簀巻きのままで
朝晩は宿屋で食事を出してくれるので、追加料金を支払って、それですませている。昼はもう食べなくていいや。
だって数日前まで雪が降っていたせいで、路面がべちゃべちゃ。さらに冬特有のどんよりとした空も、寒い空気も、わざわざ外に行かなくていいかなという気にさせる。
冬が明けたらどこかに行こうかな。
どこか面白そうなところがないか聞き込みしよう。……明日から。
「!」
ベッドの上でごろごろしてたら、大きな音。
部屋の扉を開けようと、がたがた揺らされている。
「なに?誰?待って、やめて!」
壊れる壊れる。こんな昼間から押し入り強盗なの!?
「開ける、開けるから」
スライドするだけの簡易な鍵を慌てて開ける。
「破れた」
「……」
無言で彼女の左手を降ろしてあげた。
「直して」
そうだね。右が破れたら、今度は左だよね、うん。
「その恰好で来たの?寒かったでしょ」
「寒くない」
前と同じく直したワンピース一枚。
「とりあえず中に入ってて」
入れ替わりで部屋を出ておかみさんのところへ行く。
「暖房借りたいんだけど」
「一回の貸し出しは半日分ね。ずっと借りるなら割引してあげるよ」
「今回だけでいい」
俺は別に暖房いらないからね。
「あんたまた女連れ込んでるだろ?うちはそういう宿屋じゃないからね!」
「わかってるって。そういうんじゃないから、大丈夫。前と同じですぐ帰るよ」
信用、あると思ったんだけど? 金払いもいいし、優良客だと思うんだけどなぁ。
注意事項を聞きながら、鉄製の鉢皿に炭火をのせたものを受け取る。
慌てて炭を落とさないように、それでもなるはやで部屋に戻る。
「……準備万端だね」
簀巻きの彼女がいた。
壁につってあったコートもなくなってる。えらいね。
服を拾って、ベッドの上はさすがに控えるけどなるべく彼女の近くに暖房を置く。
「俺が直したら、服を置いて部屋を出るから、それまでそのままでいてね」
「なんで?破れてないから着てもいいのよ?」
「うん。着てもいいんだけど、俺が出るまで待ってほしいの」
「なんで?」
「なんででも!」
いや待てよ。
「あのね、人のいるところで服を脱いだら駄目なんだ」
思い直してきちんと教えてあげる。
「服作るときは脱いでたよ?」
「服屋さんはいいんだよ」
「おまえも服屋さんでしょ?」
「ちがうよ」
「服を着れるようにしたのに?」
「……ここはお店屋さんじゃないでしょ」
納得して、おねがいだから納得して!
「たしかに」
「人前で服を脱ぐのは服屋さんで服を作ってもらう時だけね」
「わかった」
この辺りには温泉施設もないしこれで大丈夫なはず。
また興味津々で見てくるから、見えるように針と糸を動かす。
前よりもうまくできたんじゃない?
ちゃんと部屋を出るまで、簀巻きのままで待っててくれたよ。




