表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/62

VSプレジデント・ザイオン

荘厳な壁画が立ち並ぶダンジョンの大広間。


冷たい金属質の足音を立てながら、罪園つみぞの リアム――いや、プレジデント罪園ザイオンが無言でこちらに歩み寄って来た。


銀色のボディスーツは、まるで彼女の身体に溶け込むように密着し、その均整の取れた女性らしい完璧な曲線を際立たせている。

ユニークスキル【月光華セフィラ】が形作るセフィロトの系統樹を背負い、その輝きを受けて腰まで届く銀髪がさらさらと光を反射した。


手に握られているのは白光を放つビームサーベル。


おそらくは錬金術師アルケミストの専用装備だろう――握られた柄から剣の形に伸びる魔力の刃は、周囲の影を切り裂き、まるで罪園自身が夜を照らす月光の化身かのように思わせる。


排除デリートする」――そう、罪園は言った。


殺意の対象は星羽ミハル。

ミハルに向けて、罪園は刃を向ける。


ミハルに……俺の……()()()に。


「やめろ、罪園」


自分の声に驚いた。


――俺はこんなに嫌な声が出せたのか。


普段は表情を変えない罪園の、氷のような無表情に亀裂が入ったのがわかる。


それを見て罪悪感を覚えた。

だけど、止まらない。


「お前、自分が何やってんのかわかってんのか? 冒険者同士の戦闘行為――プレイヤーキルは、たとえ故意でなくても御法度だろうが。それを明らかな敵意を持ってするってことは……冒険者資格のはく奪だってありうる。こんなことが知れたら、冒険者としてのお前は終わりだぞ……!」


「……理解しています。

 ですが、ここは配信禁止領域」


罪園は刃の対象を、母さんから俺へと変える。


「全ては闇の中です。証拠を録画しようにも、電子機器は使用不能。事実を公表しようとも――ダンジョン公社にもマスコミにも、弊社には太いパイプがあります」


罪園の母親はザイオンテック日本支社のCEO――

ダンジョン公社はザイオン社が無くては成り立たないのが事実。


そう……罪園には権力があるんだ。


「お前、ふざけんなよ……!」


頭に血が昇っているのを感じる。

――俺は、キレていた。


「母さんをプレイヤーキルした上で、その事実を揉み消すっていうのかッ!」


「肯定します。これはダンジョン攻略中の「不幸な事故」。きっと、モンスターに敗北してしまったのでしょうね……隠蔽用のカバーストーリーとしては充分です」


顔色一つ変えずに、罪園は冷酷に告げる。


「以東くんとお義母かあさまが実の家族であること、それを世間に公表するだけでは生ぬるいと判断しました。再起不能になってもらいます――星羽ミハルには」


「最初から、それがテメェの狙いかよッ!」


罪園は母さんを襲うつもりだ。


「(ダンジョン内でHPが0になった冒険者にはペナルティがある)」


強制脱出魔法エヴァキュエーションによって命が危険に晒されることは無いものの、その代償として装備品全てとアイテム、更には獲得した経験値の多くを失い、レベルも大きくダウンする――母さんがミハルとして鍛えてきたこれまでのステータスはA級――ここで敗北したなら、人気配信者としては再起不能。


「どうしてだよ……! お前、そんな奴じゃないだろ。だいたい、俺の傍にいるのが相応しいとか相応しくないとか、罪園が言ってることはわけわかんねえよッッッ!」


俺は周囲の壁画を見回した。

異星存在セプテントリオン――罪園が立ち向かおうとする「脅威」。


「こんなヤベェ奴らがダンジョンにはいるんだろ!? そりゃあ、俺だって協力するよ! 俺だって、罪園の力になりてえよ! でも、そこに母さんがいちゃいけない理由は何だ? 母さんは俺のパーティだ……冒険者としての、俺の相棒なんだぞ!」


「リョウちゃん……」


と、母さんが消え入りそうな声を出す。


自分の背丈よりも大きな剣を構えながらも……その足元は震えていた。


「(当然だ……!)」


母さんは星羽ミハル。自称JK。人気配信者。

A級冒険者、狂戦士バーサーカー――でも、母さんは母さんなんだ。


たとえ、力が強くても。


モンスター相手ならいざ知らず。

母さんは人間を相手に手を出せるような人じゃない。

そういう人なんだ、母さんは。


――だから、父さんが死んだときに。



----------------------------------

「リョウちゃん、アキちゃん。

 安心して。パパがいなくなっても……」


喪服を着た母さんは、ぽろぽろと涙を流していた。

中学生くらいの小さな背丈。

他人よりも若く、幼い容姿――それでも。


精一杯に力を振り絞って「母」として笑顔を見せる。


「お母さんが、二人を守るからね」

----------------------------------



――俺が、母さんを守るって誓ったんじゃないかッ!


俺は盗賊シーフ用のダガーを構えて、母さんを庇うように立つ。


「母さんには手出しさせない。どうしてもって言うなら……俺を殺してからやるんだな、罪園ッ!」


「……想定内の行動です。

 的中してほしくは、ありませんでしたが」


罪園は地面を蹴って後退し、距離を取る。

フライトユニットを起動しながら、魔力を噴出して宙に浮かび上がった。


「以東くんは現在、C級冒険者でしたね。一緒にレベル上げをやり直しましょう――妻として、親身に支えることを保証します」


「願い下げだ。それに、オークプリーストの経験値やら、配信で稼いだ経験値やらがあるんでな――今の俺はB級だよ」


相手はプレジデント罪園。

日本に七人しかいないS級冒険者の一人。

ダンジョン攻略の最前線に立つ、最強の錬金術師。


それを前にB級冒険者とは、多少は心もとないが。

なぁに――映画だってB級が一番面白いんだ。


「(それに……ある程度は、想定内でもある)」


俺は母さんと目線を交わして、頷き合った。


ダンジョン攻略バトルという話が出たときから――罪園がプレイヤーキルを狙ってくる可能性は考慮していた。


「(「星羽ミハル」に対する罪園の敵意は、あまりにも異常だったからな……)」


とは言っても、罪園が「配信禁止領域」なんてものを持ち出してくるのは流石に想定外で――俺が想定していたのは、せいぜい「モンスターへの攻撃が誤って命中した」を装う程度の可愛いものだったが。


母さんとは事前に打ち合わせをしている。


「(S級冒険者――プレジデント罪園とのバトルは対策済みってことだ!)」


ようやく、頭が冷えてきた。


罪園だって、意味もなく他人を傷つけるような奴じゃないことは知ってる。

何か事情があるのかもしれない。

それか……俺の知らない、罪園の一面があるのか。



信じさせてくれよ、罪園。

恥ずかしいから言わなかったけど……お前に「好き」って言われたとき。


「……俺だって、嬉しかったんだからな」



頭を戦闘モードに切り替える。

こうなったら、熱くなった方が負けだ。


だから――まずはプランA。


俺の意図を汲んで、母さんが傍に立った。


「…………?」と、罪園は空中で首をかしげる。


母さんは【一念化粧ダブルフェイク】を解いた。

ツインテールの髪型からゴムを外して、柔らかな茶色の髪を流し、普段しているサイドテール風の髪型に整える。


衣装こそ女子高生風のままだが。

雰囲気は「星羽ミハル」から「以東 春子」に戻っていた。


「リョウちゃん、頑張ってね。

 いつもの日課をしましょう♪」


「ああ……頼むぜ、母さんっ!」


母さんは背伸びをすると、俺の頬に口づけをする。

頬に触れる、少し水気を帯びた、皮膚と皮膚の感触。



「はいっ、いってらっしゃいのキス……ね?」



ぐ。ぐぐぐ。ぐぐぐぐぐぐ……!


――恥ずかしい。顔から火が出そうなくらい。


それでも、俺は必死に動揺を抑える。

動揺するのは……お前の方だ、罪園ッ!


罪園 リアムは……無表情を崩した。



「は。破廉恥な……母親が……18を超えた息子に……いってらっしゃいのキスを……日課……!? 理解、不能です……理解できない。許さないッッッ!」


呆然、困惑、激怒……!



狙い通りだ。罪園は冷静さを失った!

俺は内心でほくそ笑む。


「(へっ、こんなのが日課なわけないだろ)」


まぁ――恋愛営業は、以東家のお家芸ってわけさっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ