断した。

俺たちはぞろぞろと車を降りる。


さて――作戦開始だっ!



☆☆☆



かすかな目覚まし時計の音がする。

機械音が鳴り響くまどろみの夢は、現実へ。


「んっ……あれ、もう朝?」


亜希は自分の部屋で目覚めた。


ベッドの上に広げられた、かけ布団の中からもぞもぞと這い出る。

布団は見慣れたピンクと白のストライプ模様のお気に入り。


天井にはお気に入りの星形のライトが輝いていた。


ベッド脇の窓から朝の陽ざしが差し込んでいる――

マンションの上層階である自室から見えるのは、隣接するタワーマンションだけ。


「(……なんか、変だな)」


亜希は自分の部屋を見回した。


お気に入りのぬいぐるみも、推しの配信者たちのポスターも、学習机の上に並ぶ参考書も、ポップなステッカーも、乙女ゲーのアクリルフィギュアも――全て在るのに。


――違和感。


何かが足りない……いや、ズレてる?

だが、そういった細々とした違和感と寝起きの倦怠感は、吹き飛んだ。


「……なんで?」


寝ぼけ眼をこする。


「(夢じゃ、ない……!)」


――そこに、いる。


亜希は瞬きしながら目の前の椅子に座る少女を凝視した。


ピンク色のツインテールがゆるく揺れて、瞳の中にきらめく☆が亜希の視線をまっすぐに捉えている。

その瞳はどこか神秘的で、現実感が希薄。


「ミハル……ちゃん?」


「おはよ、アキちゃんっ。

 ええと、じゃなかった、違う違う」


星羽ミハルは立ち上がり、いつもの挨拶をした。


「ミハミハ~! 星羽ミハルだよ☆」


「ど、どうしてミハルちゃんがあたしの部屋に!?」


そこに兄の声が響く。


「どうして、って。お前が会わせろって言ったんだろ」


ドアのところには二人の人影が立っていた。


一人はお兄ちゃん――

もう一人は、ママ!


「母さんは昼からの仕事らしくて、先に飯食うみたいだからさ。せっかくミハルが来てくれたんだし、アキはミハルと話してろよ、な?」


ママは笑顔を浮かべて、手を振ってリビングへ向かって行った。

お兄ちゃんは静かに扉を閉める――


「え、ちょっと待ってよ。ど、どういうこと!?」


亜希は必死に状況を整理した。


――どうやら、あたしの推理は間違ってたらしい。


ママとミハルちゃんは同一人物なんかじゃなかった。

で、それどころか、今、推しが、目の前にいて……!


「アキちゃん、寝起きのところに押しかけてごめんね。お兄さんに頼まれたんだけど ――ミハルのスケジュールが空いてるとこが、ここしか無かったの」


「天使……ッ!」


「えっ」


「ミハルちゃん、可愛すぎるよおおおお!!!」


誰だよ、ミハルちゃんをママだなんて言った人は!?

全っ然、別人じゃんッッッ!


確かに、ママと背格好は同じくらいだけど――

肌はお人形さんみたいに白くてもちもちだし。


お目目もパッチリ、メイクとかじゃないわこれ!


何より、全体から漂うオーラが違う。

まさに芸能人! まさに配信者って感じ!


――あ、おっぱいは同じくらいかも。


「ミハルちゃん……ごめんね。あたし、ミハルちゃんを知らず知らずのうちに侮辱してみたい。いくらママが美人だからってさ。代わりにお兄ちゃんが腹を切るから」


「よくわかんないけど、お腹は切らせなくていいよぉ!? 大・大丈夫だから、ねっ☆」


ううう。

あたしの狼藉を許してくれるとか、天使すぎる。


亜希は心底から思った――「生きててよかった」と。



☆☆☆



――よし。作戦は成功のようだな。


俺はリビングの空間で一息つくと、

影下分身シャドウメーカー】を解除した。


目の前でニコニコと笑っていた母さん――

否、ミハル・オルタナティブが影へと戻る。


俺のユニークスキルは影人形を操る能力。


母さんとミハルは同一人物なのだから、ミハルから生成した影人形に母さんの恰好をさせるのは容易い。


ただし、影人形には一つ欠点がある。

それは体色が黒一色の影色となってしまうというものだ。


「そこで【一念化粧ダブルフェイク】を応用する必要があった」


母さんのユニークスキルは物体の表面の質感を変化させる能力。

ミハル・オルタナティブの体表の色を操ることで着色し、母さんの姿を再現させたのだ。


――で、ダンジョン内でしか使えないはずの冒険者のスキルをこうしてバンバン使いまくることが出来る理由は、ごくごく単純な話で。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



正確には――ダンジョンの外に作った小ダンジョン。


罪園の【物質変成】でダンジョン内の素材を加工して実物大の亜希の部屋のセットを錬成して、それをダンジョン外に持ち出した。


「アキは冒険者資格を持っていないから、本来はダンジョンの中には入れないが……罪園に手を回してもらって、ダンジョン公社の職員さんには俺たちの車が公園の敷地内に入るのを黙認してもらった」


それにあくまでダンジョンの素材で作ったセットだから、危険は無いしな。


罪園によると、以前にも同様の研究はザイオンでもされてたらしい。


モンスターの出現ポップのような現象は発生せず、小ダンジョン内でもスキルの使用が可能となることは確認済みだったが、ダンジョンの外に持ち出した壁や床の素材は数時間ほどで消えてしまうため、実用性は薄い研究のようだった。


「そういうわけで、セットを作るのには苦労したが……」


リビング部分はハリボテで亜希の部屋から見える部分しか作っていないが、亜希の部屋に関しては細々した小物を初めとして一通り再現してある。


ちなみに錬成したのは形だけ。

着色や質感の再現は【一念化粧ダブルフェイク】によるものだ。


「あらためて、母さんのスキルはとんでもないな」


「以東くん。弊社も褒めてください。

 過言ではなく、今回のMVPは弊社であるかと」


「そうだな……本当に助かったよ。

 ありがとうな、罪園」


罪園はクールに首を振る。


「礼には及びません。妻としての務めです」


「今、褒めろって言ってなかったか!?」


罪園は窓(これは質感再現では作れないので同じサイズのガラスを車で持ってきた)越しに光球から生み出した光を室内に向けて投射していた。


|第零位階・球形矮小光輝イリディセント・グロウによる陽射しの再現だ。


パンドラさんが肩を回してうなる。


「で、わたくしは肉体労働担当というわけですわね」


「助かったよ、パンドラさん。とにかく短い時間でセットを用意しないといけないから、小ダンジョンの持ち運びやセット内の小道具・大道具の配置に人手が必要でさ」


それと、小ダンジョンの傍に他の冒険者が近づかないかの人払いもしてもらった。

パンドラさんはこの辺の連中に顔が効くみたいだし。


「あの布団とベッドも実物でしたけど、あれはどうしたんですの?」


「昼間のうちに購入して持ち込み、さっき組み立てた。この辺もザイオンの名前を出して、な。今回が終わったら無用の長物になってしまうが……」


「でしたら、わたくしにくださいな。

 ちょうどベッドがお古になってたところですのよ」


「こっちとしても助かるぜ。それで頼む」


後で業者に手配することになっているから、運んでもらおう。


「ともかく、これで一件落着か……」


――と、安堵の声が漏れた瞬間。



「あ」と、罪園が呟く。



「おい、どうしたんだよ罪園。こういうときの「あ」は良くない「あ」だって、だいたい相場が決まってるだろ……?」


「肯定します。

 これは良くない「あ」です」


罪園は表情を凍らせて言った。


「亜希さん、すっかり目が覚めてしまったようですが。どうやって以東家に戻しましょうか、これから小ダンジョンが消えるまでのあいだに」


「あ」


「あ、ですわね♪」


俺たち三人は天を仰いだ。


「「「あ~~~…………」」」



――その後、夜中の四時に起こされたにも関わらず、ずっとハイテンションでミハルと話し続けたアキは、なんとか目論見通りに力尽き、寝落ちしてくれたのだった。


これなら二度寝ってことで説明はつく。



セーーーフ、だぜ!



☆☆☆



「ふわぁ……あれ、夢?」


自室で目を覚ます亜希。

いつものベッド、いつもの布団、いつもの部屋。


今度は違和感は無い。

そっか、夢だよね――

自分の部屋にミハルちゃんが来てくれるわけ……


ピロン、とスマホに通知が来る。


:ミハミハ~

:これプライベートのアカウント

:エンゼルの皆にはナイショだよ


「えっ、ミハルちゃん……!?」


ピロン、と写真が送られてきた。


:(自室でピースする、二人の写真)


「ゆ、ゆ、夢じゃ……なかったーーーっ!」


絶叫とも悲鳴ともとれる声が、

朝のマンションに響きわたるのでしたとさ。



☆☆☆




EXエピソード

【史上最大のピンチ VS以東 亜希】 おしまい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ