光と影の戦い!
罪園は冷静さを失っている。
母さんが俺にキスしたのを見て、
罪園は呆けたように口を開けていた。
――これは千載一遇のチャンス!
俺は地面を駆ける。
目的は地面に落ちる、罪園の影だ!
「……させませんっ!」
俺の意図を読んだ罪園はフライトユニットから魔力を噴出すると、あっという間に戦線から離脱していく。
俺の手が触れる直前で、影はするりと遠ざかっていった。
「へっ、復帰するのが早いじゃねえか……罪園!」
流石はS級冒険者というところか。
そして……この奇襲が成功しなかったのは痛い。
「以東くんは地力が劣ります、弊社のスペックよりも。それを補うための奇襲……それを補佐するための小芝居。まんまとしてやられましたが、次はありません」
「そいつはどうかな? 俺が影人形を一体でも作れれば、戦力の差なんて逆転するんだぜ」
【影下分身】――俺のユニークスキル。
相手の影に触れることで、本体と同じスペックの影人形を生成できる能力だ。
影人形はスキルまではコピーできないため、罪園をコピーしたとしても錬金術師の職業スキルである【物質変成】が必須となるフライトユニットを使うことはできない……ただし、素の性能はコピーできるのだから、強力な味方を増やすことができる。
何よりも――
「影人形へのダメージの半分は本体へフィードバックする」
影人形への反撃は自分自身へのダメージとなる――罪園としてはやりにくいだろうし、いざとなれば無抵抗の影人形を攻撃したり、自傷させることでHPを削ることもできる。
「理解しました。以東くんの目的は、弊社の影人形を生成し――抵抗できない弊社のコピーに対して、あんなことやこんなことをするつもりなのですね……」
「そ、そんないやらしいことするかよっ!?」
「疑問を提示します。弊社は「あんなことやこんなこと」としか言っていません――なぜ、それがいやらしいことだと判断したのですか?」
そう言いながら、罪園は背後に輝くセフィロトの紋章にエネルギーをチャージした。
十個の球体のうち、三個の光球に魔力が充填されている。
「第三段階の「王母の理解」! くそっ、今のは時間稼ぎか」
「肯定します。女の子の色恋沙汰に弱いのが、以東くんの弱点です。弊社が妻となる以上、いずれは克服されることになりますが……今は、その弱点を突きます」
空を切り裂くような音をともに、
罪園はフライトユニットの推進力を最大にして飛び回る。
――罪園の目的は時間稼ぎだ。
チャージを許せば許すほどに、俺の状況は不利になっていく!
「(罪園のユニークスキル……【月光華】!)」
現存するあらゆるスキルの中でも、光属性最強と称される攻撃スキル。
数秘術における生命の樹の具象図、セフィロトを模した紋章にエネルギーをチャージしていき、チャージしたエネルギーを解放することで強力なビームを放つ能力である。
チャージにはMPを支払うと共に一定のクールタイムが必要となる欠点があるが、その分、高位階に到達したときのビームの破壊力はけた違いだ。
罪園に時間は与えない――!
「【影下分身】ッ!」
しゃがみこみ、自身の影に指を当てる。
ゆらり――と影が立ち上がり、俺自身の影人形が生成された。
漆黒の影人形と共に走り出す。
盗賊の職業スキル【壁歩行】により、俺はダンジョンの壁面を床のように扱いながら罪園に迫っていく。
影人形はスキルをコピーできない――【壁歩行】スキルは使えないものの、影を通じて俺と影人形は繋がっている。
俺が動けば、影も動く。
壁面を忍者走りで駆けていく俺の傍らに、影人形もぴったりとついてきていた。
「面白いスキルです。所詮は曲芸ですが」
上空から響く罪園の声には、かすかに挑発が混じっていた。
その無表情の瞳は余裕そのもの。
彼女は空を縦横無尽に駆け巡り、距離が離されるたびに、背後の系統樹には光球がチャージされていく――だが、ここで俺は影人形に指示を出した。
影人形は俺の足を掴むと、俺の身体を思いっきり投擲した!
その軌道は空中の罪園――ではなく、地面に向けて。
「…………ッ!?」
「曲芸だって? 甘く見すぎなんだよ、罪園!」
投擲された先にあったのは地面に投影された罪園の影。
このスピードなら、影に触れることが成功する!
俺の手が罪園の影に触れる、直前――
「【月光華】――
|第零位階・球形矮小光輝」
――影は目の前で消え去った。
地面に手をついた俺は、そのまま受け身を取りながら回転して着地する。
もう少しで……罪園の影に触れることが出来たのに!
「何が、起きた……!?」
俺は頭上を見上げる。
天空の支配者の如く俺を見下ろす罪園の手には、光の球が握られていた。
光球から放たれた光は指向性を持ち、スポットライトのように降り注ぐ。
あれは【月光華】の最小出力形態――!?
エネルギー消費無しでも使用できる技だ。
それ自体には殺傷力はなく、
ダンジョンの暗闇を照らす程度しか出来ないはずだが……。
「……そういうことか。
光源を作り、影を照らして消したってことかよ!」
「以東くんの能力は影を操るもの。影は光がなくては生まれませんが――強い光をそのままに直視すれば、影はたちまち消え去ってしまう。これで理解できたはず。弊社と以東くんの能力の相性は……」
「最悪の、最悪だな……!」
セフィロトの系統樹に、ふたたび光球が灯る。
俺は空中の罪園に向けてダガーを投げて飛ばした。
罪園は回避するが、壁に潜んだ俺の影人形がダガーをキャッチする。
影人形がダガーを投げる――今度は実体と影、二本のダガーだ。
「――悪手です。スピードでは弊社に勝てません、今の以東くんの実力では」
まるで背中に目がついているように、罪園は軌道を変えて飛行しながら回避した。
そのままの勢いで、今度は地に降りていた俺に突っ込んでくる!
「(こっちを狙ってくるだと……!?)」
「少し、削っておきましょうか」
罪園が魔力を込めてビームサーベルを生成する。
ダメだ、回避できない――
俺は瞬時に影人形を呼び戻し、俺の眼前に出すことで盾とした。
ズバァ――!と、ビームサーベルが影人形を切り裂く。
「ぐっ……!」
黒一色の影人形は深く傷を負い、そのダメージは俺にもフィードバックした。
罪園は「――成程」と呟く。
「やはり、有効ではありませんね――以東くんへの単体攻撃は。影人形を盾にするかぎり、本体へのダメージは常に半減されてしまう。となれば、駆け引きも面倒です」
罪園は更にエネルギーをチャージした。
これでセフィロトは第五段階の「癒杖の峻厳」へと至る。
ここまで来たら、タイムリミットは僅かだ。
「以東くんを一撃で消し飛ばします。
影を盾にすることも叶わない、範囲内全体攻撃で」
「(やはり……|第六段階・無尽光散涙雨を撃つ気だな)」
最も警戒していた技。回避不能の必中攻撃――
俺は背後で見守る母さんに声をかけた。
「母さん、離れていてくれ! デカいのが来るぞ」
母さんは頷き、ダンジョンの三叉路へと後退していった。
――ここまでは想定内。
俺の実力では有効打を決められないのはわかってる。
とはいえ、布石は打っておいた。
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「はいっ、いってらっしゃいのキス……ね?」
背伸びして俺の頬に口づけをする母さん。
俺と母さんは密着していた。
そのとき――俺の足は母さんの影に触れている。
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ダンジョンの天井から、ゆらりと落ちる影がある。
実体を持った影は――黒一色のツインテールの髪を揺らした。




