女の過去編 2/4
夜が明ける前に目覚めて、服ごと丸洗いする。
昔は師匠がしてくれたけど、今じゃ私一人でもできる。
適温のお湯で上から下まできれいに洗って、風で乾かす。
今日はまだ寒いから風も温かくする。慣れれば簡単。
身綺麗にしたら、家の裏にある部屋に入って、供えてある器を頭を下げてから取った。
外に植えてある願の木もとへ行き、夜が明けるのを待つ。完全な暗闇に明るさがにじむと、願の木の葉に一粒の朝露が現れる。
これは雨が降っても雨と混じらないし、風が吹いても吹き飛ばされたりしないで絶対にそこにあるの。すごく不思議。師匠が言うにはこれはそういうものなんだって。
でも急がなければ消えてしまうからあわてて、それでも丁寧に器へと移した。
そしてまた部屋へと戻り、器を供えて今度は先ほどよりも長く頭を下げる。
毎朝している。
覚えている限り、生まれてからずっとしている。熱が出ようがなんだろうが、絶対させられてた。
一度だけ王様に会うためにお城に行ったとき、宿屋に泊まったけど転移魔法で家に帰って儀式をして、宿屋にまたすぐ戻ったもん。
師匠は無駄なことをさせないよ。ちゃんと意味もあるんだから。
これは神様にお願いするための儀式なんだって。
朝一番の朝露を供えるだけ。それだけ聞けば簡単なんだけど、途切れることなくずっと続けないとダメなんだって。
どれだけの期間をすればいいかは師匠も知らないって。じゃあわかんないよね。
私と違って師匠ははじめるのが遅かったから、もう願い事は叶わないかもしれないって。
でも師匠もちゃんと一緒にお参りしてるよ。
どうしても叶えたいことがあるから諦めきれないんだって。
「おまえの願いを使わせてもらう」
って言われてるから、師匠はしなくていいと思うんだけど。神様に失礼だから一緒にするんだって。
願いを叶えてくれるときに神様に会えるらしいから、今から楽しみ。
「カリグス様、お会いできる日を楽しみにしております」
師匠の後に続いて部屋を出た。
師匠のスープは私が受け継いだ。
本当に体にはいい。体にはいいんだけどなぁ。
スープを作る暇すら惜しいんだって。
ずっと続けていた研究が打ち切られるかもしれないって一緒にどうにかしようと考えたけど、無理だった。
「巨大な力になるってわかっているのにっ!」
めずらしく師匠は酔っぱらっていた。
ん?手にあるのはカリグス様にささげている神酒では?
……まあ、師匠の買ったものだし、いいのか?
「やっぱり費用対効果が悪いって言われた?」
「百人死んでも一人生き残ればいいじゃないか」
「赤ん坊はいくらでもいるけど、魔術師が使い物にならなくなるからね」
地球から呼び出すってのはとんでもない労力がいるもんね。
一人呼び出すのに高位の魔術師が何人もいるなんて、もったいないもん。
「質より量を選んだんだよ」
「それでもお前みたいに生き延びるやつもいる。自我を持たない赤子が脆いなんてはなっから承知だろうがっ」
ああ…神酒をそんな風に飲まないでほしい。
「でも大人になれたのは私だけじゃん」
「14番。お前、私に嫌味を言うのか?」
「違う。真実を言ってるの。私の後に15番16番もいたけど、二桁にもなれずに死んじゃったじゃん。魔術師は財産なんだよ?もったいない使い方なんかできないでしょ」
ちなみに1番から13番も言わずもがなだ。
「研究者なんでしょ?じゃあ次は何歳で呼び出せば最適かを探らなきゃ!」
見切りをつけるのも大事って教えてくれたのは師匠なんだから。




