男の過去編 5/5
男の過去編最後です。
お疲れさまでした。
一人いなくなったところで終わりはしない。
ご丁寧に下にいる上官にまでも届くほどの剣でとどめを刺すように何本も刺さっている。
しかしもう動かない役立たずには誰も見向きもせずに争いは続いていく。
地面をたたき続けていた雨粒がその場で止まり、音が消える。厚い雲で覆われていた空から一筋の光が漏れる。
その光が地上につくと同時に、そこまでたしかになにもなかったのに、輝かしい光が人の形をかたどった。
見たこともないほど美しく輝く布は濡れて荒れた地面の上を通っているのに汚れひとつつかない。
「……なんということを」
男とも、女とも聞こえる声でそれは呟く。
「地球からの落ち人をこのように扱うなど。我は――」
無数の刃物が刺さっている背中を見て、袖で隠されていた指をすいっとあげる。
男の背中から刃物が消えた。
もう一度指を振ると、今度は傷口までも消えた。
だがそれだけ。呼吸も心臓が動くこともない。
それは男から周りに顔を向け見渡す。
今まさに剣を振り下ろそうとしている者。魔法があと少しで当たるようになっている者。重なり合って、動かないもの。雨で流しきれないほどの赤い色。
眉根が寄ったわけでもない。
溜息を落としたわけでもない。
ただ眼に諦めが浮かんだ。
今度は指を鳴らす。
すると先ほどまでの凄惨な場所ではなく、その昔、神話の時代、神々が愛しんだと言われる花畑へと男とともに移った。
「死ぬことは許さぬ。許されぬ」
ただの物体となっている男に手を添え、念じる。
止まっていた鼓動が動きはじめる。胸は上下し、開いた口からは息が吐き出された。
それは男から手を離し、ひとつ頷いた。
そして来た時と同じように光の筋とともに天へと帰っていった。
雲の切れ間が閉じると止まっていた元居た場所の止まっていた雨粒は、当たり前の日常へと降り注ぐ。
誰も気が付かないまま男が消えただけで、途切れた時間は流れていった。




