男の過去編 4/5
言われたところに大きな炎を投げる。大量の水で押し流す。
そうしてるうちに相部屋から一人部屋になった。ベッドも藁じゃない。布だ。スプリングはないけどね。横になる以外することがないからよかった。
貫頭衣からシャツとズボンになったのも随分前だ。
そして今、えらく派手な服をあてがわれた。邪魔な飾りのついた詰襟に、折り目が綺麗についたパンツ。そして真っ白なシャツ。
その白は目の奥が痛くなったので、突き返して、いつもの生成りのシャツに詰襟を着たら呆れられた。
大勢の人の前に立つよう言われ、言われるままに動くと、隣に阿部さんがいた。
阿部さんもなんかひらひらした服を着せられている。
「いつも治してくれてありがとね」
最近会える時はいつもバタバタしていて、ちゃんとお礼を言うこともできなかったから、ここぞとばかりに小声で言う。
「……だいじょうぶ?」
阿部さんが泣きそうな顔をして聞くから、頷いた。
「手順覚えてないけど、石で動かしてもらうよう言ってるから問題ないよ」
「そ、……じゃなくて」
「怪我のこと?阿部さんがいつも治してくれてるじゃん。大丈夫じゃないことなんてないよ」
阿部さんはうつむいたまま何も言わなかった。
緊張してるのかな。
王様が直々に褒めてくれるんだって。緊張するのは仕方がない。
でもどうせ褒めた後にまた、違うところへ行けって言うんだよ。
阿部さんは休ませてあげてほしいな。
きれいな格好してきれいに散髪してるけど、三好さんにしてもらってた方が好きだったな。そういえば火魔法を貸せって言われてたな。ドライヤーとコテ作るって。あれどうなったんだろ。できたのかな?途中でやめて悪いことしちゃったな。ずっと見てないけど元気かな。
個室に移ってから阿部さん以外見てないな、そういえば。まあいいけど。
上手に跪いて、頭を下げて、戻った。
段取り覚えなくても石で動かしてくれるから楽だね。
そしてやっぱり違うところへ行くことになった。
言われたことを言われたままにすればいい。
それでいつもと変わらないはずだったのに、今回はちょっと面倒臭いかも。
直属の上官、つまり自分の石を持つ奴が面倒臭い。できないことをやらせようとする。命令されたこと全部できるわけじゃない。
「敵の魔法兵を殲滅させろ」
「方法は?」
「それぐらい自分で考えろ」
「ではあちらに突っ込んできますね」
そんなやり取りをして慌てて周りから止められて撤回。そんなことが何度もあって面倒臭い。
嵐が直撃した。
進軍か、撤退か、維持か。
どうするとも、なにをするとも言われないまま時間が過ぎていき雨足だけが強くなる。
闇討ちには最適な夜。
今にも吹き飛ばされそうだった天幕が、とうとう吹き飛ばされたと同時だった。
四方から飛んでくる魔法。
「わ、私を守れっ」
あーあ、やっちゃったねぇ。言われたからにはやりますよ。上官を抱えてその場を脱出する。背中に無数の火の玉がぶつけられ、ナイフももう刺すところないほど刺さってる。
嫌がらせにせりあがってきた血を吐きかけてやった。ちょっと自分でも引くほど出たけど、後悔はしてない。
もう跳べない。
上官をかばうように覆いかぶさっていたら意識が薄れていく。
まあこんなもんだ。
生まれ変われるなら次は、今度こそは――。
雨の冷たさも、喧噪も、すべて消えた。




