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死ねない二人は今日も死なない  作者: 松倉夜海
領都編

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20/32

ズル

いやいや。いやいやいや。

駄目でしょ、これは。どう考えても駄目でしょ。


「ここ、ここが破れた」


あ、今度は肩の方が破れたんだね。それも左右両方とも。

……そうじゃないでしょ。


「直して」

「いいけど、服は買おうね」

「直るのに?」

「またすぐ破れちゃうよ」


そもそも破れる前に用意しよう。

じゃなくて!


「ちょっと出てくるね」

「わかった」


受付にダッシュだ。

なんで部屋ひとつなわけ?どう見ても大人の男女だよ?配慮なさすぎじゃない?

買取屋は馬鹿なの?

別々に来たって知ってたでしょ?たまたま居合わせただけだって。俺が巻き込まれただけだって、巻き込んだのは買取屋なんだから知ってて当然じゃん。なのにひと部屋?


「はあ?」


語尾の上がった「はあ?」だ。それはもう、おもいっきり不満気に。


「部屋がない?あんな立派な部屋じゃなくていいんだよ?どんな部屋でもいいんだけど!」

「明日は領主祭ですので、他のお部屋も。本来なら、あのお部屋もご紹介がなければ……」

「まつり……ということは……他の宿屋も」

「おそらく」


難しいだろうね。

痛恨のミスだね。

いちいち祭の日なんて覚えてないよ!

買取屋は精一杯融通利かせてくれたんだね。無理矢理ねじ込んだね、このひと部屋も。

ありがたいね、申し訳ないね。


……どうしよう。






一応ノックをする。まあ返事がないのはわかってるんだけど。

「直して」

簀巻きの彼女がいた。





大丈夫、あの時の糸はまだ残ってる。

芋虫状態で、もぞもぞと動いて近づいてくるから、こっちからも近づいて、見やすいようにしてあげる。


「あのね……部屋がね、ないんだよ」

「?ここは?」

「えっとさ……ここしかないんだよね?」

「ある」


そうだよねぇ。あるよね。


「俺と君で、ひとつの部屋しかないんだけど」

「うん」

「うんじゃなくて……困るよね?」

「なんで?」


あー……困らないのか。困ったね。


「俺が困る」

「大丈夫!ベッド2つある。一人ひとつ、ある」


ツインでよかった、とはならないよ?


「えっとね……君は俺のこと知らないでしょ?」

「しってる」

「そうだね。うーんと、そんなに知らないでしょ?」

「知ってるよ?雷魔法で死ななくて服が直せて、クッキーくれる人」


いや?最後は違うよ?


「君は女の子でしょ?」

「うん」

「俺は男でしょ?」

「うん」


男女の認識はあるんだね。


「男と女の人がひとつの部屋に泊まるのはダメなんだ」

「昔、1回だけ師匠と泊ったよ?」

「家族はいいんだよ」

「師匠は家族じゃないよ?師匠は師匠だよ」

「そっか」


どうしようかな。

悩んでたら、ねえねえと控えめな声をかけられた。


「……あのね、ズルしたの」

「ん?なんのこと?」

「だって、なかったから……ゴメンナサイ」

「ホントになんのこと?」


くるまってる布団からちょこんと手を出して、俺のシャツを引張ってきた。


「怒った?」

「えっと、ズルってなに?」


そんな泣きそうな顔されても、許すもなにもサッパリなんだけど。


「これっ!」

「!!」


急にベッドの上に立ち上がり、ガバッと両手を広げた。


「コートなかった」

「ああ……とりあえず戻ろうね」


びっくりした、びっくりした!

急にモモンガみたいに布団を広げるなんて。

そうだね、部屋にコート掛けてなかったもんね。


違うよ? 裸じゃないからね!

下着着てたから!ちがうちがう!白いワンピースみたいなやつだから!

あれだよ、あれ。えっとタンクトップ?キャミソール?それにスカートがついてるやつね。


「……おこってる?」

「怒ってないよ。えらいね、ズルしたことちゃんと言えたね」




簀巻きに戻った彼女の頭を撫でてあげた。






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