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究極のラスボス、現る

罪園つみぞの リアムとの戦いの後――

俺たちは瓦礫が散らばるダンジョンの広間に立ち尽くしていた。


足元には罪園との激闘の名残が破壊された壁面やビームで焼け焦げた跡として刻まれている。


胸を覆うのは疲労感と、微かな達成感。

――罪園が抱えていた本音を聞くことができた。

そのことが嬉しい。


ミハルの姿をした母さんは、罪園をそっと抱きしめている。


「リアムちゃん。私のことを、お母さんだと思っていいんだからね?」


罪園は最初、ぎこちなくその腕を受け止めていたが……やがて力を抜き、自分よりも一回り小さいミハルの頭に肩を軽く寄せるようにして、その身を預けた。


「――はい。感謝します、お義母かあさま」


さっきまでの氷のような冷徹さはない。


罪園が仕掛けてきたプレイヤーキル――その真意がS級冒険者昇格試験の実技科目だったとわかり、俺たちと罪園に対するわだかまりも無くなった。


これで一件落着、だ。


「しかし、S級冒険者か。

 俺もずいぶんと遠いところまで来たものだな……」


そう呟くと、罪園は「は?」と異を唱えた。


「否定します。以東くんはS級冒険者にはなれませんが」


「え、なんでだよ!? 試験官のHPを半分以上削る、っていうのが合格の条件なんだろ。試験官は罪園――だったら、俺はとっくに条件を満たしてるじゃないか」


罪園は自身の必殺技であるホーミング攻撃に巻き込まれたことで大ダメージを受けてている。

彼女の専用装備であるフライトユニットも崩壊した。


実技科目を突破するには充分のはずだ。


「以東くん、そもそもの話をします。あなたの等級はB級冒険者。S級冒険者昇格試験の対象となるのはA級冒険者、かつ、一定の功績を果たした人物に限られます」


「……A()()()()()だって? ってことは」


「はい」


罪園は自分を抱きしめていたミハルに向けて振り返り、真一文字に結ばれてた口元をゆるめた。



「お義理かあさま……否、星羽ミハル。

 実技試験科目の合格、おめでとうございます」



S級冒険者昇格試験の対象は……ッ!


「俺じゃなくて……」

ミハルが、試験の対象ってことぉ!?」


「肯定します。これまでのソロ攻略における功績に加えて、ユニークモンスターであるオークプリーストの討伐、更には『ハッピー・エクリプス』結成後の攻略配信が評価されて、このたびの昇格試験の対象となりました。実技科目はこれで修了ですので、あとは簡易的な面接を経て昇格の手続きとなります」


「待て待て待てっ! さっきのバトルで活躍してたのは俺だろ!?」


「否定します。以東くん自身が言っていたではありませんか」



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「さっきの駆け引きは俺だけの勝利じゃない。母さんのスキルが罪園に対する切り札になると判断して、ガッツリと協力してもらったからな。俺と母さん、二人がかりで勝ったようなものさ!(キラッ)」

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「――と。そんな風に恰好をつけていませんでしたか?」


「たしかに言ったけどさ……あれは謙遜みたいなもんで……」


「以東くん程度だけなら、余裕で消し炭でしたが。

 お義母かあさまのスキルの援護がなければ」


「それは、そう……!」


母さんもおずおずと手をあげる。


「あのぉ、リアムちゃん。本当に私が合格でいいのかしら? リョウちゃんも言ってたとおり、活躍したのは主にリョウちゃんの方だし……私はスキルを使っただけで、ほとんど何もしてないのよ?」


「問題ありません。既存のS級の中にも、他の冒険者への支援に特化したサポートタイプの方はいますので。元々、実技科目はパーティメンバーを随伴しての受験が認められています」


「リョウちゃんが私のパーティメンバー、という扱いなのね」


「理解はできるが……納得がいかねえぜ!」


「お義母かあさまの場合は単独での戦闘力についても充分であるとわかっています、相手がモンスターの戦闘ならば問題なく。……先ほどの戦闘に直接参加しなかったのは、弊社の身を慮っていたのでしょう?」


母さんの代わりに俺が頷いた。


「優しい人なんだ、母さんは。人間を相手に武器を振るうことなんて出来ない。それがわかってたから、最初から俺が前に出ることは決めてたんだよ」


「別に、優しいわけじゃないわ。私は臆病なだけ……」


「いいや、それは母さんの美点だ。それに本来の冒険者はモンスター以外と戦う必要なんてないんだし、欠点になることは無い。そうだろ、罪園?」


「……肯定します。お義母かあさまは優しい方です。母親に良いところを見せたいだけのマザコン野郎と弊社の意見が一致するのは心外ですが」


「お前、なんか……俺への当たりが強くなってないか?」


「否定します。遠慮無しに以東くんを殴れる弊社は、優しさを持たない冷血女だ――という風に遠回しに言いたいんですね~なんてことは思ってませんし。全然」


「根に持っているなぁ!」


罪園はさっと俊敏な動きで母さんの影に隠れる。


「お義母かあさま、DVの相談です。

 夫がチクチク言葉で弊社をいじめてきます」


「そうなの!? こら、リョウちゃんッ!

 女の子をいじめちゃダメなんだからね」


「チクチク言葉は罪園のやり口だろうがっ! っていうか、だからなぁ……罪園はまだ俺の奥さんなんかじゃないって……!」


罪園は頷いた。


「肯定します。弊社と以東くんはまだ籍を入れていません。にもかかわらず、弊社の胸に身体を押し付けて、存分に楽しみ、弄び、傷物にしました……これは責任を取るべきなのでは?」


「あら、そういえばそうだったわねっ! ちょっとリョウちゃん、いくら作戦だからって、嫁入り前の女の子にあんなエッチなことするなんて……お母さん聞いてなかったわよ!?」


「いや、だから、あれは勝つために仕方なく……」


そんな風に三人でガヤガヤと言い合っていると――



突如、ダンジョン全体が揺れ動いた。



轟音が低く地鳴りのように響きわたり、俺たちは反射的に耳を塞いだ。

それはまるで大地そのものの怒り。

荘厳な地下神殿の様相をしていた第四十層の奥から黒く、巨大な塊が這い出てくる。


「あれは……モンスターかッ!?」


間違いなくボスクラス。

こんなときに会敵エンカウントするとは――!


「母さん、罪園っ!」


振り向くと、既に二人は戦闘態勢を整えていた。

流石はベテランのA級冒険者と、攻略ガチ勢のS級冒険者だな――!


警戒する俺たちの前に巨大なモンスターが現れる。


「なんだこいつ……?」


「それ」は、これまでに見た如何なるモンスターにも似ていなかった。

以前に罪園が言っていた「ユニークモンスター」ってやつなのか?


「なぁ、罪園ッ! このモンスターは……」


――と、俺が問おうとすると。


罪園は顔色を真っ青にして言葉を失っていた。

普段からしている無表情の奥に「恐怖」の影が差している。


「そん、な……お義母かあさまを狙うために、ここまでするの? いいや、違う。第四十層地点での完全顕現……まさか目的は『神の石檻』からの脱獄……?」


「リアムちゃん、どうしたの!?」と母さんも問う。


恐怖に陥りながらも、罪園は気丈に言葉を絞り出した。



「早すぎる……”至天”のアークザイン!」

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