母の思い、あるいは
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「復讐心でしょうか」と、罪園は問いかけた。
フライトユニットから魔力を噴出しながら、罪園はアークザインを追う。
ミハルとのダンジョン攻略バトル、続けて涼――イモータル・リュウとのバトルを経てMPの損耗が激しく、それに加えてのアークザインのダンジョン攻略阻止という強行軍……本来の実力を発揮するには程遠いコンディション……それでも、泣き言は言っていられない。
本来、セプテントリオンには最低でもS級冒険者「3人」以上を含むパーティで対処するというのが事前の規定である。
ここにいるS級は罪園 リアムただ一人だけ。
否――新たなS級候補が罪園の手を握っていた。
罪園よりも小柄な身体をしていながらも、芯の強い目でその人は言う。
「復讐……? そんなこと、考えてもみなかったわ」
星羽ミハル――以東 春子は罪園の問いに答えた。
「10年前のあの惨劇を、絶対に繰り返さない。私が考えてるのはそれだけ」
春子は階下の穴を見下ろした。
視線の先の闇の向こうには、第十九層に置いてきた息子の顔が浮かんでいるのだろう。
「こんなこと言ったら、あの子に怒られるかもしれないけど。リョウちゃんが脱落してくれて、ホッとしている自分がいるの。リョウちゃんが死ぬことなんて――私、絶対に考えたくないから」
罪園は春子の言葉に頷く。
「……お義母さまも巻き込みたくありません、本音を言えば。ですが、現在の弊社の実力ではアークザインを単独で撃破することは困難と判断しました。ご協力に感謝しています」
「いいのよ、私だって冒険者なんだし。経験だけで言えばリアムちゃんよりもベテラン、巻き込まれたなんてとんでもない……もっと、お母さんを頼っていいのよ?」
罪園は「その……」と言いづらそうに口にする。
「……弊社は嫌われていると思っていました、春子さんに。視界に入るだけで嫌になる、おジャマ虫かと」
「えっ、どうして?」
「お義母さまは以東くんを愛していますよね?」
「…………ッ!」
「…………(じーっ)」
「…………(あ、あはは)」
「…………(じーっ)」
「…………(目を泳がせる)」
「…………(じーっ)」
「…………(ふぅ、とため息をつく)」
観念したかのように春子は呟く。
「愛、ね。……わからないわ、正直」
「意外です。自覚が無かったのですか、あれだけベタベタしていて」
「自覚なら、あるわよぉ……でも、リョウちゃんは息子なんだし。お母さんである私が大事に思ったり、守りたいって思うのは当然のことでしょ? それは愛かもしれないけど、男女のそれとは別だと思うわ」
「否定します。子供を愛するかどうかは別問題です、母親であるからといって」
罪園は自身の母親――遺伝子提供者という名の「怪物」を思い浮かべた。
とはいえ、自分と彼女の関係は置いておいて。
一般論として「母性」というものがある以上、母が子を愛する本能は存在する。
春子の息子に対する思いの正体――
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「初めてお兄さんに助けられたときに、パパにダンジョンに助けられたときのことを思い出したの。パパみたいにカッコよくなったなって――リョウちゃんはパパの息子なんだから、当たり前なのにね?」
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「似ているのですか? 以東くんと、お義父さまは」
「似ている、と思いたかったのかも。
それなら、私の心に言い訳がつくから」
春子はいじらしく、目線を逸らした。
その様子を見て罪園は内心で微笑む。
「……可愛いです、お義母さま」
「ちょっと、おばさんをからかわないでっ!」
「否定します。お義母さまは可愛いです、年齢など関係なく。つまり、弊社にとっては最大の脅威、強力なライヴァルということです――」
ライヴァル、と口にした罪園の目。
言葉とは裏腹に、そこには一切の敵意は無かった。
――それはまるで、秘密を共有した共犯者のようで。
春子はくすり、と笑みを漏らす。
「さっき、話したこと。
リョウちゃんには内緒にしてね?」
「承知しました。
続きは戦いの後にしましょう」
フライトユニットを加速させる。
アークザインが引き起こす破砕音が近づく――決戦は間近。
「お義母さまをこんなところでは死なせません。
やっちまいましょう、徹底的に」
「でも、アークザインに有効な攻撃は限られているわ。スキルによる魔法攻撃は無効――私の物理攻撃なら、ステータスに任せた単純暴力だから通りは良いと思うけど」
「……以東くんを一撃で瀕死に追い込んだ様子を見るかぎりでは、至近距離での戦闘はリスクが大きいです。お義母さまによる近接攻撃は最終手段として」
S級冒険者と、準S級冒険者の二人――
即席パーティは互いの力を活かした連携について話し合う。
「弊社に、考えがあります」
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