新生ハッピー・エクリプス、超動!(後編)
アークザインの現し身――
アークザイン・ヴィオローネがしたたるように床に降り立つ。
それはアークザインの姿そのままを移し取った影人形だった。
胴体部分には本体同様に丸い球体が備えられている。
このコアにダメージを与えてやる――
そう、影人形へのダメージの半分は本体にもフィードバックするのだ!
俺は影人形のコアに向けてダガーを突き立てる。
ダメージは微々たるもの、だがそれで良い。
「ここからが本命だッ!」
傍らに立つ者として待機していたミハル・オルタナティブが実体化して、影に染まった漆黒のグレートソードを振りかぶった!
「【造影付与】! 続けて【奇襲攻撃】!」
【造影付与】スキル――
影人形に対して一時的に俺のスキルを付与できる。
付与するのは盗賊の職業スキルである【奇襲攻撃】、これは自分以外の冒険者と戦闘しているモンスターへ与えるダメージを倍加させる能力だ。
アークザイン・ヴィオローネは現在、俺と戦闘している扱いとなっている。
影人形と俺は別の個体として扱われる仕様――これによって【奇襲攻撃】をおこなうミハル・オルタナティブの攻撃力は本来のミハルの二倍となる!
これはオークプリースト戦でも使った戦法だ。
「シャドートライエッジ――!」
渾身の一撃が影人形のコアに与えられた。
――そのダメージは本体にもフィードバックする!
SKREEEEEEEEEEEEEEEAAAKッッッ!!!
背後でアークザイン本体が苦悶の悲鳴をあげるのが聞こえた。
――予想通り。
スキルを無効化するアークザインには、本来なら影人形に与えたダメージのフィードバックも通用しない――これは【影下分身】というスキルの効果だからによるものだからだ。
「だけど、今の攻撃はアークザイン本体にも通った。
その理由は……コアに対する攻撃だからだな」
もし仮に――アークザインの能力と密接に関係しているコアが、自身のスキル無効化能力の適用外だとしたら?
コアに対する攻撃に関してのみ、
ダメージのフィードバックが通用する可能性がある。
----------------------------------
父さんの仏壇の前で、母さんは言っていた。
「……リョウちゃんのスキルを見たときには驚いたわ。あんまりにも、あの人に似てるものだから」
----------------------------------
「父さんは俺と似たスキルを持っていた。その父さんがどうやって10年前にアークザインを撃退できたのか……? 考えに、考えて……その理由に、ようやくたどり着いたよ」
まだまだ、だ。
「真骨頂はこれからだぜ?」
アークザイン・ヴィオローネは巨大な漆黒の翼を広げて、鋭利に尖った翼の振りかざし――自身のコアに向けて振り下ろす!
影人形が自らのコアに翼の先を突き刺す直前、【造影付与】スキルを適用する。
適用するスキルはもちろん【奇襲攻撃】だ。
「現在のアークザイン・ヴィオローネはミハル・オルタナティブと戦闘している扱いとなっている。ここでアークザイン・ヴィオローネが自傷した場合、アークザイン・ヴィオローネは【奇襲攻撃】でダメージが倍加する条件を満たすんだ」
シャドー・トライエッジfeat.アークザイン・ヴィオローネ!
俺を一撃で戦闘不能に追い込んだアークザインの攻撃が奴自身に牙をむく。
再び、フロアに響くのは苦難の叫び声。
「最悪の、最悪……に、見えるか?
大外れだ。地獄の底はまだ見えていない」
今、アークザイン・ヴィオローネは自分自身と戦闘している扱いだ。
代わってミハル・オルタナティブが攻撃する。
代わってアークザイン・ヴィオローネが攻撃する。
代わってミハル・オルタナティブが攻撃する。
代わってアークザイン・ヴィオローネが攻撃する。
代わってミハル・オルタナティブが攻撃する。
代わってアークザイン・ヴィオローネが攻撃する。
俺が操作する二体の影人形は、まるで餅つきをするかのような要領の良さで連携し、コアに向かって連撃を繰り出していく。
全てが【奇襲攻撃】の適用条件内の攻撃。
それらのダメージはアークザイン本体へフィードバックするのだ。
「名付けて、連星影刃・絶双乱舞だッ!」
たまにはルビを振りたい気分。
――罪園の影響かもしれないな。
SKREEEEEEEEEEEEEEEAAAKッッッ!!!
アークザインの悲鳴が一際大きくなった。
連撃に耐えきれず、影人形のコアが破壊されたのだ。
――これで、半分。
【影下分身】で生成した影人形へ与えられるダメージ、その半分は本体にフィードバックする。
つまり、どんなに影人形を痛めつけてもダメージは最大値の半分しか与えられない。
「現在のアークザイン本体のコアは、これまでにミハルが与えたダメージと、影人形からのフィードバック(最大HPの半分のダメージ)を受けている。あと、一押しだ……パンドラさん、よろしく!」
「ようやく、わたくしの出番ですわねっ!」
パンドラさんが駆けつけて、影人形のコアに手を触れる。
彼女こそが最後の希望だ。
----------------------------------
「高等司祭の職業スキルですわ。相手に触れているあいだ、高効率でHPを回復し続けられる――手を離しちゃダメですわよ?」
----------------------------------
通常の回復支援スキルはパーティを組んでいない相手は対象にできない。
それなのに、パンドラさんは俺と仮パーティを組む前に回復スキルを使っていた。
「【接触回復】スキルはパーティを組んでいない相手にも使用できる特殊なスキルだから……そうなんだよな、パンドラさん?」
「ええ、おっしゃるとおり。たとえばアンデッドのモンスターは回復を受けるとダメージに転換される性質を持っている――そういったモンスターへの攻撃にも使える、そういう思想で設計されたスキルですの」
本来ならモンスター扱いであるアークザイン・ヴィオローネとはパーティを組めないため回復スキルの対象にできないが、ここにパンドラさんがいるならば――
アークザイン・ヴィオローネを回復できる。
パンドラさんはスキルを発動する。
「【接触回復・強】ッ!」
【影下人形】で生成された影人形へのダメージの半分は、本体へとフィードバックするのだが――逆に言えば。
影人形への回復は本体へフィードバックしない。
パンドラさんの回復を受けて、影人形のコアが修復されていく。
破壊されたコアは元通りになった。つまり――
「これで、もう一回壊せるなぁっ!?」
ミハル・オルタナティブはグレートソードを構えた。
アークザイン本体は身をよじりながら、自身の背後で行われている無法のスキルコンボ――己を破滅させかねない新春餅つき会場に進軍しようとする。
どうやら、さっきまでのダメージが俺の仕業だと気づいたらしい。
「くそっ。アイツに近づかれたら、スキル無効能力で影人形を消されちまう……!」
「大・大丈夫ッ! 任せて、お兄さん!」
そこにミハルが現れた。
小柄な体躯、その両脇に丸太を抱えてアークザインに走る。
「ミハル……! 時間稼ぎ、頼む!」
「おっけー☆
っていうか、ミハルがぶっ倒しちゃうんだから!」
ミハルは振りかぶって丸太の一本を投げた。
先が尖った丸太は翼に防がれるが、続く二の撃――手に持った丸太の刺突の一撃はコアに直接突き刺さる――
アークザインは距離を取る。
次の狙いは召喚魔法による質量弾の射撃!
そこにフライトユニットで飛行する罪園が介入した。
「否定します。アークザイン・スポーンは弊社の的――全て撃ち落とします、弊社のスキルによって」
【月光華】の光線は正確無比な狙いで質量弾を狙い撃った。
SKREEEEEEEEEAAAK……!!!
と、アークザインは唸る。
――これで、詰みだ。
アークザインに打つ手は無い。
これが本当の「最悪の最悪」なんだぜ。
「連星影刃・絶双乱舞、大回転だッッッ!」
俺が振るうダガーの攻撃を始動のトリガーとして、
再び、無法なる連撃が繰り出される。
代わってミハル・オルタナティブが攻撃する。
代わってアークザイン・ヴィオローネが攻撃する。
代わってミハル・オルタナティブが攻撃する。
代わってアークザイン・ヴィオローネが攻撃する。
代わってミハル・オルタナティブが攻撃する。
代わってアークザイン・ヴィオローネが攻撃する。
影人形のコアは耐えきれずに砕け散る。
アークザイン本体のコアにもヒビが入った。
「トドメだ、ミハルっ!」
にっこり、とミハルは☆の瞳を輝かせた。
「いっくよー☆
ミハミハ~丸太ストライクーーーッッ!」
ミハルが抱えた丸太が深々と本体のコアに突き刺さる。
アークザインはピタリ、と動きを止めた。
「――やったか?」
不気味に沈黙するアークザイン。
俺たちは息を呑む。
静寂が満ちた空間――そこに、聞き慣れた声が返ってきた。
:お 再開した
:ミハぴ~~~
:お兄ちゃん!
:戦ってる?
:ミハぴ、逃げて
:芋竜、避難勧告出てるよー
:第二層におるみたいやね
:ザイオンの人と共闘してるのか
:芋竜が無事でよかった
:お兄ちゃん ママと連絡とれない
:パンドラもいる
:エンゼルを代表して安心しました
:謎パンドラ
:ハーレムってこと?
:ヤバめなモンスターいるなぁ
:大丈夫そう?
:逃げてくれ
:なんか勝ってるっぽいぞ
「配信が、戻ってきた……!」
電子機器が使用できるようになった、ってことは。
特異界域拡張生態が解除された……!
コアの破壊に成功したってことだ!




