新生ハッピー・エクリプス、超動!(前編)
ミハルが手にした丸太を振りかぶる。
「ちぇすとーーーっ!」
丸太の狙いはアークザインの胴体にある黄色い球体――あのコアを砕けば、あいつの能力を一時的に無効にできるはずだ。
しかしアークザインは俊敏な動きで翼を閉じてコアを守った。
先が尖った丸太は杭のように深々と翼に突き刺さる……!
SKREEEEEEEEEEEEEEEAAAK!!!
苦悶の声をあげるアークザイン。
「きゃははは。
やっぱり、近づかないとダメみたいだねっ☆」
「いや、だいぶ効いてるみたいだぞ……」
流石はミハルのフィジカルといったところか。
怒り心頭といった様子のアークザインは向こうから迫ってきた!
ミハルは両脇に丸太を抱えて走り出す。
その姿はまるで中世の城攻めに向かう破城槌のよう。
――よし、あっちはミハルに任せた!
「罪園ッ!」
「承知しました。
|第零位階・球形矮小光輝!」
罪園の手にした光の玉が輝きを増す。
サーチライトの光のように指向性を持ったそれは、アークザインを照らし出した。
「罪園の|第零位階・球形矮小光輝は殺傷力を持たない技……ビーム攻撃じゃなく、光球が輝くことで物理的な光を照射しているだけだ……つまり、アークザインの能力でも無効にはできない!」
スポットライトに照らされた舞台役者のように、アークザインの背後の壁には丸い光と「影」が一つ――!
俺はパンドラさんと共に走り出す。
「アークザインのスキル無効能力は、あいつの至近距離でしか発動しない。通常の光源から生まれた影は足元にできるが――スポットライトのような横からの強い光で壁に移った影は、濃くはっきりしているが本体からは遠い!」
「まずは近づくが先決、ですわねっ!」
あそこにたどり着けば、アークザインの影人形を生成できる。
二度同じ轍は踏まない。
今度こそ、影人形を生み出してみせる!
行く手を阻むのはアークザインの眷属――落とし子たちの群れ。
パンドラさんが前に出た。
「【祈念障壁】っ!」
祈りのポーズを取ったパンドラさんの前に不可視の壁が現れて、落とし子の進軍を食い止める。
ポーズを解かないかぎり、壁がその場に残り続ける魔法だったか。
高等司祭の職業スキルだな。
「助かるぜっ、パンドラさん!」
パンドラさんはお茶目にウィンクで応えた。
俺は壁に足をかけて跳躍し、敵の群れの頭上を疾走していく。
影鬼ステップライド――
自身の影人形を踏みつけて跳躍し、
影人形を引き戻すことで再び足場にする空中疾走!
アークザインがこちらを向いた。
召喚魔法による空間のねじれが見える。
狙いは眷属の召喚・高速射出による狙撃だろう。
ちょこまかと五月蠅いカトンボを撃ち落とす、という腹なんだろうが……!
「否定します。正義の元に罰を下しましょう――
これは妻として当然のおこない」
罪園は冷ややかな声で呟き、シルバーの光沢に包まれた腕をゆっくりとかざした。
その瞳には青い炎の如き輝きが宿る。
セフィロトの系統樹から六つの光球が消失した。
「|第六段階・無尽光散涙雨ッ!」
刹那――指先に集った光が無数の光線に拡散する!
指先から解き放たれた光の束は弧を描くように空間を貫く。
範囲内の敵味方を識別し、味方を避け、敵となる対象全てに対して誘導する絶対命中・必滅必罰が確保された全体攻撃――!
ホーミングレーザーは空間を滑るように――空間を統べるように曲がりながら、アークザインの落とし子どもを一体一体正確に追尾していった。
射出された弾頭もレーザーが追いすがり、迎撃する。
GYYEEEEE!!!
モンスターたちは断末魔の悲鳴をあげながら光の中に消えていく。
唯一、アークザイン本体のみはスキル無効化の能力で難を逃れた。
「これが、罪園の力――!」
敵に回すとおっかないが……味方としてはこの上なく頼り甲斐がある。
――活路が拓かれた。
瓦礫の散らばる荒野を走る、走る、走る!
背後では丸太を抱えながら蝶のように舞うミハルが、一進一退の攻防をしながらアークザインを食い止めていた。
太くて長い丸太のリーチを武器にして、ミハルは的確に距離をけん制している。
近づきすぎず、離れすぎず、圧をかけながら、避けながら、隙を見て丸太の先をコアに向かって打ち込む!
「そりゃあっ! せいっ!」
丸太が砕かれたら、新しい丸太を取る。
丸太を次々と入れ替えながら、ミハルは踊るように翻弄していた。
その様子に、思わず足を止めそうになる。
「(綺麗だ……)」
ミハルは小柄な身体でありながら、丸太を手足のごとく振り回す。
狂戦士特有の桁外れのステータスと、しなやかな身体操作、可憐な仕草、冒険者としての長年の経験の蓄積――それら全てが高レベルで融合している。
「(だが……敵の方もオーバースペックだ)」
ヒット&アウェイ――
状況は膠着しているが、ダメージの蓄積は遅々としていた。
耐えてくれ、母さん!
「(もう少しだ……やっと……たどり……着いた!)」
罪園の光源によって照らされたアークザインの影――
それが投影された壁に向かって飛び込み、タッチする。
気分はさながらタッチダウンを決めるアメフトの選手か。
俺は渾身の力を込めてスキルを発動した!
「【影下分身】ッ!」
流石に規格外のモンスター、といったところか。
ミハルから供給されたMPの大半を持っていかれたが――
「聖櫃の底より侵略せし理外の来訪者よ、哀れなる傀儡となりて我に従え。虚影の翼、アークザイン・ヴィオローネ!」
――俺は影人形の生成に成功する!
べりべりべり……と音を立てて剥がれるように、壁面に投影されていたアークザインの影が立体となって出現した。
こいつが逆転の切り札になる。
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【影下分身】で生成した分身には欠点が存在する。
それは影の持ち主のスキルは受け継げない点だ。
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影人形は本体のスキルはコピーできない。
そう、アークザインの影人形はアークザイン本体の「スキルを無効化するスキル」まではコピーしていないのだ。
――つまり、影人形にはスキルの効果が通用する!
見てろよ……こいつを利用して、アークザインのコアを砕いてやる。
「いくぜ……反撃開始だ!」




