ズル
いやいや。いやいやいや。
駄目でしょ、これは。どう考えても駄目でしょ。
「ここ、ここが破れた」
あ、今度は肩の方が破れたんだね。それも左右両方とも。
……そうじゃないでしょ。
「直して」
「いいけど、服は買おうね」
「直るのに?」
「またすぐ破れちゃうよ」
そもそも破れる前に用意しよう。
じゃなくて!
「ちょっと出てくるね」
「わかった」
受付にダッシュだ。
なんで部屋ひとつなわけ?どう見ても大人の男女だよ?配慮なさすぎじゃない?
買取屋は馬鹿なの?
別々に来たって知ってたでしょ?たまたま居合わせただけだって。俺が巻き込まれただけだって、巻き込んだのは買取屋なんだから知ってて当然じゃん。なのにひと部屋?
「はあ?」
語尾の上がった「はあ?」だ。それはもう、おもいっきり不満気に。
「部屋がない?あんな立派な部屋じゃなくていいんだよ?どんな部屋でもいいんだけど!」
「明日は領主祭ですので、他のお部屋も。本来なら、あのお部屋もご紹介がなければ……」
「まつり……ということは……他の宿屋も」
「おそらく」
難しいだろうね。
痛恨のミスだね。
いちいち祭の日なんて覚えてないよ!
買取屋は精一杯融通利かせてくれたんだね。無理矢理ねじ込んだね、このひと部屋も。
ありがたいね、申し訳ないね。
……どうしよう。
一応ノックをする。まあ返事がないのはわかってるんだけど。
「直して」
簀巻きの彼女がいた。
大丈夫、あの時の糸はまだ残ってる。
芋虫状態で、もぞもぞと動いて近づいてくるから、こっちからも近づいて、見やすいようにしてあげる。
「あのね……部屋がね、ないんだよ」
「?ここは?」
「えっとさ……ここしかないんだよね?」
「ある」
そうだよねぇ。あるよね。
「俺と君で、ひとつの部屋しかないんだけど」
「うん」
「うんじゃなくて……困るよね?」
「なんで?」
あー……困らないのか。困ったね。
「俺が困る」
「大丈夫!ベッド2つある。一人ひとつ、ある」
ツインでよかった、とはならないよ?
「えっとね……君は俺のこと知らないでしょ?」
「しってる」
「そうだね。うーんと、そんなに知らないでしょ?」
「知ってるよ?雷魔法で死ななくて服が直せて、クッキーくれる人」
いや?最後は違うよ?
「君は女の子でしょ?」
「うん」
「俺は男でしょ?」
「うん」
男女の認識はあるんだね。
「男と女の人がひとつの部屋に泊まるのはダメなんだ」
「昔、1回だけ師匠と泊ったよ?」
「家族はいいんだよ」
「師匠は家族じゃないよ?師匠は師匠だよ」
「そっか」
どうしようかな。
悩んでたら、ねえねえと控えめな声をかけられた。
「……あのね、ズルしたの」
「ん?なんのこと?」
「だって、なかったから……ゴメンナサイ」
「ホントになんのこと?」
くるまってる布団からちょこんと手を出して、俺のシャツを引張ってきた。
「怒った?」
「えっと、ズルってなに?」
そんな泣きそうな顔されても、許すもなにもサッパリなんだけど。
「これっ!」
「!!」
急にベッドの上に立ち上がり、ガバッと両手を広げた。
「コートなかった」
「ああ……とりあえず戻ろうね」
びっくりした、びっくりした!
急にモモンガみたいに布団を広げるなんて。
そうだね、部屋にコート掛けてなかったもんね。
違うよ? 裸じゃないからね!
下着着てたから!ちがうちがう!白いワンピースみたいなやつだから!
あれだよ、あれ。えっとタンクトップ?キャミソール?それにスカートがついてるやつね。
「……おこってる?」
「怒ってないよ。えらいね、ズルしたことちゃんと言えたね」
簀巻きに戻った彼女の頭を撫でてあげた。




