最後まで聞いて
さて、宿屋まで来てもらったのはいいけど、どうしようかな。
彼女をちらりと見る。うん、こんな期待されてたら今更やめるなんて言えないよね。
「どうぞ」
扉を開けて、彼女を招き入れた。
「まずね、今から言うことを最後まで聞いてから行動してね?」
「直すって」
「うん。直すから。そのために君にしてもらわないといけないことがあるんだ」
もう一度絶対最後まで聞いてと念を押す。
「あのね、直すためには服を脱いでもらわないと…だから最後まで聞いてってば!」
あんなに念を押したのに。
あわてて両手を掴んで、めくりあがりそうになった服を直してあげる。
「俺は外に出てるからその間に服を脱いで、代わりにこの服を着て、この布団にくるまって待ってて」
薄手のコートを手渡し、ベッドを指さす。
「めんどくさい」
「だよね。でもそれしてくれないと直せないから」
「そうなの?」
「そうなの!」
「……わかった」
絶対納得してないね?でもちゃんと守ってよ。
「いい?俺が出てから脱ぐんだからね?布団にくるまってから呼んでね?絶対途中で呼んじゃダメだからね」
「……そうしないと直らない?」
「そう!」
「がんばる」
渋々コートを受け取ってくれた。そそくさと部屋を出たとも!
通りすがりの人にあからさまに怪しい人を見る目で見られちゃった。うん、そうだよね。俺だって部屋の前で針と糸を持って、ぼうっと立ってる奴いたら見ちゃうもんね。でもね、仕方ないんだよ。たとえ宿代を払っている自分の部屋でも、入れないんだから。宿屋のおかみさんには「そういうことするならそういうところへ行け」って言われたからちゃんと説明したよ!信じてもらえた。長期間泊まって、問題は一度も起こしてないからね。信用はあるよ。……信じてもらえてるよね?
「できた」
一応ノックする。大丈夫だと思うけど、一応!
返事がない。もう一度ノックする。
「できたってば」
もう一度ノック……はもうしなくていいや。
うん、ちゃんと布団にくるまってるね。くるまってるというか簀巻きになってベッドに転がってるね。一気に犯罪臭がするよ。
「直して」
床に脱ぎ捨てられた服を拾って、裏返す。
「俺も座らせてね」
椅子なんてないからごめんよ。気にしてないからいいか。
糸を適当な長さにして、針に糸を通す。玉結びを作って、ほんの1cmもないほつれたところを縫いはじめる。
芋虫のようにもぞもぞ動きながら寝転がったままどうにか手元を見ようとしてくるから、体の向きを変えて、彼女に見えるように繕っていく。
「これでよし」
最後に玉止めし、余った糸を切る。
久しぶりにしたけど、まあいいんじゃない?
「すごい」
「ちょっとひきつっちゃってるけど」
「すごい!破れてない!破れてないから着てもいい!」
「あっ」
終わった後のこと言うの忘れてた。
外に行く暇もなかった。
簀巻きから脱出してコートを脱ごうとしたところでちゃんと目をつぶったから!




