神の石檻 -Dungeons and Trions-
ダンジョン第二十層――
「――追いついたな!」
異形の巨体アークザインは、ダンジョンの天井に向けて質量弾を撃ち続けていた。
削岩機のような音を定期的に立てながら、徐々に削れていき、開通する。
ふわりと開通した穴を通過して、敵は第十九層に進軍した。
アークザインにとっては、ダンジョンの天井は上に上昇すればするほど――つまり、最初に出現した第四十層よりも第二十層の方が固くなっているようだ。
――罪園の言っていたとおり。
「あいつと俺たちとではダンジョンの法則が逆向きに働くってことか」
俺はここまで来る途中のことを思い出す。
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「『神の石檻』……それがダンジョンだって言うのか?」
「肯定します。そもそも、モンスターを外界に逃さないためにあるのです――あらゆるダンジョンが作られた目的は」
俺と母さんを引っ張りながら、罪園はフライトユニットで上を目指す。
アークザインが開けた穴は塞がりつつある。
通過が間に合いそうにない時には、母さんが飛び出て穴を破壊していた。
罪園は語りだす。
「次元陥穽――未来世界線『エリクシル』のモンスターは侵略の足掛かりとして、遠い宇宙の先から地球に対してある種のタイムトンネルを開通させます。『神の石檻』は次元陥穽の出現に対応して自動で起動する術式――この国の国土そのものに仕掛けられた巨大な魔法陣によって生成されているのです、モンスターを外の世界へと逃がさないように」
「それが、ダンジョン……」
母さんが罪園に問いかける。
「ねぇ、リアムちゃん。お母さん、あまりついていけてないのだけど……宇宙から来たってことは、モンスターの正体は宇宙人ってことかしら?」
「いや、未来人なんじゃないか? タイムトンネルっていうのがSFによく出てくるアレだとしたら、過去と未来とを結びつける穴のことだろうし」
俺たちの質問に罪園は頷いた。
「どちらも肯定します。
宇宙人で未来人です。超能力者でもありますね」
「涼宮ハル〇みたいなことを言い出すなぁ」
「未来世界線『エリクシル』とは、弊社たちが生きる時代よりもずっと未来――太陽系外銀河の遠い宇宙のどこかに存在する異星環境を指します」
「そんな遠いところから地球を侵略してるのか……」
「この事実は一般には公表されていません。知っているのはダンジョン公社やザイオンのトップ――それとS級冒険者のみ」
「あら。じゃあ、私たちが知ったらマズいんじゃないの?」
「問題ありません。お義母さまは既にS級に内定していますし」
なるほどな。いや、待て待て。
「おい、それじゃ俺はどうなんだ……?」
「問題ありません。弊社の夫なので」
「あるだろ、問題が」
とはいえ、これで合点がいくこともあった。
冒険者は一般的な仕事と比較しても稼ぎが良い。
高価値資源の買い取りについては政府が補助金を出しているため、俺みたいな底辺冒険者でも、浅い階層で探索しているだけでバイト代よりずっと稼げた。
上級冒険者ともなれば、生活には困らないだろう。
それも侵略者であるモンスターに対抗できる人材――冒険者を育てるためだった、と考えれば納得はいく。
「モンスターの最終的な目的はダンジョンの外に出ること、か。ダンジョンの奥へと攻略していく冒険者とは真逆になるんだな」
「肯定します。そのため、ダンジョンの法則は人間には都合良く、モンスターには都合が悪いようにされているのです」
「と、言うと?」
「ダンジョンの階層が外界に近づけば近づくほど、モンスターにとってはダンジョンの難易度が上昇します。オブジェクトの強度やトラップが強化されることで、浅い階層ほど奴らには不利になっていくのです」
母さんが疑問を提示した。
「リアムちゃん、それだと説明がつかないことがあるわ。今日のダンジョン攻略で何度も壁や床を壊したけど……奥の階層にいけばいくほど壁は固くなってたわよ?」
「言われてみればそうだな。さっきの説明だと、浅い階層の方が壁が固くなるんだよな? モンスターをダンジョンに閉じ込めるために」
「説明します。それは逆転術式によるもの――モンスターと人間では作用が反対になります、ダンジョンに仕掛けられた魔法の効力は」
それは、つまり――こういうことか?↓
・人間の場合
ダンジョンの奥に進むほどダンジョン難易度が上がる
・モンスターの場合
ダンジョンの入り口に近づくほどダンジョン難易度が上がる
俺が影人形を操って空中に影の図を描くと、罪園は頷いた。
「肯定します。人間にとってのダンジョン難易度が下がることで低階層になるほど出現するモンスターのレベルも低くなる――ランダムで出現したモンスターにダンジョンの入り口を破壊されるリスクが下がります。また、未熟な冒険者に対しては奥にいくほど難易度が上がることで、ダンジョンを進みすぎて高レベルモンスターと遭遇する確率も下げることができます」
「――待てよ。そうだとしたら、罪園が言ってた『U案件』はどうなるんだ? グリーンドラゴンやオークプリーストみたいな、低階層に出現する強力なモンスターだ」
罪園は母さんを眺めながら言葉を紡ぐ。
「冒険者と同じことをしているモンスターです――つまりはダンジョンの奥をスタート地点として、ダンジョンの浅い階層に向けて、逆方向に進軍している」
母さんが合いの手を挟んだ。
「それって……ダンジョン攻略ってこと!?」
「肯定します。お義母さまの言うとおり、ユニークモンスターがこれまでやっていたのはダンジョン攻略。その目的はこちらの世界の冒険者と同じく――より強力な敵を狩り、経験値を得ること」
これで理解した。奴らの行動範囲が異常だった理由。
目的は――レベリング。
「あいつらはレベル上げをしていたのか。だから母さんやパンドラさんみたいな優秀な冒険者が狙われていた……!」
「郷に入っては郷に従え、という言葉があります。これまでには考えられないことでしたが、明確な知性の元で動いている。モンスターなりに適応したということです、ダンジョンが支配するルールに」
ユニークモンスターが規格外のステータスを持っており、倒したときに大量の経験値を抱え込んでいたのも……あいつらがレベル上げを繰り返すことで異常にレベルアップした個体だったからなのか。
「だけど、アークザインの目的は違うよな……」
アークザインは俺たちには目もくれずに上を目指している。
奴の目的はレベル上げではなく――
「『神の石檻』の完全踏破……ッ!」
最終目的はダンジョンのクリア、ということだ!
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俺たちは天井の穴を抜けて第十九層へと到達した。
外界を目指す敵――アークザインと対峙する。
異星存在セプテントリオン。
ダンジョンの奥から現れた異界のトップ・プレイヤー。
「デッドエンドだ。
お前のダンジョン攻略はここで食い止める……!」




